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今、このときに、この場所で君とすれ違ったとしたら、君は僕の存在に気がついてくれるだろうか? ……僕は君の存在に気がつくことができるだろうか?
薄暗い廊下には電話があった。(驚いたことに澄くんの住んでいる小屋の廊下には、なぜか電話が置いてあった。電話は木製の台座の上に乗っている)とてもレトロな形をしたダイヤル式の黒い電話だ。
それはちょうど、薄い暗闇の中にある、廊下の真ん中に置かれていた。左右の部屋のドアとドアの間、大きな部屋から廊下に出るドアの真向かいの場所に、その電話はあった。
電話線もきちんと天井に向かって伸びている。(この家の周囲には電信柱もなにもないのに、この線はどこに向かって伸びているのだろう?)
星は興味本位で、(本当はよくないことだけど)黒電話の受話器をとって、それを自分の耳に当てて、それから、そのダイヤルを適当に何度か回してみた。……繋がらない。(ダイヤルを回しても、電話はどこにも通じなかった。でも、ぷーぷー、という音はする。この電話はきちんと生きているのだ)それから星は今度は自分の実家の電話番号を回してみた。……やっぱり、電話は繋がらない。
星は受話器を元の場所に戻した。すると、(薄い暗闇の中で)がちゃん、という少し大きな音がした。
誰かが澄くんに(もしくはこの家に)電話をかけてくることがあるのだろうか? それとも、ただのオブジェとして(花瓶や絵画のように)この場所にこの電話はそっと置かれているのだろうか? 星には(もちろん)答えはわからない。だからその答えを、あとで澄くんに聞いてみようと星は思った。
それから星はドアを開けて、星が一番最初にこの家の中で訪れた場所である、大きな部屋の中に移動した。
澄くんがいると思われる右の部屋のドアを星は勝手に開けたり(ノックしたり)はしなかった。もし仮に、その部屋に澄くんがいなくて、代わりに部屋の中に青猫だけがいたら、(そしてなにかの合図で青猫が星に向かって飛びかかってきたりしたら)猫嫌いの星は、どうしたら良いのかわからなくなってしまうからだ。




