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白蓮の紋

 宿場町は、半分壊れていた。


 倒れた屋台。


 割れた水瓶。


 逃げ惑う人々。


 そして中央では、

 一人の男が暴れている。


 黒い“ケ”が、

 煙みたいに噴き出していた。


 化蟲化。


 しかもかなり進行している。


 だがわらびの視線は、

 その男ではなく。


 白装束の少女へ向いていた。


 銀髪。


 白い瞳。


 腰には細い鍼筒。


 袖には、

 白蓮の紋。


「……主蟲」


 少女は、

 よしろを見ていた。


 殺気が重い。


 まるで、

 化蟲を見る目だった。


「誰だよあんた」


 わらびが前へ出る。


 少女は静かに答えた。


「清浄局第三隊、

 花蓮」


 白い袖が揺れる。


「その主蟲を処分します」


「イヤケ」


 キュッ。


「いてっ!」


 わらびが腹を押さえる。


「お前このタイミングで!?」


 よしろは花蓮を睨んでいた。


 仮面が、

 かたかたと不穏に揺れる。


 ガンジが小さく舌打ちした。


「いきなり面倒なの来たな」

「知ってんのか?」

「清浄局だ」


 ガンジの目が細くなる。


「化蟲を“浄化”する連中だよ」


 花蓮は感情を見せない。


 ただ静かに、

 よしろへ鍼を向けていた。


「主蟲は化蟲を呼ぶ」

「放置は危険です」


 わらびが眉をひそめる。


「……よしろは暴れてねぇだろ」

「今は、です」


 その時。


 どごぉっ!!


 化蟲化した男が、

 建物を吹き飛ばした。


 黒い感情が噴き出す。


 怒り。


 恐怖。


 憎悪。


 宿場町の空気が濁っていく。


「ケが濃いケ……」


 よしろの声が、

 少し震える。


 花蓮は即座に動いた。


 パシュッ!!


 白い鍼が飛ぶ。


 男の肩へ突き刺さる。


 次の瞬間。


 ぶわりと白い光が広がった。


 わらびの目が見開く。


「浄化鍼……!」


 男の身体から、

 黒い“ケ”が引き剥がされていく。


 だが。


「ああああああっ!!」


 男の悲鳴が響いた。


 わらびの顔色が変わる。


「おい!」


「化蟲化が進みすぎています」


 花蓮は冷静だった。


「もう戻りません」


 男の腹が裂けるみたいに膨らむ。


 ずるり。


 巨大な黒い内蟲が這い出た。


 完全化蟲。


 六本腕。


 黒い腹。


 歪んだ顔。


 人の怒りだけで膨れ上がった怪物。


 周囲が悲鳴を上げる。


 しかし花蓮は迷わない。


 白鍼を構える。


「ここで消します」


「待て!!」


 わらびが叫ぶ。


 花蓮の目が動く。


「まだ間に合う!」

「化蟲ですよ」

「だからだ!」


 わらびは前へ飛び出した。


 黒い感情が流れ込む。


 苦しい。


 悔しい。


 誰も助けてくれなかった。


 そんな感情が、

 腹を殴る。


 だがわらびは、

 真正面から化蟲を見る。


「……辛かったんだな」


 花蓮の表情が、

 初めてわずかに揺れた。


「よしろ!」

「たべるケ!!」


 ポンポコポン!!


 よしろが虫化する。


 帯腕が解け、

 白い六本腕が広がった。


 花蓮の目が見開く。


「白い……?」


 よしろは化蟲へ飛びつき、

 黒い“ケ”を噛みちぎる。


 ずるり。


 怒りが引き剥がされていく。


 わらびは毫鍼を構えた。


「落ち着け」


 腹へ刺す。


 流れを整える。


 怒りを止める。


 黒い感情が、

 少しずつほどけていった。


 やがて。


 化蟲は、

 小さな内蟲へ戻る。


 男は泣きながら崩れ落ちた。


「……おれ、何を……」


 静寂。


 風だけが吹いていた。


 花蓮は、

 じっとよしろを見ていた。


 白い主蟲。


 化蟲を喰らう存在。


 そして。


 その隣で、

 当たり前みたいに立っているわらび。


「……ありえない」


 小さな声だった。


 だがその目からは、

 さっきまでの断定が少し消えていた。


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