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被虐の魔王〜異世界で家族になる〜  作者: 葉月十六夜
南の大森林
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Story.95【首座会談―要求―】

 ビオニアの合図を皮切りに“首座会談”が始まった。

 双方、互いの行く末を背負った主が対座し、その背後には三名ずつ従者が控える。

 二種族同盟―――代表、ヨウと従者、アング・デルフィノーム、ユリオス

 北方連合―――代表、ビオニアと従者、ヘリオット、他上級兵士二名。

 計八名が集い、今後の行く末を定める。


「先ずは、今回の会談に同意してくれた事に感謝する」


 俺は会議の開始初っ端からビオニアに礼を述べた。

 決して社交辞令などではなく、そもそもビオニアが会談に反対の意を示したらその時点で二回目の交戦が始まっていただろう。

 お互い仲間にも領土にも多大な大損害ダメージが出ていた事は必須だ。

 何なら俺はビオニアがあのデタラメな大技を出して来たらまた回避に悩まされる事になる。

 まぁきっとあの大技は副作用の関係もあってそう何度も使いたいと思うような魔術ではないだろうけど、戦場では背に腹は代えられない。

 あのトラウマ級の魔術を扱えるような奴……これ以上敵に回したくない。


「礼には及ばない。私もこの機を待ち望んでいたようなものだ」

「そうなのか?」


 ちょっと意外だ。


「それは、俺達との武力衝突を望んで無いって事か?」


 前の対戦では「戦わずして和解の術はない」みたいな事言ってたからメチャクチャ不安だったのに……

 そんな俺の心の内を察したのか、ビオニアが何も言っていない俺の疑問に答え始めた。


「先の戦いで私はお前の実力を軽んじていた。その結果、私は持てる全ての魔力を費やして有する中でも最上級の魔術を使わされる羽目になった上に、お前が最後に放った死神(・・)の一撃は完全に私の全力を上回っていたと言える。その事実を目の当たりにして、今更お前を下手に見る事は出来ない。対等な相手として腹を割って話す価値があると判断したまでの事だ」

「そ、そう……ですか?」


 つまり、俺の実力はビオニアのお目に叶ったって事で良いんだよな?

 最後の“死神ノ鎌(デス・サイズ)”の発動は俺がアジェッサに操られて暴走した結果だし、それが実力かって言われると納得いかないって言うか、そもそも俺は全然ビオニアに対等になれたとは思って無い訳で……


 ―――良いんでしょうか? 本当に……?


 俺の戸惑いは当然の事として、ビオニアの背後に控える兵士達も主の発言に驚きが隠せていない様だった。

 何だか申し訳ない気分に苛まれている中、ビオニアは「さて…」と姿勢を正した。


「この度は其方から受け取った書状の内容に従い話を進めて行くわけだが?」

「あ、あぁ。そうね…」


 いかん、いかん。

 俺が始めた事なのに、ビオニアの主導ペースに乗せられてしまっている。

 ただでさえビオニアはその風貌から溢れ出る貫禄の所為で、口を開くのにも若干の躊躇がある。

 ビオニアのこう言う会談に慣れている様子と対照的に俺は緊張でたじたじだ。


「えっとと今回の会談で此方が其方に要望したいのは、其方との同盟の締結だ」

「ほう。同盟か」


 途端にビオニアの背後に控える兵士が鼻で笑った。

 当然の反応と言えるだろう。

 それに気付いたデルフィノーム達が不快な妖気オーラを放つ空気を背に感じ、視線だけで「押さえろ」と言い聞かせる。

 渋々とそれに従う三人。

 やれやれと溜息を吐く俺だったが、正面を向けばビオニアも同様に配下を鎮めていた。

 俺とは違い、視線を向けずしてピリッと刺す様な覇気オーラで兵士達を押し黙らせた。

 貫禄が凄い……

 

「それで、その目的と相互の利益は?」

「あぁ」


 いきなり核心をついて来る。

 だが話が早くて助かる。

 ただ単に「仲良くしましょう」の同盟では納得出来ないだろうし、弱肉強食が理の魔族間でそんな生温い協定では綻びが生じるのも時間の問題だ。


「先ずは、此方の要望を出させてもらう。この大森林内の勢力の頂点とも言える三魔将さんましょう同士で手を組む事で、配下の魔族達が他の勢力に脅かされる危険性を減らしたいと考えている」


北方連合は優れた勢力の塊。

対する二種族同盟は結成したてでまだ統率力が無く、鬼人族オーガに至ってはその大半の戦力をアジェッサの思惑で失っている。


鬼人族オーガ女蛇族ラミアには子供や戦力に及ばない者が多い。その欠点を補う為には、既に勢力が整った組織を仲間に加えるのが手っ取り早い。戦力から外れる者達には彼等にしか出来ない役割があるから無理矢理戦渦に投じて行く気も無い」

「つまり、二種族同盟は今後起こり得る争い毎には直接関与したくないと?」

「そうじゃない。戦わなければならない事態になれば二種族同盟の勢力を持って迎え撃つ。戦わずして済むならそれに越した事は無いけどな」

「ならば我等は保険(・・)という事か?」

「贅沢な保険だけど、その扱いじゃ対等の間柄とは言い難いだろ?」


 だから北方連合そっちの要望も聞き入れる。

 相手の望みと、此方の望み―――相互、バランスの取れた境界線で取引する。

 俺のモットー“等価交換”だ。


「同盟を組んだ暁には、軍事の大半をビオニアに任せる事になるだろう。戦力を上げるなら子供達も成長に合わせて志願する者には同盟の戦力になれるだけの指南をして、最終的には大森林全ての魔族を纏められたら、大森林の周りを囲う四方国にも負けず劣らない勢力になれるはずだ。そうなれたら、優勝劣敗思考のそっちにも悪い話じゃないと思うんだ」


 一聞すると北方連合からしてみれば大した利益は無いだろう。

 これはあくまで二種族同盟側の問題である―――現状の戦力の低さ(・・・・・・・・)を解決する為の策だ。

 しかし、それも結果としては北方連合が加入した同盟の勢力を底上げ出来る。

 元々、北方連合だって二種族同盟を配下に下して勢力の拡大を狙っていた。

 配下に下すか、手を取り合うか。

 それだけの違いだが、後者を選ぶ事で二種族同盟は何の気兼ねも無く北方連合の存在を受け入れられる。

それは配下となった二種族同盟間で北方連合に反旗を翻す危険性を減らす事に繋がる。余計な争いが起きないのは、北方連合にも一理ある話だと考えた。

 実際、話を聞いた北方連合の兵士達は嫌そうな顔はしていない。

 寧ろこれに対してどんな返答を返すのか、目の前に座する主の考えに期待を寄せている様にも見られた。


「成程。其方の要望は理解した。確かにそれならば我々にも利益があると言える」

「そうか」


 どうやらこの要望は上手く受諾されそうだ。

 問題は、北方連合側からの要求だ。

 ハッキリ言って、二種族同盟こっちが提供出来る者は少ない。


「では、此方の要望を出させてもらう」

「あぁ」


 真剣な面持ちで要求を提示するビオニア。

 三魔将さんましょう最強の魔族―――“将軍”の出す要求とは計り知れない。

 俺は固唾を飲んで、ビオニアの要求を待った。

 そして―――


「我等に―――食料を主にした物資の提供だ」

「………………ん?」


 ―――んん?


 THE・拍子抜け。

 思っていた以上に………否、思ってもみなかった要求が飛び出て、思考が一瞬停止した。

 

「えっと……そんなんでいいの?」


 我ながら分かりやすい程、怪訝な顔をしていたと思う。

 それに対し、小さく口角を上げて笑うビオニア。


南方国家サウサードの領地に暮らす魔族らしてみれば大した事ない要求かもしれないな。しかし、北方連合は大森林内でも北方国家ノースウェイドの領土に属する我等には死活問題と化している」

「死活問題って、北方国家ノースウェイド領地って言っても同じ大森林内だぞ? そこら中に自然の恵みはありそうなもんだろ?」


 とは言いつつも、少し前まで鬼人族オーガが大蜘蛛に襲われて満足に食事が出来ない状態に陥っていた時の事を思い出した。

 けどあの時は食材を収集するだけの気力も人材も彼等オーガには無かった。


北方国家ノースウェイドの領地は現在、国王アザミの命で四方国戦争に向けて物資をかき集め始めている。北方国家ノースウェイドに属する魔族達の口に出来る食材も奪われ、その所為で魔族達は大森林内の食材を奪い合っている。流石に南方国家サウサードの領地まで手を付ける者はいないようだが、それも時間の問題だろう。このまま国王アザミが物資を奪い続ければ、何れは大森林中を巻き込んだ物資争奪戦が始まるだろう」

北方国家ノースウェイドはそんな事になってるのか?」


 しかも名前が出たな―――“アザミ”。

 “加虐の魔王”が四方国戦争の準備を始めている。

 とても有力な情報だ。

 北方国家ノースウェイドの国内事情を知りたいのも、北方連合と同盟を結びたい理由だ。


「アザミの強欲さで今や北方国家ノースウェイド内で奴の傘下に入っていない魔族達は今日を生きられるかどうかの瀬戸際だ。飢餓感に苛まれた者の中には自らアザミの傘下に下る者も出て来ている。そう言った者共は雑兵として戦場で使い捨てになれるのが関の山だ」

「食料を分ける代わりに弾除けになれって事か。完全に下手に見てやがるな」

「正に弱肉強食。魔王(・・)に逆らうくらいなら、その足元に跪き雀の涙にも満たない情を求める方がマシという事だろう。私ならば潔く餓死するがな」

「だから大森林の魔族を配下に付けて南方国家サウサードに亡命するつもりだったと?」

「亡命とは少し違うが、指定した開戦日前に他国に攻め込むのは四方国の王達が定めた規定に反する。南方の大森林を領土にするには丁度良い機会だった」


 然しものビオニアですら、魔王という存在には及び腰の様だ。


「そう言う事なら、俺達は物資の提供を惜しまない。三種族の存続の為に、率先して戦場に赴いてもらうんだ。同等(・・)の要求と取る」

「可能か?」

「んーまぁ、大丈夫だと思う」


 既に食糧事情の解決の道筋は立っている。

 話が進んで行けば、俺がアングと一緒に過ごしていた町から乳製品等の加工品も譲ってもらえる。

 それでも難しいようなら、王都でも調達出来る。

 金銭面の問題は………一時的に冒険者組合(ギルド)に登録して依頼を熟していくしかないな。


「……そうか。助かる」

「おう」

「それと、もう一つ。確認したい事がある」

「確認?」


 ビオニアの切れ長で鋭い眼光に射貫かれる。

 思わず背筋が伸びる。


「大森林の三大勢力を束ね率いる存在―――盟主は誰が担う?」


 その口から発せられた言葉に、両勢力の配下達が期待の眼差しを己の主達(・・・・)に向ける。




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