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『大丈夫。澄は今、この家の中にはいないよ』
「え? そうなの?」
思わず星は自分の右斜め上の空中に目を向ける。(そこに魚はいないのだけど、もしいたとしたら、魚はいつもその場所にいる)
『澄は水を汲みに川に行っているよ。さっきまではずっと君に付きっきりで看病していたんだけどね。目覚めるタイミングが惜しかったね(まあ、僕が声をかけたんだけどね)』
言葉の後半部分(看病のところ)は魚なりの星へのサービスだった。澄くんが星のことをずっと看病していたという事実を隠したりしないで(別に言わなくても良かったのだけど)魚はきちんと最初から、どこかのタイミングで星にそれを話すつもりだった。
「澄くんが? 私を?」
『そうだよ。もちろん、これも嘘じゃない。僕は嘘がつけないからね』魚が言う。
それを聞いた星は本当に嬉しそうな顔をする。
そして、その顔を見た魚はそれを話したことを、やっぱり(こうなることは、わかっていた)少しだけ、後悔した。
「……私、疲れたから、もうちょっとだけ横になるね」
そう言って(満足そうな表情をした)星は姿勢良くベットの上で横になると、らくだ色の毛布の中に、(顔の上半分だけを外に出した状態で)潜り込んだ。
魚は本当はもう少し(せっかく澄がいないのだから)星とおしゃべりがしたかったのだけど、星は本当に疲れていたので、(熱も下がり切ったわけではない。気を失って、倒れたばかりだというのに、星はまた無理をしているのだろう)すぐにその意識を失い、深い眠りの中に落ちていった。
それを確認して、魚も再び、暗い闇の底に戻っていった。
ぽちゃん、という魚の跳ねる音が、ぱちぱちという暖炉の火の燃える音しかしない静かな部屋の中に、(そして魚の帰って行った静寂の闇の中に)やけにはっきりと響いて聞こえた。




