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復讐の先


 それから数日後、帝都の街で起きた騒動は鎮静化の動きを見せ、街は静かな日常を取り戻しつつあった。


 騒ぎの元凶はレジスタンスと、それを裏で手を引いていたザイオンの仕業ということにされており、私達が起こした号外騒動は無かったことになっていた。



 そして、その舞台となった帝都の中心では——





「——いやだ!やめてくれ!死にたくないっ、死にたくない!!」



 レジスタンスとの結託が明らかになったザイオン・グランツが、国家反逆の罪で今まさに処刑される瞬間であった。


 その姿は元とはいえ伯爵の姿とはとても思えない、情けない姿であった。



「⋯⋯この期に及んで、なんとも醜い。」



 騎士団の面々すらも呆れて深いため息を吐く中、それでもザイオンは叫び散らす。



「そうだ、私は騙されたんだ、あの聖女崩れに!」



「⋯⋯助けてくれ、金なら、金ならいくらでも出せる!」



「⋯⋯ザイオン。」



 人々がその声に耳を傾けることすらやめる中、ギロチン台を見下ろす皇帝だけが静かに口を開く。



「⋯⋯へ、陛下。」



 縋るように声を上げるザイオンに、皇帝は鋭い視線を返す。





「喧しいぞ。」



 冷淡な最後通告が、短く突きつけられる。



「⋯⋯あ、ああ、あ⋯⋯。」



 抗いようのない絶望を突きつけられたザイオンの身体から、するすると力が抜けていく。



「⋯⋯⋯⋯。」



 そしてそんな姿を、遠く離れた城の窓からローラ・ギルバートは眺める。


 そして、彼女が深く目を閉じた瞬間にギロチンの刃は重力に従って落下する。



「⋯⋯あああぁぁぁぁぁぁぁぁ⋯⋯がぶっ!?」




「オオオオオオォォォォォォ!!」



 短く響く断末魔の直後に、民衆から歓声が上がる。


 国家にとって、そして民にとっての裏切り者が消えた日。


 それは奇しくも、私がかつて追放されたあの日の光景と重なって見えた。









 処刑の一部始終を見届けた私の心は、どこか静かであった。


 自業自得とはいえ、私を苦しめた人間が死んだ。


 スッキリしたような、もやもやしたような、そんな感情がありながらも、心は妙に落ち着いていた。



「⋯⋯⋯⋯ほんっと、最後まで醜い豚だったわね。」



 帝国を出て、静かな平原を歩く私は、大きく伸びをしてそう呟く。



「これで、復讐は終わった。ということでいいのか?」



 その背後から、アレスが眉を下げながらそんな問いを投げてくる。



「⋯⋯さあね。」



「⋯⋯⋯⋯?」


 私の答えに、アレスは不思議そうな顔を浮かべる。



「少なくとも一つ言えることは、これまでの敵とは別のものを相手にすることになる、って事ね。」



「レジスタンスか。」



 私の言葉を理解したアレスは、短くその答えを口にする。



「ええ、帝国への復讐、聖女としての復権、情報収集、何をするにしても彼らはきっと邪魔になる。」



 少なくとも今回の件で、私達はザイオンという協力者を破滅させた。


 これまでの牽制や無干渉とは明らかに違う、明確に敵対して、上回ってしまった。


 今回の件で、私達は明確に邪魔者になってしまったのだ。



「だからこれまで以上に働いてもらうわよ。」



 その問いかけに、アレスは深く首を縦に振って答える。



「ああ、守るための戦いならば、全力で戦おう。」



「よろしい、じゃあ早速逃げるわよ、なるべく遠くへ。」



 そして私達は怒号の響き渡る帝都に背を向けて、あてのない旅へと向かう。






———




 同時刻


 帝都から遠く離れたとある土地の地下。


 陽の光が通らない薄暗い大広間の中で、レジスタンスの幹部、ベロニカはつまらなそうに言葉を紡ぐ。



「いじょーが報告になります。」



 どこか不貞腐れたような、つまらなそうな態度で呟く彼女の言葉が大きな部屋に響く。


 彼女が見上げる先、そこにはポツンと部屋の中心に鎮座する玉座に腰掛ける一人の女性がいた。


 黒い髪を胸の辺りまで伸ばし、ローブを着崩した、たおやかな絶望を纏うその女性は静かに呟く。



「そう、分かったわ。下がって良いわ。」



 目の奥に深い影を湛えるその表情に、ベロニカはどこか納得のいっていないような表情を浮かべる。



「⋯⋯はーい。」



 それでも逆らう必要も、文句を言うほどの事でもないと踵を返してその場から立ち去ろうとする。


 しかし、その隣に立つ男は、その場から動こうとせずに口を開く。



「⋯⋯ちょっと待て。」



 そんな言葉を呟いたのは、ベロニカと同じくレジスタンスの幹部として名を連ねる男、バルタザールであった。



「⋯⋯何かしら?」



 男の言葉に、黒髪の女性は静かに問いを返す。



「今回の件、我々はザイオン・グランツという出資元を失い、アレス・イーリオスに撤退に追い込まれた。」



「⋯⋯ええ、さっき聞いたわ。」



 男の鋭い視線を、女性は退屈そうに受け流す。



「レジスタンスとして、何一つ国家に影響を与えられなかったわけだが、なぜそれで満足している?いや、むしろこうなる事を読んだ上で我々を動かしたように見える。」



「⋯⋯⋯⋯。」



 そして投げかけられる問いと予測に、女性は一言も発することなく、口元だけを釣り上げた貼り付けたような笑みだけを返す。



「一体なにが目的だ?」



 そして沈黙を破り、殺気すらも混じった問いかけに、女性は目を閉じて鼻を鳴らした後、ゆっくりと開いた目で彼を眺める。



「影響を与えられなかった、は間違いよ。ギルバート家とグランツ家、実質二つの伯爵家を機能不全にしてる時点で充分。」



 どこか感情の抜け落ちた声が静かに響く。



「それに、安全と思われていた帝都の城下町で貴方達が大暴れして逃げてこれたのも大きい。」



「帝国の国防と軍事力に疑問を持たせるには十分過ぎる打撃だったわ。」



「この事実はの布石にちょうどいい。」



 指折り一つ、二つと繰り返しながら、最後にそれをパッと開いて彼女は再びバルタザールに視線を返す。



「それに、何より出資元は彼だけじゃないし。」



「⋯⋯本当に食えない女だ。」



 女性の回答にどこかつまらなそうに踵を返す男バルタザールに、女性は瞼を閉じながら一つ、口を開く。



「⋯⋯ただ一つ、本当に想定外なのは彼女・・だけね。」



 ぽろりとこぼれ落ちた一言に、バルタザールはその足を止めて振り返る。



「ルシア・カトリーナか。」



「ええ、アレス・イーリオスの強さは織り込み済み。だけど、彼女が盤面を掻き乱すと必ずこちらの計算が狂う。」



 それまで無感情だった彼女の表情は、そんな言葉の直後に妖しく黒い輝きを灯す。



「——本命・・の前に、消しておきましょうか。」


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