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 澄くんの腕の中で、なんだかとても優しい時間だ、と星は思った。

「ねえ澄くん。……手を握ってくれない?」

 二人で椅子に戻りながら星は、澄くんにそんなことをお願いをする。

「手? ……もちろん構わないけど、でも僕たちの手は今、両方とも塞がっているよ?」

 それは澄くんの言う通りだった。

 星は白くて四角いものを両手で持っているし、澄くんは両手でしっかりと星の体を支えていた。

「私の体は、支えなくってもいいからさ」

 星は澄くんにそう提案する。

「でも……、星は今、転びそうになったばっかりだよ?」

 いろんな理由をつけて、澄くんは星の手をなかなか握ろうとはしてくれない。

 私の体は、(あるいは、心の中にある目には見えない透明な星の手は、もうしっかりと握ってくれているのに)あんなに簡単に、しかも、しっかりとキャッチしてくれたのに、私の手を澄くんは(なぜか)簡単には握ってはくれないのだ。

 そのことを星はとても不満に思った。


「……じゃあ、もういいわ」

 星は澄くんから離れて一人で椅子に(なるべく元気よく)座った。

 それを見て澄くんも席に戻って、自分の椅子に(ゆっくりと)腰を下ろした。


 星は手にしたものをテーブルの上においた。

 それは小さな小型のラジオだった。

 真っ白なラジオ。

 銀色のアンテナはあるけど伸ばさない。(伸ばしても意味がないことは確かめてある。この森の中ではラジオの電波を受信することができないのだ)

 その代わりに星はカセットテープのスイッチを押した。

 このラジオにはカセットテープレコーダーを聞く機能が搭載されていた。カセットテープも事前にラジオの中にセットしてあった。

 カセットテープがゆっくりと回転を初めて、音楽を奏で始めた。

 それは星の一番のお気に入りの曲だった。

(それは海の一番好きな曲でもあった)

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