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「僕の仕事はこの森の門番をすることなんだ。それは星も知ってるよね?」と澄くんは言った。
「え、ええ。そうね。もちろん知ってるわ」
なぜか胸を張って、星は答える。
その通りだ。もちろん知っている。葉山澄くんは、この真夜中の森で、一人暮らしをしながら、森の門番をしている、十六歳の孤独な少年なのだ。
「僕は森の門番として、星をこの真夜中の森の中に招き入れた責任がある。だから、改めてもう一度言うよ。星」澄くんは星の目をまっすぐに見て、熱い言葉で話をする。
「はい」と星は言う。
なんだか緊張する。まるでこれから澄くんに告白でもされるみたいだと星は思った。
実際にこのタイミングで澄くんに告白されたら、星はその告白をはい、と返事をして、(顔を赤くして、少しだけ恥じらいながら)受けると思う。(そう考えるだけで、星の心臓はどきどきしてくる)
……本当に告白されたらどうしよう?
……それから二人はどうなってしまうのか? やっぱり(きちんと口と口で)キスをするのだろうか?
そしたら私は、森で結婚式をあげて、森で澄くんと二人っきりで(もちろん、海を街に連れて帰ってからの話だ)生活するのだろうか? それとも普通に街で二人で暮らすのだろうか? 澄くんは私の知っている街に、この森から出て、一緒に来てくれるだろうか?
子供は一人だろうか?
それとも、やっぱり二人くらいは欲しい、かな?
それに、お金は大丈夫だろうか? 澄くんは生活力があるから、いっそのこと私が働いたほうがいいだろうか?
星は街での二人の生活をあれこれと空想する。(星はにやにやしている)
それから星は、次に澄くんとの森での生活(中世のころの、中欧の国での生活ような)を空想する。二人は羊を飼いながら、木を切ったり、洗濯をしたり、今みたいに夜に二人で食事をしたりしている。星の空想の中で、二人は(いつも)とても幸せそうに笑っている。
それも悪くないかもしれない。
どちらでも良い。
澄くんがいてくれれば、それでいい。
星は思う。
……。
……、
……まあ、実際にはどれもないとは思う(わかっている)けどね。
「僕も一緒についていくよ。それが星をこの家から(森に)外に出す、僕からの条件だ」
少し時間をかけて、(だから星は空想ができた)言葉に力をためてから、澄くんはそう言って、にっこりと笑う。
本当に嬉しそうな、子供っぽい、夏のひまわりみたいな笑顔だ。
その眩しい笑顔に、星はくらくらとして、なんだか思わず、澄くんのすべてを受け入れて(自分のすべてを許して)しまいそうになる。
……危ない。危ない。




