第12話 あれ、俺
「ん、んあぁ?」
最初に口から出たのは、そんな言葉だった。
ぼーっとする意識をはっきりさせる。
「……っ!」
慌てて辺りの様子を確認する。赤髪の子は?俺はどれだけ意識を失っていた?
「おい!大丈夫か!」
土埃を払って立ち上がった瞬間、ゴロンと何かが転がり落ちる。
「……ん?」
否、転がり落ちたのは俺だ。
いや、俺が俺から転がり落ちて……
「ひっ」
転がったのは、俺の首だ。立ち上がった首無し機甲が、こちらに近づいてくる。どうすればいいのか知っているとでもいうかのように。
そしておもむろに転がっている俺の首を拾い上げ、ぽっかり空いた頭の部分に、まるでプラモデルかのように押し付ける。
瞬間、紫色の光が辺りを包みこみ、ドクンと大きく鼓動を感じる。
「ま、まさか。今ので治ったのか?」
首をぐりぐりと動かしてみれば、違和感なく動く。身体に多少の疲労感を感じるが、頭から指先にいたるまで問題なく動いている。
発光の様子からしてマナクリスタル由来の能力なのか?
「……俺って、なんなんだ」
ちょっと強い人程度にまだ考えていた。しかし、一度切断された首がつながるだなんて、人でないにもほどがある。
あらためて、自分が人間でなくなったことを認識させられた。
「いや、そんなこと今はあとまわしだ。大丈夫か!」
「うぅ……」
部屋の隅にうずくまる人影を見つけてほっとする。
「おい、しっかりしろ!」
「あ、足が……」
「……診るぞ」
みるとくるぶしの辺りが紫色に変色し、パンパンに腫れ上がっている。
「急ぐぞ」
「うん、おねがい」
俺は再び抱きかかえ、出口であろう方向にめがけてブースターに点火する。
一刻を争う状況だ。俺が何であろうと構わない。
この1人の命を救えるのであれば。
<=>
「……マジか。マジかマジだ!」
あてもわからずに数十分飛び回り続けた頃、ようやく見つけた。
「おい!見つけたぞ!門だ!」
「うぅ……本当に?」
「ああ!後少しだ、踏ん張れよ」
やがて門へと到達し、通り抜ける。そこには――
「総員!警戒!」
ざっと音を立てて銃をこちらに向ける兵士たち。
「莉子会長!ダメっす!」
「女なら誰しも、行かねばならない時があるんです!」
「だとしても今じゃないっす!」
装備に身を包んだ莉子会長と必死に止める紬ちゃん。
そして――
「嘘……」
大粒の涙を流しながら、俺の腕の中に抱えられた子を見つめる女の子の姿があった。
「ミッションコンプリートだ」
俺はそう呟きながら、赤髪の子をそっと下ろす。
兵士たちを刺激しないように、そしてなにより、けが人をいたわるように。
さて、と。やりたいことは終わったんだが、困ったことに今の俺は機甲の姿だ。このままダンジョンに戻ってもいいが、入退場記録が取られている以上少女の姿で出てくるわけにもいかない。
そうだ、せっかくだし、これを機に
「空に羽ばたいてみるかぁ」
赤髪の子から距離をとって、そして莉子会長たちを目配せでどかす。
「さぁて、行きますか」
ブースター点火、最大出力。荷物がないから、何も機にせずに思いっきり吹かすことができるというものだ。
加速は一瞬だった。
兵士たちの上を飛び越え、なおも飛び続ける。
「なっ……!正門を閉じろぉ!」
兵士たちの指揮官らしき人物の叫びは虚しく、俺のスピードを前に扉を閉じることは叶わなかった。
「さて、適当なとこで変身するかね」
そうぼやきながら、俺は門のある建物から飛び立った。
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「まったくどうしてそういうところで思い切りが良いんすか!」
「まぁまぁ、紬ちゃんどうどう」
「ムキーっ!」
無事にアステリア学園に帰った俺を迎えたのは、ご立腹な紬ちゃんだった。
「おかげで大変なことになってるっすよ!?」
「どれどれ、謎の機甲逃走中。情報求むねぇ」
「メディアも警察も動いてるっす、もう終わりっす」
「なぁに、そう簡単にバレねえって」
俺は自分の胸に手を当てて、胸をそらして自慢そうに言う。
「誰があの機甲の中身がこんな銀髪ロリだと思う?」
「まあ、そこに関してはそうっすけど……」
紬ちゃんはチョップの形でぽんと頭に手を乗せてくる。
「情報社会を舐めない方が良いっす。いずれバレるっすよ」
「なぁに、その時は莉子会長が上手くなんとかしてくれるさ」
「あのですねぇ」
奥の部屋から莉子会長が出てきて、紬ちゃんの真似をしてチョップしてくる。
「私は別に権力を持ってるわけじゃないですよ?学園に関することなら多少権限があるだけで」
「そこをなんとかしてくれるって信じてるぜ」
「はぁ……」
ため息を吐いた莉子会長は、そっと俺の背に手を回す。それが抱きしめているのだと気づくのが少し遅れた。
「とにかく、無事に帰ってきてくれてありがとうございます」
「お、おう」
莉子会長特有の匂いが鼻腔を満たす。というか身長差のせいでちょっと犯罪だな。見た目は美少女二人かもしれないが。
「本当に……良かったです」
そうか、莉子会長は身内をダンジョン内で失っているから、今回の俺も同じ目に会うのではと考えていたのかもしれない。あの門を抜けた時にみた必死な莉子会長は、俺を失いたくない一心でダンジョンに入ろうとしていたわけだ。
「モガモガもが」
「えっ?なんです?」
「モガモガぷはぁ、窒息するから力緩めてくれ」
「ああ、すみません」
うん、何がとは言わないがたわわだね。お陰で息が苦しかったよ。
「それより紬ちゃん、あの子、結局どうなったんだ」
「セナちゃんが助けた子っすか?それなら……」
しばらく端末をカタカタとして、一つの記事を出してくる。
「無事も無事っす。最先端の医療機関で厳重調査っすけど」
「それは変遷で生き残ったからか?」
「それもあるっす。あとは謎のリビングアーマーへの接触も……」
「ああ……そういう」
俺を病原体を運ぶ何かだと思ってるのか?いや、未知の存在相手だとそれくらい警戒するべきなのか。
「しかし、無事でよかった。だいぶ腫れてたからな」
「結構ギリギリだったみたいっすよ。詳しくは難しいのでわからないっすけど、切断も視野に入る症状だったらしいっす」
「切断……。間に合ってほんとによかった」
うんうん。ほんとにな。
「なあところでさ」
「なにっすか」
「この記事に、なんかとんでもないのが書かれてる気がするんだけど」
「そうっすね。おめでとうっす」
記事には、救われた少女の身分が書かれていた。
「救われたのは、探索者で知らぬ人はいない超大手企業、朱雀商会の一人娘、朱音ちゃんっす」
「なるほど?」
これはこれは、もしかしてすごい恩を売るチャンスをのがしてしまったのでは?
「こんなときに適した言葉があるっすよ」
そういってビシっとラノベのタイトルを指さしてくる紬ちゃん。俺は言われるがままに、その部分を読み上げた。
「俺、なんかしちゃいました?」




