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 走り続ける星は周囲の変化に驚いた。

 ……森が枯れていく。

 星の視界の先では、丸い懐中電灯の光の中で、次々と星の周囲にある森の木々が緑色の葉を失い、赤色や黄色の色に変化しながら、雨と混ざり合って、暗い大地の上に覆い被さるようにして、散っていく。

 それは、とても不可思議な(そして不気味な)光景だった。

 ……海。あなたの仕業なの?

 魚に質問するまでもない。その答えは星にはもうわかっている。

 ……こんな不思議なことができるのは、魔女しかいない。その枯れていく森の先に海がいることは明白だった。

 枯れた木々は奇しくも、まるで森の中の抜け道のような(人が走るためのコースのような)構造になり、逃げていった海の逃走経路を星に教えてくれていた。それだけではなく、暗い(本当に真っ暗だ。しかも雨が降っている)森の中で、海を追いかけて走る星にとっては、それはとても、ありがたい現象だった。(森の木々には申し訳ないことだけど……)


 星は森の中を全速力で駆け抜けた。

 恐怖よりも、寒さよりも、好奇心よりも、なによりもすべてにおいて海を思う心が勝っていた。

 星は森の中を走る。その速度は、ほとんど陸上のコースを走っているときと変わらない。(森の中で、その速度は本来ならありえないくらい速いスピードだった)

 しかし、調子が悪いのか、本来、森の中を走ることはそれくらい困難なことなのか、もしくは自分を追ってくる人がいるなんて考えてもいなかったのか、先に森の中に逃げ込んだ海の走る速度はそれほど速い速度ではなかった。

 なので走る星の視界の先にある丸い懐中電灯の光の中に少しして、白い服をきた海の後ろ姿が照らし出されるようになった。

 その光によって、後ろを振り返った海は、自分を追ってくる星の存在に気がついて、とてもびっくりしたようで、(その見慣れた表情で海が驚いたことがすぐにわかった)すぐに前を向くと、その走る速度を一気にあげた。

 速い。(さすが海だ。でも逃がさない)星はそう思うのと同時に、速度をさらにあげた。

 星は光の中に海の背中を見る。

 その走りかたは、美しいランニングフォームは、星から見れば、確かに海の(肉食獣のようなしなやかな肉体を持った星の見慣れた、星の憧れた)走りかたそのものだった。

 その走りかたを見て、星の心がずきっと傷んだ。

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