第33話 初戦の行方
「ふっ!」
「っ!」
俺が放ったその一発は、今までの拳と比べるとだいぶ遅かった。
しかしその分、威力は絶大だった。
ドォン
避けたが最後、衝撃波が後方へと伝わっていく。
幸い、観客席までは届かなかった。別に殺戮の限りを尽くしたいわけじゃないからな。
「どうした、受け止めてみせろよ」
「……っ、いーよやったげる」
渾身の二発目を繰り出す。大体八割くらいって力加減だ。機甲だともっと威力出るんだろうな。
しかし、生身と言えどこの力加減で人を殴るのは初めてだった。
「ひ、ひ~。手が痺れる~」
「……マジか」
二発目は、異能に喰われた。あれほど込めた力が、どこへやら、霧散してしまう。
「これで全部?」
「いや、まだまだだ」
3発目、4発目と数を重ねていくも、その全ての勢いを打ち消される。
やべ、なんか楽しくなってきた。
「ひとつ考えたんだけどよぉ~」
「……?」
「この攻撃を喰らってるのならよ」
俺は一際強めの一撃を放つ。
勢いよく相手の手のひらに収まった拳が、勢いを失って止まる。
「吐くまで喰わせたらどうなんだろうな!」
「……っ!」
攻撃を連撃に切り替える。
もちろん一発一発の質は落とさないように。
「おらぁ!」
わざと受け止められる速度で、拳を交互に打ち出す。
「……」
「どうした?つらいのか?」
「君はほんとバカだね」
「何分、バカで向こう見ずなところが取り柄でね」
「まったく……本当に……」
ふらりと、相手の身体が揺れる。
その瞬間、俺の全身の毛は逆立ち、戦闘本能がレッドアラートで警告してきた。
俺は思わず後ろにステップした。
しかし避けるまでもなかった。
なぜなら相手がそれを、俺に向けてではなく、真上、空に向けて放ったからだ。
ズドォォォォン
遅れて衝撃波が砂埃を巻き込んで襲いかかってくる。
空を見上げれば、曇天だった雲たちを貫き、陽の光が差し込んできている。
「へへっ、へ、ふぅ……」
その空に向けた攻撃をうち終わった相手は、ぽすんと地面に身体を投げ出した。
「まいった、私の負けだ」
「……勝者、アステリア学園!」
ただならぬ喧騒が、競技場を埋め尽くす。
それはアステリア学園の勝ち抜けを祝うものであったり、
ランク5に勝った無名の俺を称えるものだったり、
そして今の謎の一撃についての動揺だったりした。
しかし勝ちは勝ちだ。
「……なぜ俺に向けて撃たなかった」
「ははっ、私を殺人鬼にするつもり?君を殺す気はないし、君が耐えれたとしても後ろの観客はどうなるのよ」
「そうか……」
「これで、私の異能の全容が見えた?」
「ああ、攻撃を喰らい、溜めた分だけ強くなる攻撃を放つ」
「そのとおりだよ」
「でも一つ疑問なんだが、なんで暴食って呼ばれてるんだ?」
「ああ、それは簡単な話だよ」
そう言いながら、ポケットから飴を取り出して口に放り込む。
「私がよく食べるからだね」
「なんだよ!異能関係ないのかよ!」
「だってかっこいいじゃん、二つ名って」
「まあそれは……否定はしないが」
なんたって俺も、心は男の子なものだからな。
「じゃあね。無名のセナちゃん」
「また戦おう。暴食の樹梨」
俺達は握手をして、そして俺を待つ学園の皆の方へと、戻っていったのだった。
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「やったっす!初戦突破っすよ!」
「さすがです、セナさん。あのランク5に勝つとは」
「まあ、なにが勝ちかわからないけどな」
自信を持って勝ったと言えないほどに、最後の一撃は印象深いものとなっていた。
もしあの攻撃が自分に向いていて、無遠慮に最高火力で撃たれていたら……。そう思うと、背筋にぞくりと悪寒が走るのだ。
「まあでも勝ちは勝ちだよ。ルール上で勝ってさえいればいいんだ」
小春ちゃんのいうとおりだ。
今の俺達には、一つでも多くの勝利が必要なんだ。
「さぁ次も手堅い学園相手です。油断せずにいきましょう」
「次も勝つっす!」
「私はまだ20手もの武器を隠し持っている」
「ああ、次も勝ちにいくぞ!」
アステリア学園の皆で円陣と組み、それぞれ思い思いの言葉で気合いを入れ直す。
さあ、2回戦も突破といこうじゃないか。
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「あれ~?ハクちゃんここにいたんだね」
「樹梨、おかえり」
「おい、目があったのに存在を消すな」
「ちぇっ、まあそうだよね。ハクちゃんがいたら牙門くんもいるよね」
ガラス張りの部屋で、樹梨と牙門は、お互いに向き合った。
「どうだった、あのやろうは」
「ありえないくらいに強かったよ」
袖を目元にやって、ヨヨヨと泣いた真似をする樹梨。
「ランク5最弱の私じゃ受け切るので精一杯」
「なぜだ」
「なにが?」
「なぜ最初から反撃の力を使わなかった」
「……」
「最初の小手調べのときから使っていれば、やつに有効打をあてられていたはずだ」
「なるほど。牙門くんは私が手を抜いてたって言いたいんだ」
棒付きキャンディーを手でくるくると弄びながら、樹梨は言葉を続ける。
「逆に聞くけど、アレに有効打を与えられてたと思う?」
「……なに?」
「わかんないかなぁ」
樹梨は包み紙を器用に開いて、ふらふらと暇そうにしてるハクの口に突っ込んだ。
「まあわからないか。君には」
「ムカつくこと言ってくれるじゃねえか」
「だって君、自分より強いか弱いかの2極でしか人を見れないじゃん」
「……」
「そう考えてるうちじゃ無理だよ」
「さすがは最年長のランク5サマだ」
「……皇とは一ヶ月しか違わないもん」
そう呟いて、今度は自分の口に、どこからともなく取り出したクッキーを突っ込み始めた。
「あの子はまだ何か隠してるよ」
「そのくらいはわかってる」
牙門は拳を握りしめる。
「次に会うときが楽しみだ」
「あくまで模擬戦なんだから、ほどほどにしなよ~、って聞いてなさそうだな」
樹梨はやれやれと首を振ってから、クッキーを噛み砕いた。




