川の字
直人は大家さんが気になって仕方がない。所作がいちいちキレイだから。
思い切って聞いてみようと。
「大家さんはおひとりで管理されてるんですか?」
「あ。はい。祖父から譲り受けた以上誰かを雇って管理してもらおうとは。思いませんね」
「お祖父様がお好きなのですか?」
「嫌いなわけ無いでしょ。変な質問だね」
「(笑い)そうですね。いつかは祖父のような立派な人間にと。思う頃がありました。大家をしていると不労所得に見られますが、住まわれてる方から頂戴している管理費を有効活用させていただき毎日見回りと修繕箇所をレベルごとに分けて管理しているんですよ」
「ごめんなさい。変な質問しちゃって。ちゃんと管理されてるんですね。管理費がお給料みたいなものですか?」
「それでも私ひとりでは出来ないことは、専門の業者さんにお願いしてますよ。畳の張替えやサッシの交換やガスなどは。何年かすれば、全面塗装もしないといけないので。管理費をお給料。そうですね。そう考えると気が楽かも」
そう。外堀からと変な質問をしていた。本当は。
「あの。所作がとてもキレイな大家さんに質問です。ソーサーを手にしたままカップを近づける。そんな人は母以外で見たことありませんでした。お家の影響ですか?」
「ありがとうございます。初めてみた人は大体驚かれます。カップ片手に飲むのが一般的なのだと大学に入った時に知りました。自然と身についていたみたいですね。なので家の流儀だったのかもしれません」
「聡志さんも時々左手の甲を受け皿みたいにして食べるけどなんだか似てるね」
「そう?あまり気にしてなかったな。こんな感じ?」
利き手の反対側の手の甲を使って食べる仕草。
「そうそう。お上品って感じで好き」
「そう?」
「わかります。素敵ですよね」
ふたりから褒められて鼻息荒め。
「今日はなおとさんお泊りするの?」
「はい。あっでも寝るのは別ですよ。今日はぼくがソファーで」
「こら。そういうのは」
「大家さんも泊まります?」
「え?いや。あの」
「困るようなこと言うんじゃありません」
「もしよければ。あの。着替え取ってきてもいいですか?」
「え。ああ。はい」
すくっと立ち上がり大家さんは一度戻る。
一礼したあとの顔にかかった髪をかきあげる仕草にふたりは目が離せない。
「いいけど。なおとくんは良かったの?」
「一応流れとして聞いただけなんだけど」
「いや、別に構わないよ。でも、どこに寝てもらおうかな」
「ベッドで川の字になる?真ん中に聡志さんで」
「オレが真ん中?え?」
インターホンが鳴る。大家さんだ。上目遣いで見ている。
「んん。どうぞ開けましたお入りください」
「再度でこんばんわ。おじゃまします」
まぁお邪魔かもしれない。
ただ、いつもと違う人と遅くまで話せるのは楽しいことではあるが。
「シャワー浴びてきたので少し遅くなりました」
髪は乾いているはずなのにしっとりとした黒い長い髪。妙な色気を感じる。
思わずふたりは喉を鳴らす。
「お似合いですね」
なにがだ
「えへへ。うれしい」
嬉しいんか
「そうだ。映画でも見ませんか?」
ソファに男3人座る。
左からなおと、聡志、大家さんの順。
なおとは勝手知ったる部屋と胸を張り飲み物と菓子を用意する。
しかし、なおとはまだ2回目。勝手知ったるとまではいかず。お菓子入れのボウルを探すのに手間取る。見かねて聡志出動。
「こんなお菓子しかありませんが」
「おかまいなく」
ボウルには、羊羹のショートスティックと大福とスナック菓子。
あんこと乾いたスナック菓子。甘いのとしょっぱめで構成。
これは手が止まらなくなるやつである。
「映画何見るの?」
「ふたりはなにがいい?」
「ホラー以外でしたら」
「たしかに。じゃあ、定番のアクションものにしましょ」
パッケージで見て選ぶ。
映画が始まる。
ショットガン片手に戦うガンアクションだと思ったら戦う相手は、ゾンビ
ホラー。大家さんの顔色が悪い。しかし、お菓子を食べるスピードは落ちない。
直人は最初から聡志の左腕にしがみつく。
聡志も直人のふとももに手を置き、体温を感じ取る。
大家さん食べて気を紛らわすタイプなのか止まらない。
ゾンビを何度撃っても倒れないとうとうカメラに襲いかかる。
お菓子の入ったボウルを投げてしまい羊羹スティックが頭に落ちてくる。直接汚れないがあとから追いかけてボウルが落ちてくるのをコンマ1で考え思わず、直人と大家さんを庇うように頭を守る。
落ちてきたボウルは丸い部分から聡志の背中に落ちた。
「ぐえ。ったぁ」
「大丈夫ですか?ごめんなさい。痛いですよね。どこ打ちましたか?」
「だ。だいじょうb。一旦止めますね」
一歩間違えれば頭に当たり大怪我していただろうと。大家さん土下座して謝る。
最終的にボウルは、ソファの上に転がる。割れはしなく身に受けた聡志だけが心配である。
「ほんとうにだいじょうぶ。きにしないで」
「聡志さんちょっと脱衣所に行こう。怪我してないかみるから」
脱衣所なら裸になっても大丈夫だと連れ出す。
平謝りの大家さんに軽く手を挙げて挨拶。
「頭じゃないんだよね。じゃあ背中かな。あー赤くなってる。湿布はどこ?貼ろう」
甲斐甲斐しく世話をする。幸い、背中でも背骨や肩甲骨のような硬い骨の部分ではなく、比較的柔らかい脇の下あたりに落ちた。押してもさほど痛くない。
「このままお泊りするのは申し訳ないので帰ります」
「いやいや。それは別のこと。気にしないで。本当に」
「でも」
「大家さん。まだ帰らないで。今帰ったら、次にあう時に気まずくなっちゃう」
たしかに。聡志が良いというなら残るほうがわだかまりがなくてよい。
懸命にふたりで大家さんをとめる。
「映画はまた今度で。今日はこの辺で寝ましょうか」
ソファに当たり前のように寝ようとする聡志に。
「大家さんも聡志さんも一緒に寝る。いいね」
「ベッドがいくら大きくても3人は狭いだろ。寝返り打ちにくいだろうし」
「わたしはソファーでも構いませんよ」
「なおさら、客人をそのような場所では」
「譲り合ってても終わらないから3人で寝るの!決定事項!」
しかたなく3人で川の字になって寝ることに。
布団かぶってからも話は続き、ひとりまたひとりと寝落ちしてようやく就寝。
なにごともなく夜はふける。
真ん中の聡志が朝起きて朝食の準備。いつもの時間だ。
起き上がる時に真ん中にいるためなるべく起こさないように動くも揺れて大家さん起床。直人はまだ眠っている。揺れに強い。
「起こしちゃいましたか。すみません」
「いえ。いつもこれくらいで起きてるので。それより背中の具合は」
「大丈夫ですよ。丸い部分に当たったので」
運良く当たったのは確かである。
「わたしも手伝います。朝はいつもなにを?」
朝食の準備を手伝う。
味噌汁を作るのだが、一昨日購入してあったしじみを使う。
アルコールの分解を早めてくれるのだが、アルコールはほとんど口にしていない。単純にしじみの味噌汁が好きなだけ。それと乾燥の油揚げを一掴みして鍋に投入。ネギを細かく刻み後乗せように小鉢に入れる。ご飯は炊いておらず、食パンかゆでうどんで準備。味噌汁にゆでうどん1玉の4分の1を投入。少し大きめの茶碗にうどんと味噌汁で食すことも出来る。
「あの。食パンはトーストするんですか?」
「ええ。生のままでも構いませんよ」
「トーストに味噌汁は合うんですか?」
先日の直人と同じ質問。
バターと味噌は合う。味噌バターラーメンを思い出して欲しい。
二人の会話で、なんとなく目覚める。
「おはよう」
「顔洗っておいで。今日はどうする?ご飯?トースト?うどん?」
「ええと。前は、トーストだったから。うどんにしよかな」
「うどんね。じゃあ直ぐにできるからサッパリしておいで」
楽しそうに、鼻歌交じりに朝食の準備をする聡志。
それを見て大家さんもうきうきしながら手伝う。
「顔洗ってきた。なにか手伝う?」
「いいよ」
ハモッた。
少し疎外感を感じる。
「ハモっちゃいましたね。えへへ」
ふたりは顔を見合わせながら少し耳を赤くする。
「あのさ。大家さん。またこうして一緒にお泊り会したいんだけど」
ふたりが耳を赤くするのを見て先手を打つ。
「なおとさんは良いんですか?すごく楽しかったので。ふたりっきりの時間をわたしなんかがお邪魔しては」
「大家さんなら気にしませんよ」
心の内を心配する。
「うちで良ければいつでも。お世話になってますし。そうなればいつでも誰が来ても良いように部屋の片付けをしておきますよ」
「でも、聡志さんはぼくのだからね。ひとりで泊まりに来ちゃダメ。わかった?」
「誰のでもないんだけどねまだ」
「ツバは先に付けたから」
朝から少し面倒な会話になってしまった。
「そんなつもりはありませんよ。聡志さんは素敵な方ですが、人の恋路に土足で踏み荒らすようなことはしません」
胸にズキっと痛みが。
「ほんとまだなにもありませんけどね」
昨年11月2日に更新して以来止まってました。たぶん、11月ころに書いたものだと思います。着地点が見えずただダラダラと書いていたので更新すべきか悩み放置。続きを最近(26年5月頃)書き始めたので、ひとまず大家さん編を出しておこうと。
男女ともに艶のある人は一目置いてしまいますね。
またみてね




