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「それは……、今はうまく言葉にできないの。でも、それでも無理して言葉にするとしたら、それは、これから成長していく過程で私が、きちんと私の理想とする『本田星』(山田海ではなくて)になれること……、かな?」
星はそう言って、てへっと舌を出して作り笑いをする。
星はふざけているように見えるが、(半分くらいは冗談だよ、と言った感じで星は話しているが)実は、その言葉は星にとって、とても大切な言葉であり、とても真剣な言葉だった。
(本田星は、その夢を(本当は)もうすでに叶えている。でも、それを本人が(まだ)認識していないだけなのだ。なので、あとはそのことを星が、星のこれからの人生において、現実の行動として、証明すればいいだけの話だった。その事実に魚も、それから澄くんも、なんとなくだけど、気がついていた)
「なるほどね」
澄くんはそんな星の言葉を聞いて、本当に納得したように、何度も何度も、(なるほどと言いながら)深く頷いていた。
それから、澄くんは食事の手を止めて、なにかを深く考え始めた。
「澄くん、どうかしたの?」
そう話しかけても澄くんは返事をしてくれない。
あれこれと目線や指の先を(へんてこな形に)動かしながら、……考えを続けている。
そんなへんてこな? 行動をする澄くんを見て、どうしたんだろう? と思い、星はなんだか心配になる。
(実際に星は眉を八の字にして、心配そうな顔で澄くんを見ている)
『澄が変なのは、いつも通りなんじゃないの?」
星の思考を読み取り、魚がちゃちゃを入れてきたが、大切な話の最中なので(あと少し前から、『ある理由によって』、星は魚の言葉を無視し続けていたので)星はそれを無視した。
魚も自分の言葉が無視されることをわかっていたのか、あまり気にしていない様子だ。
星はそんなへんてこな澄くんを見ながら、新鮮なしゃきしゃきのサラダ(これも美味しい)を食べて、パスタを食べた。
「星」しばらくして、澄くんが言う。
「え! は、はい」
急に澄くんが真面目な顔と、真面目な声で、そう言ったので、星の背筋は思わずぴんと伸びてしまった。
木製のフォークを置くと、星はナプキンで自分の口元を綺麗に拭いた。




