腹の鳴る店
少年は、泣きながら飯を食っていた。
「腹減る……っ」
ぐちゃ、ぐちゃ、と白飯を掻き込む。
噛んでいる。
飲み込んでいる。
それでも止まらない。
「まだ腹減るぅ……!!」
母親が泣きながら椀を差し出す。
父親は青ざめた顔で立ち尽くしていた。
「朝からずっとなんです……!」
「食っても食っても止まらねぇんだ……!」
囲炉裏の熱気。
湿った雨の匂い。
そして。
少年の腹。
そこへ。
白い虫が巻きついていた。
小さな口を、
きゅるきゅる鳴らしながら。
「……腹の虫が立ってる」
戸口から声がした。
振り返る。
そこには、
薄汚れた作務衣の少年が立っていた。
歳は十五、六。
ぼさついた黒髪。
腰には細い鍼筒。
そして隣には――
「おなかすいたケ」
白い髪。
赤い目。
頭の横には、
虫みたいな仮面。
妙な少女が、
団子を食っていた。
「お前さっき食ったろ」
「もうへったケ」
「どうなってんだその腹」
きゅるっ♪
同時に、
作務衣の少年の腹が鳴る。
「……なんで俺の腹まで鳴るんだよ」
「つながってるケ」
「便利みたいに言うな」
村人達は呆然としていた。
「わ、わらび先生……」
「先生じゃねぇよ」
わらびは少年の前へしゃがみ込む。
白飯を掻き込む手。
震える肩。
涙。
そして腹へ巻きつく、
白い内蟲。
「……腹減ってんのは、
お前じゃないな」
よしろの仮面が、
かたん、と揺れた。
「いるケ」
わらびは腰の管鍼筒へ手を伸ばす。
細い毫鍼。
雨の日みたいに冷たい光が、
鍼先へ滲んでいた。
「暴れんなよ」
その瞬間。
少年の腹から、
白い虫がこちらを見た。
きゅるるるる……
わらびの腹が、
嫌な音を立てる。
腹が鳴る。
まるで、
感情が流れ込んでくるみたいに。
「……腹、減ってるな」
飢え。
孤独。
寒さ。
そんな感情が、
わらびの腹を掻き回していた。
外では、
山雨が静かに降り続いている。
その村の山奥に、
古びた漢方薬店――
『御園堂』はあった。




