Story.98【三魔族同盟】
日が沈み、大森林は橙色に染まる。
灯篭の輝きが周囲を照らし始める夕方まで宴会の準備が進められた。
料理の腕前が群を抜くサクラを筆頭に食事当番が忙しなく大広場に食事を運ぶ。
そしてその料理の数を軽く凌駕する程の大量の酒を持って来るデルフィノームとその部下達。
里の酒蔵にこれだけの酒の数無かったと思うんだけど?
一体何処に隠し持っていたのやら…
「おう、ヨウ。ビオニアとの話は済んだのか?」
「とっくにな。今まで里の中をざっくり案内してた所だよ」
「ほ~。んで? その鉄仮面は何処行ったんだ?」
「あぁ、案内してる最中にムックとアグーラムに捕まってな。今頃、戦闘について質問攻めにあってるよ」
とくにムックはビオニアに少なからずの憧れの念を抱いているみたいで、キラキラした目でビオニアに詰め寄っていた。
敵対する間柄でなくなったとは言え、あのビオニアを質問攻めにするとは、ムックは結構大物なのかもしれない。
ビオニアも珍しく困った様子で俺に助けを求めて来たが、友好を深める意味でもここで余計な仲裁を入れるのは良くない。
俺はそそくさとその場から逃げ―――離れた。
因みにアグーラムはムックのお目付け役で、何かあった時の制止役として付き合っているらしい。
「デルフィノーム。幾らか良い酒が有ったら残しといてくれ。ムックに付き合ってくれてるビオニアにやって頂戴……」
「あー……おう」
何か言いたそうなデルフィノームだったが、面倒臭いのか軽い返答で承諾した。
大きな酒樽を抱え、食事が並ぶ大広間に向かった。
大広間に入るデルフィノームと入れ違いになる様にして、今度はサクラが俺の許に駆け寄って来た。
「ヨウ様。間も無く宴会の準備が整いますよ」
「おう! 楽しみだなぁ。ここ最近で一番上手い晩飯になるぞ~!」
「まぁ、ヨウ様ったら。フフフッ」
俺が両腕を天に掲げて全身全霊で喜びの声を上げると、サクラから笑みが零れた。
この笑顔が見られたのは実に何時ぶりだろうか。
サクラ達と出会って間もないが、共に過ごす時間は紛れまなく積み重なっている。
昨日より今日、今日より明日になれば、更にサクラ達を大事に思えるだろう。
それを感じられるのが、今の俺の幸せだ。
「そう言えば、怪我の方はもう大丈夫か?」
「あ、はい。ゼラとビオラのお陰でもうすっかりと!」
そう言いながら、小さな力こぶを作って見せるサクラ。
全然こぶが出来てないが、元気なのは間違いなさそうだ。
「そうか。本当に良かった…」
「―――あの、ヨウ様?」
「……うん?」
サクラの全快に安堵した俺に、サクラが少し控えめな様子で話しかける。
その神妙な面持ちから、俺は何となく彼女の言い出そうとしている内容を把握出来ていた。
―――これは多分、ビオニアとの一対一勝負の件だな……
「此度の戦での私の失態に対し、謝罪をさせて頂きたいのです」
「あー…」
案の定だ。
サクラがビオニア戦以降、少し様子が可笑しい事は知ってた。
と言うのも、一番サクラを理解している存在―――兄であるグウェンから遠回しに聞かされていたのもある。
勿論、俺自身もサクラの事は気にかけていた。
―――と、言うか
「謝られるような事なんて何一つ無い。未熟だった俺の失態だ。その所為でサクラにも怪我を負わせちまった……」
「いえ、それは―――」
だからこうやって、サクラが謝ってくるような事があったら、俺は言ってやるつもりだった。
「だから、これで終わりだ! 俺もサクラに怪我を負わせて悪かったし、サクラも今回の戦いで思う所がある。お互いに相手に謝意が有るんだから、お互い様って事でな?」
「ヨウ様…」
「ほら。いつまでも罪悪感残しっ放しで過ごすのもしんどいだろ?」
「は、はい!」
「な?」
「ヨウ様。ありがとうございます!」
ようやくサクラが何時も通りの笑顔を見せてくれた。
これから、色んな苦しみを乗り越えて集った同盟を祝した宴が始まるのだ。
胸がつかえたままでは喜びも半減だ。
「それより祝宴の料理。期待してるぞ!」
「はい!」
満面の笑みで宴会場に戻って行くサクラの背を見送り、俺は一番星が輝く夜空を見上げた。
「今日は記念すべき日だな」
最強の三魔将が手を結び生まれ、四方国の中央に位置する大森林の同盟。
その前代未聞の同盟が締結した―――
「あ。同盟の名前どうしよう」
三魔将同盟? 三種族同盟? 鬼蛇馬同盟?
「宴会まで時間あるし、考えるか」
俺は宴会の始まりまでの時間潰しに、少しの間頭を捻らせた。
――――――――――――
―――――――――
――――――
日は沈みきった。
代わりに煌々と輝く満月が大森林を照らす。
それに加えて、大森林の一角―――鬼人族の里内は松明や提灯で更に明るく照らされていた。
深い森の中とは言萌えない程の賑わい。
宴会の始まりを告げる音頭もまだなのに、既に数名の魔族達が酒に酔って踊り回る。
今日と言う記念すべき日に浮足立って、音頭が待てない様子だ。
その気持ちは分かる。
俺も酒の入ったジョッキを手渡されたら勢いで飲み干してしまいそうな気分だからな。
けど、今はまだ我慢我慢……
酒飲み欲求に悩まされる中、次々と宴会場に仲間達が集う。
デルフィノーム率いる鬼人族。
ユリオス率いる女蛇族。
ビオニア率いる数多の魔族の精鋭達が集結する北方連合軍。
「流石にこんだけの魔族が一堂に会したら里が狭く感じるな」
「そ、そうだな…」
「それにしても……この椅子何なの?」
「おう! 良い出来だろ?」
興が乗ったのか即席で盟主専用の玉座を手作りしたグウェンに問い掛ける。
手先の器用さに余程の自信があるのか、得意気に手作りの玉座を俺に差し出す。
恐る恐る腰かけてみると、確かに即席にしては上出来だ。
「いや~。今まで怪力の所為でこういう手作業がなかなか上手く行かなかったんだが、今は思い通りに力を使い分けられるから楽しくてしょうがねぇよ!」
「そりゃあ良かったな」
意外と手芸とか得意なのかも…?
グウェンの意外な一面を知った最中、皆に酒の入ったジョッキが行き渡った。
「ヨウ様。準備が整いました」
「おう!」
俺はジョッキを片手に、玉座から立ち上がって“仲間”を見渡す。
バラバラだった三つの勢力が、今まで敵だった者達と肩を並べて隣同士に並ぶ。
準備している間に、北方連合の幹部達は二種族同盟の皆と仲良くなったようだ。
三魔将の“首領3”も………主に内二名が既に酔っているお陰もあって、嘘の様に親しく接している。
一見すると可笑しな幻の様だが、俺達には夢の様な光景だった。
「ヨウ! 乾杯の音頭頼むぜ!」
「大将~!」
「おう!」
俺は鬼人族の仲間達に促され、玉座から立ち上がり、酒の入ったジョッキを天に掲げた。
その姿を同盟者である魔族達が笑みを浮かべて見守る。
その場のノリで行けるかと思ったが、やっぱりこれだけの人数に凝視されると緊張する。
まぁ殆どが既に酔っ払いだし、堅苦しい挨拶じゃなくて良いだろう。
「えー正直、こういう場でカッコいい事言える程場数を踏んでないから、思った事をそのまま伝える。今日と言う記念すべき日を迎えられた事、夢にまで見ていた三魔将が手を取り合って、この大森林に一つの同盟を築く事が出来た。俺は盟主として、同盟に参加してくれた皆に心から感謝したい」
と、頭で必死に言葉を並べつつ、たどたどしく口に出す。
視界の隅でサクラやグウェンが身振り手振りで応援してくれてるが、それが若干恥ずかしい…
「ごほんっ―――それでは、三魔将は前に!」
「「「はっ!/おう!」」」
玉座の前に。デルフィノーム、ユリオス、ビオニアが並ぶ。
その姿たるや、圧巻そのもの。
それぞれの配下に属する魔族達が感嘆の声を漏らす程だ。
「今日、この日を境にして三魔将は共に大森林に起きる問題に立ち向かう仲間になった! この素晴らしい日を祝し―――ここに“三魔族同盟”の結成を宣言する!!」
その瞬間、俺の宣言を聞き届けた仲間達から盛大な歓声が上がった。
中には両手を上げ、酒の入ったジョッキをお構いなしに天に掲げる者。
中には腕に顔を埋め、感極まって男泣きする者。
中には種族入り混じって小躍りする者。
表現の仕方は様々だったが、紛れも無く―――喜びの現れであった。
「三魔族同盟か…!」
「素晴らしいぞ旦那様!」
「ふむ。悪くない」
三魔将にも好評なようだ。
宴の準備が整うまで、頭を悩ませて考えた甲斐があった。
「それじゃあ、此処に三魔族同盟の結成を祝して―――」
それを合図に、皆がジョッキを天に掲げる。
ここから始まる新たな大森林の魔族達の未来。
そして、降りかかる事を予測している北方国家―――加虐の魔王アザミとの交戦。
免れる事は、現段階では百パーセント不可能と言える。
ならば、受けて立つ―――俺の自慢の仲間と共に。
「乾杯!!!」
オウム返しで「乾杯!!!」と高らかに声を上げる、約二百を超える魔族達。
見上げれば、空には一面の星が散りばめられている。
まるで黒い敷物にばら撒かれた宝石の様なその空を、俺はきっと生涯忘れられないだろう。
記念すべき、この素晴らしい宴の夜を―――




