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誰も欲しがらない最弱迷宮に転生しましたが、戦わず育てていたら気づけば行列のできるダンジョンになっていました  作者: 久留トガ


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第11話 進化の連鎖


 ルクスが加わってから数日、今度はゴウルの様子に変化が現れた。


 体が、これまでよりも一回り大きくなり始めていた。皮膚の質感も、心なしか硬質に変わっていく。


「ゴウル、大丈夫か?」


「なんか、からだが、あつい」


 声には不安の色がなかった。むしろ、体の内側から何かが込み上げてくるのを、面白がっているような響きすらあった。俺はゴウルのそばに膝をつき、様子を注意深く観察した。皮膚の下で、何かがゆっくりと再構築されているような、そんな感覚が伝わってくる。


 苦しそうな素振りはない。むしろ、力が漲っていくような、そんな様子だった。俺は迷宮の知識を頼りに、この現象の正体を探った。


 バドとシズも、心配そうにゴウルを取り囲んでいた。小隊のリーダーに何かあれば、真っ先に動揺するのは当然のことだろう。二体とも、普段のやり取りでは気丈に振る舞っているが、こういう時にこそ、群れとしての結束の強さが見える気がした。


 ルクスも、少し離れた場所から、じっとゴウルの様子を見つめていた。生まれたばかりの新参者ながら、既に群れの一員としての自覚が芽生え始めているのかもしれない。


「お前も、心配してくれてるのか」


 ルクスは、答える代わりに、静かに頭を垂れた。生まれてまだ間もないというのに、群れの誰かを気にかける仕草を、既に自然と身につけている。核由来という特別な出自が、こうした情の深さにも影響しているのだろうか。


 考えても答えの出ない疑問だったが、少なくとも、ルクスがこの群れに馴染んでくれていることだけは、確かな喜びだった。


「大丈夫だ、多分。危険な感じじゃない。むしろ、なんか良い方向に向かってる気がするな」


 根拠のない太鼓判だったが、口にした瞬間、なぜか確信めいたものが胸の内にあった。迷宮主として、従魔たちの状態を漠然と把握できる感覚が、少しずつ研ぎ澄まされてきているのかもしれない。


---


 進化――ゴブリンという種族が、一定の個体ランクに達した際に起こる、姿形の変化らしい。


```

【鑑定】

種族:ホブゴブリン

個体ランク:E

攻撃:24 防御:22 素早さ:15

```


 数値も、種族名も、明確に変わっていた。体格が増し、簡素な武装だった得物も、心なしか硬質な光沢を帯びている。


 ゴウルの顔つきも、以前とはどこか違って見えた。幼さの残る表情から、確かな落ち着きを湛えた面構えへ。姿形の変化は、内面の成長までも映し出しているようだった。


「見違えたな、本当に」


 俺が思わずそう漏らすと、ゴウルは照れくさそうに、それでいて誇らしげに、体を大きく反らせてみせた。バドとシズも、興奮を隠しきれない様子でその周りを取り囲んでいる。


「見た目も数字も、両方変わるのか。派手なもんだな」


 これが、迷宮の知識にあった「顕現」という現象なのだろう。地道な積み重ねが、目に見える形で報われる、そんな瞬間だった。


 ゴウルの得物も、以前は単なる木の棒に近いものだったはずが、今では硬質な光沢を帯びた、立派な棍棒のような姿になっている。武具まで一緒に変化するとは、俺自身も予想していなかった。


「装備まで変わるとはな。次はどこまで変わるんだか」


 迷宮の知識によれば、従魔の魔力が高まるにつれて、身にまとう物にもその影響が及ぶことがあるという。だとすれば、この先、他の従魔たちの持ち物にも、同じような変化が起こるかもしれない。


---


「ゴウル、すごい、おおきくなった」


 スラトが、はしゃぐようにゴウルの周りを跳ね回った。バドとシズも、リーダーの変化を、誇らしげな様子で見守っている。


「わたしも、いつか、しんかする?」


 スラトの問いに、俺は少し考えてから答えた。


「多分な。お前も、これだけ頑張ってるんだから、いつかその時が来るはずだ。焦らず、じっくりいこう」


「たのしみ」


 スラトが、期待に満ちた様子で体を弾ませた。その無邪気な喜びように、俺もつられて頬が緩んだ。進化という現象が、恐れるものではなく、待ち望むべき出来事として、この迷宮にはすっかり根付いているようだった。


「これで、小隊もさらに頼もしくなったな。本当によく頑張ってくれた」


「ぬしの、おかげ。ほんとうに」


 ゴウルの言葉に、俺は首を横に振った。


「俺は、ただ様子を見て、必要なものを与えてただけだ。伸びたのは、お前自身の頑張りだよ」


 照れくさそうに、ゴウルは視線を逸らした。その仕草一つにも、以前にはなかった余裕のようなものが見て取れた。


「でも、ぬしがいなかったら、そもそも、いきてなかった」


 その一言に、俺は少し面食らった。ゴウルが、これほどはっきりと自分の気持ちを言葉にするのは、珍しいことだった。


 思えば、最初にゴウルを見つけた時は、傷だらけで、言葉どころか、こちらを警戒することしかできない状態だった。それが今では、自分の気持ちを言葉にできるまでになっている。数値の伸びだけでなく、こうした心の成長もまた、地道な積み重ねの成果なのだろう。


「大げさだな、お前も」


「おおげさじゃない。ほんとのこと」


 バドとシズも、静かに頷いていた。誰かに感謝されるというのは、何度経験しても慣れないものらしい。


「そういえば、バドとシズも、そろそろ何か変化がありそうだな」


 俺がそう口にすると、二体は互いに顔を見合わせた。


「まだ分からないが、可能性はあると思うぞ。ゴウルがこれだけ変わったんだ、お前らにも同じことが起きても不思議じゃない」


 バドが、俄然やる気を漲らせたように、大きく胸を張り、力こぶを作るような仕草を見せた。シズも、静かにではあるが、こくりと頷いて意欲を示している。


「はりきりすぎて、怪我するなよ」


 バドは、応えるようにもう一度胸を叩いてみせた。単純明快な性分も、この小隊にとっては貴重な色合いの一つだった。


 シズは、バドとは対照的に、静かに弓の手入れを始めていた。派手さはないが、着実に自分のやり方で備えを進める姿勢は、いかにも彼らしい。


「シズも、頑張ってるんだな」


 シズは、こちらを一瞥すると、小さく頭を下げるような仕草を見せた。多くを語らないが、その所作だけで十分に意志が伝わってくる。


 考えてみれば、この小隊は、誰一人として似たタイプがいない。ゴウルの落ち着き、バドの明るさ、シズの寡黙さ。それぞれが違う色を持ちながら、一つの群れとして機能している。地道な観察を続けてきた甲斐があったと、俺は密かに満足していた。


---


 迷宮ステータスにも、着実な変化が現れていた。


```

【迷宮ステータス】

名称:(未設定)

ランク:F(↑昇格間近)

迷宮ポイント:38

```


「ランクアップも、もうすぐそこまで来てるな」


 誰にも見向きもされなかった迷宮が、着実にその評価を塗り替えつつあった。ルクスも、ゴウルの変化をじっと見つめていた。


 振り返れば、この迷宮に来てから、驚くほど多くのことが変わった。最初はスライム一体すら生み出すのに手探りだったのに、今では八体の従魔が、それぞれの形で成長を重ねている。地道な積み重ねが、こうして目に見える結果として返ってくるのは、何度経験しても嬉しいものだった。


「みんな、思ってた以上に頑張ってくれてるな」


 誰にともなく呟くと、ゴウルが静かに頷いた。


「ぬしが、まず、がんばってた」


 照れくさい言葉だったが、悪い気はしなかった。誰かに認められるというのは、こんなにも心強いものなのかと、あらためて思い知らされた。


「お前も、いつか進化するのか?」


 ルクスは、答える代わりに、静かに目を細めた。まだ見ぬその姿を想像しながら、俺は小さく笑みを浮かべた。いつか来るその日を、今から楽しみに待っていようと思った。


 ゴウルの進化を皮切りに、この迷宮は、また新しい局面を迎えようとしている。子スライムたちの分化、ゴブリン小隊の連携、そしてルクスという規格外の存在。積み重ねてきたものが、ここへ来て一気に花開き始めている感覚があった。


 夜、八体それぞれの寝顔――というほど分かりやすい表情はないが、それに近い穏やかな気配を眺めながら、俺は今後の展望をぼんやりと思い描いた。この調子で成長が続けば、いずれ迷宮のランクも、もう一段上がるかもしれない。そうなれば、また新しい課題も出てくるだろう。


 だが、今はまだ、目の前の八体と向き合うことだけを考えていたかった。先のことを心配しすぎるより、今この時間を大切にする方が、性に合っている気がした。


「次は、誰の番だろうな。楽しみでもあり、少し怖くもあるな」


 誰にともなく呟いた言葉に、八体それぞれが、思い思いの仕草で応えた。地道な一歩が、少しずつ、確かな未来へと繋がっていく――そんな手応えが、確かにそこにあった。



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