独りよがり
水中に飛び込んだ私の身体に、重く強い振動が響く。
どうやらあっちも、かなり無茶苦茶してるらしい。
「バーンメテオ!!」
そんな私の思考を切り裂くように、ローラの詠唱が響き渡る。
「⋯⋯ッ!!」
一瞬遅れて、水面から炎を纏った巨大な岩石が降り注ぐ。
水の中なら彼女の得意な炎魔法は防げる、とたかを括っていたが、すぐに対処してきたようだ。
発狂しているようで、冷静さは欠いていない。こういう妙なみみっちさが本当に厄介だ。
「ラスティ・ネイル!」
私は誘導されるがままに水面から飛び出ると、間髪入れずに牽制の一撃を放つ。
「⋯⋯っ!」
しかし、それは読まれていたようで、ピンポイントに極小サイズで展開された魔法障壁に阻まれる。
「バーンドロップ!」
そして間髪入れずに追撃が飛んでくる。
「⋯⋯っ、ああもう!」
波のように迫る炎の壁に手を伸ばし、私は全身を覆うように障壁を展開する。
薄く広く展開された障壁は瞬く間に亀裂が入り、その隙間から灼熱が漏れ出る。
「⋯⋯あっ、つい⋯⋯わね!」
私は強引に体を捻りながら距離を取って攻撃を逸らす。
地面を転がりながら体勢を立て直すと、睨み合うように互いの動きが止まる。
「⋯⋯⋯⋯。」
分かってはいたが、やはりやり辛い。
魔法障壁は広く展開すればするほど、面積あたりの耐久性は低下する。
故に、広範囲を焼き尽くす彼女の魔法を防ぐには、同等以上の魔力量を要求される。
魔力の絶対値の低い私には、絶望的に相性が悪い相手と言える。
「⋯⋯どうしようかしら。」
あちらは私のラスティ・ネイルを警戒して距離を取っている上に反応も悪くない。
連戦に寝不足、さらに作戦後の疲労が残る今の私には攻略の糸口が見えない。
だから、攻略の糸口はこちらから掴みにいくしかない。
「⋯⋯随分と余裕無いわね。なんかあった?」
白々しくもその神経を逆撫でするような口調で、私は鼻を鳴らして出方を見る。
「⋯⋯っ!!」
直後、彼女を中心に炎の魔力が周囲に迸る。
「お前が、お前が殺したんだろ!!」
噴き上がる怒りが、そのまま殺意として私に向けられる。
「姉上だけじゃ無い、モルドレットも⋯⋯⋯⋯お前は私から全部奪うんだ!」
「⋯⋯莫迦ね。」
モルドレットを攻撃したのが本当に私なら、彼女の治療なんかするわけがない。
そんなことにすら頭が回らないような状態なのだろう。
一度思い込んでしまえば、そうにしか見えなくなる気持ちは分かる。それでも、私は彼女の発言に妙な違和感を覚える。
情報不足でも、思い込みでもない、彼女の発言には、それらとは違う何かが欠けているような気がした。
「絶対に許さない、私のものは、もう何も奪わせない!」
激昂する彼女の言葉を、私は黙って聞き届ける。
「私は伯爵の娘なんだ!私は聖女なんだ!アンタみたいなドブネズミとは違うんだっ!!」
「⋯⋯⋯⋯あっそ。」
その瞬間、私は理解した。
彼女に足りていないモノ、そして、私が苛立っていた理由を。
——この女は、この期に及んで自分の立場しか考えていないのだ。
「⋯⋯⋯⋯。」
苛立ちを通り越して、呆れにまで達した私は、一度思考をリセットするために、深く息を吐き出す。
「⋯⋯ほんっとに、アンタは初めて会った時からずっと自分勝手ね。」
ローラ・ギルバートを破滅させることも、嫌がらせも、もう充分できた。
このまま放置しているだけで、私の復讐はきっと果たされるだろう。
だからここから先は、本当に私のわがままだ。
意味のない戦いなのだ。
それでも私は、こいつを叩き潰したいのだ。
「その根性、叩き直してあげる。」
そんな宣言と共に、私は指先をローラへと突き立てる。




