184 第七幕 ……私どうして泣いているんだろう? もう泣かないって、決めたのに。
第七幕
開演 ……私どうして泣いているんだろう? もう泣かないって、決めたのに。
「澄くんはピアノが弾けるの?」と星は澄くんに聞いた。
「……少しだけね」と澄くんは言った。
そう星が聞いたのは、ピアノがとても綺麗なままの状態で、きちんと維持されていたからだ。このピアノ自体は澄くんの前の森の門番の人の持ち物らしいけど、この状態に(一年間も)ピアノを維持できるのなら、ある程度、ピアノの知識があるのだろうし、もしそうなら、澄くんもきっと、このピアノをたまに弾いたりしているのではないかと予想したのだ。
(星にも少しだけピアノの知識があった。それは実家の習いごとの一つだったのだけど、星はすぐに挫折してしまった)
「私もピアノは弾けるのよ。でも、すごく簡単な曲しか弾けないの。きらきら星とか」と星は言った。その星の言葉に、僕も同じようなものだよ、と澄くんは答えた。
星は澄くんになにか曲を(簡単なものでいいから)弾いて欲しいとお願いした。でも、澄くんは人に聞かせるような腕前じゃないから、と言って、そのお願いは断られてしまった。
その代わり、澄くんは古いレコードを一枚選んで、そのレコードを古いレコーダーに丁寧にセットして、針を落として、星に聞かせてくれた。
曲は古い外国の歌で、外国の男性の人が歌っていた。その曲はとても良い曲だったけど、星はその曲のことを今の今まで一度も聞いたことがなかった。(そのことを星は残念に思った)
星は曲の説明を澄くんに求めたけど、澄くんもレコードの曲の詳しい説明は知らないということだった。このレコードやレコードの再生機も前任者の人の持ち物だということだった。
星はジャケットを見せてもらい、そこに書かれている英語の文章を読んで、ほんの触りだけ、この曲とこの曲を歌っている人の情報を得ることができた。
そのジャケットには大きく『Requiem』(レクイエム)の文字があった。それがこの曲の題名なのだろう。
曲が終わると、澄くんはレコードを慎重にしまって、レコードの再生機を元の状態に戻した。二人はコーヒーのセットを流しで洗ってから元の場所に戻して、澄くんは薪ストーブの火を鉄の小さなスコップが先についた棒を使って、しっかりと消した。それから澄くんはランプの明かりを消して、二人は地下の食堂をあとにした。
(食堂を出る際に、澄くんは鍵束にある大きな鍵(玄関を開けたものと同じ鍵)を使って食堂のドアに鍵をかけた。入るときは鍵を使わなかったから、(なにかの理由で)事前に鍵を開けていたのだろう、と星は思った)




