第13話 ランク5連盟
とある都市のとある場所。その一つの部屋に一同は集められていた。
円状に配置された机と椅子は、あくまでその部屋の者たちに地位の差はないという創設者の意思の現れなのだろう。
部屋には4人の男女が座って、各々のことをしながら主催者を待っている。
大ぶりのナイフをきれいな布で手入れする者。
電話であちこちとやりとりしながら書類と向き合う者。
持ち込んだ駄菓子を机に広げて、舌鼓を打つ者。
スマホを覗き込んで、気味の悪い笑みを浮かべる者。
そんな彼らのもとに待ち人が現れる。
「すまない!待たせてしまったね」
扉をあけたのは金髪を短めに切りそろえた美女。きっちりと制服を着こなしている。
そしてその後ろに連れられてきたのは、赤髪を二つ結びにした女の子。名を朱音と言う。
「渋滞に巻き込まれてしまってね。では早速だが始めよう」
こうして会は幕を開ける。日本の誇る5人のランク5探索者たちによる、緊急会議が。
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「御託はいい。本題に入ろうじゃねえか」
「せっかくの客人もいることだし、そうした方が良いだろうね」
「ふむ、まずはいつもの報告からと思ったけれど……」
主催は顎に手を当ててしばらく考える。
「まあ二人がそういうのであれば、今日の本題に入ろうか」
部屋のプロジェクターが起動し、あるニュース記事を映し出す。
全身鎧の存在、推定リビングアーマーが門の外に飛び立っていった記事だ。
「今回集まってもらったのは外でもない。この存在について議論したいからだ」
「議論?そんな余地あるのか?」
「どういうことだい」
男は手に持つナイフをきらめかせながら、刃先を主催の方へと向けた。
「ダンジョン産のモンスターは全部殺す。当たり前のことだろ?」
「しかし今回、いや今回だけではない。同存在と思えるリビングアーマーに助けられた男だっているんだ」
「関係ねえな」
「ちょっといいかな」
駄菓子を頬張っていた女が手を挙げる。
「敵性存在だ、モンスターだって決めつけるのは早計じゃないかな。その説明のために、ウチの主催は彼女を呼んだんでしょ?」
「ちっうるせえな大食い女」
「誰が大食いだって!?別に太ってるわけでもないしカロリー計算もしてるんだからね!」
「まあまあ落ち着いて。彼女の言う通り、朱音ちゃんの話を聞いてから判断しようじゃないか」
そう言って主催の女は朱音に発言を促す。
ランク5の前ということもあり緊張している面持ちの朱音は、ぐっとつばを飲み込み、言葉を発した。
「これは私が彼に助けられた話です」
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朱音の話が終わった後に訪れたのは、深い沈黙だった。
そのどれもが、あの全身鎧野郎をどう判断するかという考慮によるものだった。
「しゃらくせえ」
ナイフをしまった男に、先程まで黙っていたメガネの男が口を開く。
「落ち着きなよ。君の悪い癖だ。それに君はただ戦いたいだけだろ?」
「なっ!」
図星のようで男は黙ってしまった。
「朱音さんの証言により分かったこと。それは高度な知能を持ち合わせ、日本語による発言、感情を有するということ」
メガネの男は続けてプロジェクターで映し出された資料を指さす。
「そして……不死身」
朱音からの目撃証言には、フロアボスと戦った際の頭と身体の分離まで含まれていた。
「一つ聞きたいことが。そのフロアボスの容姿に心当たりがある者は」
再び沈黙が会議室を満たす。
「皆ないな、私もだ」
メガネの男は着席しなおして、再び書類に目を通し始めた。
「未知のフロアボスに打ち勝つやつが門の外に……」
「だからしゃらくせえって言ってんだ」
ダンっと大きな音を立てて、男がテーブルを叩く。
「ここでくっちゃべってても埒が明かねぇ。俺は俺なりのやり方でやつを見つけて、そんでもってぶっ倒してやる」
「ああ、ちょっと待ちなよ」
「うるせぇオトコオンナ!俺は俺なりの尺度で動いてんだ。邪魔するな」
「まあそうは言うけどねぇ」
主催の引き止めも虚しく、男は荒々しく会議室から出ていってしまった。
「まあ、私も彼の意見には賛成ですよ。脅威であることに違いない。見つけ次第捕獲、あるいは撃破……となるでしょう」
「ウチも賛成かな。まあ簡単に言ってくれるとはおもうけどね」
「ふむ。まあこうなることはわかりきっていたことだけど……」
主催は結論を出す。
「僕たちランク5連盟は、謎のリビングアーマーを敵性存在と断定。捕獲あるいは撃破することに決定する」
異論がないことを示すかのように、沈黙が場を支配する。
「よし、それじゃあ解散だ。集まってくれてありがとう」
メガネの男は書類を手早くまとめ、駄菓子を広げていた女も雑に袋にしまって、退出していく。
部屋には、主催の女と朱音のみが残された。
「あ、あの、私もそろそろ」
「待って。ひとついいかな」
女は手早くタブレットを操作すると、一つの録画画面を見せた。
「この子に見覚えがあったりするかい?」
「……?いえ、ありません。こんな綺麗な銀髪の子を見たら忘れるとは思いませんが」
「そうかい。ありがとう。じゃあ下まで送るよ」
そうして主催の女は朱音を先導し、タクシーに乗るところまで見送った。
タクシーが見えなくなるまで礼をした後、顔を上げる。そこには、先程まで浮かべていた軽薄な笑みはなかった。
タブレットの画面を操作し、もう一つの録画画面を見つめる。
そこには、先程みせた銀髪の少女がこそこそと物陰に移動する姿と、その後、その物陰から謎のリビングアーマーが飛び出てくる様子がばっちりと映っていた。
「ふふふ、朱音さんはどうやら知らない様子。口止めの必要はない、か」
銀髪の少女の姿をスワイプして大きくする。
「まったく、かわいいだけじゃないなんて、卑怯じゃないか」
女は、再び笑みを浮かべながら、そう呟いた。




