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被虐の魔王〜異世界で家族になる〜  作者: 葉月十六夜
南の大森林
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Story.74【二人の逃走者】


「全員、集まったな」

「はい。ヨウ様」

「ではこれより―――対・北東連合戦の作戦会議を始める!」


 女蛇族ラミアと“二種族同盟”を締結した数日後。

 すっかり俺に心酔した様子のユリオスが鬼人族オーガの里に滞在し続けている所為で、サクラとは毎日の様に冷戦が繰り広げられている。


「ユリオス様! いい加減にして下さい! お仕事の邪魔です!」

「何を言うか鬼娘! わらわは旦那様直属にして女蛇族が当主の身分じゃぞ! 常にお傍に控え、身の回りのお世話をするのは当然じゃ!」

「あのぉ…」

「だからってそんなに引っ付く事ないと思いますッ!」

わらわは寒さが苦手なのじゃッ!」

「あの、ちょっと…?」


 美女(魔族)二人に板挟みにされて、嬉しいやら、おっかないやら……

 そうこうしながら妙な緊張感が漂う日々を過ごしている中、里の周辺を見張っていたサン率いる偵察部隊から報告を受けた。

 次なる敵対勢力“将軍・ビオニア”の配下の魔族達に動きがあったとの事だ。

 すぐさま幹部勢、各部隊長、同盟種族当主のユリオスを招集し、対策会議を始めた。


「ビオニアが攻め込むとしたら、先ずは特攻部隊が先行し、遠隔攻撃部隊、近接攻撃部隊、精鋭部隊、そしてそれらを統帥する大将のビオニアが連携を取ってくると予想される」

わらわの知り得る情報では、最近奴等は更に勢力を拡大したと聞いておる。噂では、北方国家ノースウェイドの末端に生息する魔族を取り込んだとか……」

北方国家ノースウェイド……“加虐の魔王”の支配領域の魔族って事か」

 

 デルフィノームとユリオスの話を聞きながら、俺はビオニアに対して“恐れ知らず”という印象を持った。

 ちからの全貌は知らないが、仮にも()()を名乗る者の領地の魔族を従属させるとは、恐れ知らずといって過言ではないだろう。


 ―――まぁ、ビオニアが“加虐の魔王”より強いって言うなら、俺としては色々今後に控えている問題の難易度が下がって助かるのだが……


 それはないな、と淡い期待を投げ捨てた。


「それにしても。流石に“将軍”の異名を持ってるだけあって、配下の魔族はそれなりに多いみたいだな」


 しかもこの大森林で生きる魔族でありながら部隊編成をするとは、まるで人間の騎士団の様な事をするのだと少し感心した。


「ビオニア率いる北東連合の数は、余裕で俺達“二種族同盟”を上回る。おまけに精鋭揃いだ。彼我の戦力は絶望的と言っていい」

「その様だな。勢力では俺達に勝機は無い……だが―――」


 そう言って、俺は人差し指で頭をトントンッと突いた。


「目に見えるちからでは及ばなくても“頭脳”で戦略を組み立てればいい。恐らくだが、向こう(北方連合)には既に“二種族同盟”の事は知られているだろう。その上で、デルフィノームとユリオスには戦場で()()()()()()()


 その理由は、ビオニアの意識を()から逸らす為。

 対・女蛇族ラミアの時と同様、揺動する側と大元を討つ側とで別れる計画だ。

 ただし今回は相手の力量を考慮して、近接戦闘は腕に自信のある者以外は禁じる。

そしてユリオスの“妖精ノ悪戯(パック・ミスチーフ)”を主軸に、連合側の各部隊の連携を崩す様に誘導し、大元(ビオニア)に味方を近付けさせない様にする。


「そして、ビオニアと対峙する役目は―――この俺が担う」


 仮にも“二種族同盟”の盟主という立場でもあるし、何より死なない俺が大将と闘う方が皆も気兼ねなく自分の身を護る事に専念出来ると思ったのが本音だ。

 デルフィノームには「一対一(タイマン)なら俺にやらせろ!」と言われたが、あくまで個人的な勝負を臨むのならば、戦いが終わった後に相手の同意の上でご勝手にどうぞ、とあしらった。


「発言を宜しいでしょうか?」


 そう言って、サクラが小さく手を上げた。


「絶対的な強者でいらっしゃるヨウ様に対し、不敬かと思ったのですが……もし許して頂けるのでしたら、ヨウ様とビオニアの一騎打ちの際は、私もお傍に居させては頂けませんでしょうか? 私の防御魔術を用いれば、ヨウ様は攻撃に徹する事が可能でしょう」

「確かにな」


 いくら不死身と言えど、そう何度も攻撃を喰らっていては反撃までにロスタイムが出来るし、相手に思考させる時間を与えてしまう。

 サクラの案も一理ある、と俺は作戦立案の中にサクラの案も取り入れて考える事にした。


「とは言え、戦場で最も危険な場所にいる事になる。あくまで一案として心に留めておくから、その心算つもりでいてくれよ?」

「はい! ありがとうございます!」

「む~ズルいぞ~!」


 サクラは嬉しそうに微笑んだ。

 ユリオスが羨ましそうに頬を膨らませてブーたれていたが、ユリオスは各部隊分断の要となってもらう為、同行は出来ないから諦めるしかなかった。

 

「今回も出来る限り奇襲を狙って作戦を練るつもりだが、相手は三魔将さんましょう一の強者。きっと、以前の様に上手く行かないだろう。そうなると、当然以前にも増して負傷者が出る。下手をすれば、最悪の事態もあり得るかもしれない」


 その言葉に、会議所に集う者たちの表情が険しくなる。

 一気に空気が重々しくなるが、俺は手を叩いて話を進めた。


「俺達の主なる目的は、戦いを仕掛けて来る北東連合を返り討ち―――同盟を結ぶ事だ」


 それだけの為の戦いだ。

 故に、双方に死者が出てはならない。

 後々にはこの大森林に住まう魔族全てに不可侵協定を結ばせる事も視野に入れる。


 ―――とは言った物の……


 一朝一夕にはいかないだろう。

 それは皆も理解している。


「親分は簡単に言ってるけど……そんな事、本当に上手くのかな?」


 と言った不安の声も上がる。


「愚問ですよ。必ず成功させる為に策を講じるのです」


 少し小心なムックの弱音を一刀両断するアグーラム。

 彼の言う通り、必勝をもぎ取る為の会議を今正に行っているのだ。

 しかし、仮にも部隊長の一人とは言え、ムックはサクラの次に若い上に性格的にも同年代に比べて幼さが残っている。

 野性的な感性が功を奏して天才的な戦いの才能を持ってはいるが、やはり大人達に比べて恐怖はあるだろう。


「そうですよ、ムック。ヨウ様を信用しなさい」

「ウ、ウッス…」

 

 ―――逆に、そんな(ムック)より若いくせに大人顔負けに堂々としてこの場に居るサクラの胆力に驚かされたりもしているが……


 とにかく、一人の不安は意図せず伝染してしまうものだ。

 この場には幸いにも肝が据わった者達しかいない。

 ムックの不安を取り除くには、今この場しかないだろう。

 俺は眉がハの字に傾くムックに声尾をかけた。


「ムック、お前の気持ちは分かるよ。不安があるのは重々理解している。今まで以上に強敵を相手にする事になるが、こっちだって以前より勢力は格段に上がった。頼り甲斐のある同盟者が手を貸してくれる以上、必要以上に恐れる事は逆に失敗を招くと考えてほしい」

「は、はい! すいませんでした!」

「とは言え、俺は心配していないよ? ムックは前の戦いに於いても接近戦が秀でてる事は実証されてるんだ。自信を持て! 近接攻撃部隊はお前とアグーラムを筆頭に託すからな!」

「お、おぉお! 任せて下さいッ!」

「単純よのぉ?」

「アハハ…」


 そう思ったのは俺やユリオスだけじゃないはずだ……

 俺の激励で奮い立ったムックが席から立ち上がって小躍りを始めた。

 ここ数日の中で、ムックの扱い方が一番掴みやすいと知った。

 まぁ実際にムックの実力は本物だ。

 変に気負い過ぎて本来の実力が出せないとなっては本人ムックにとっても危険だし、多少の()()()()は必要だろう。


「では―――作戦立案の本筋を考えるぞ」


 幹部、各部隊長、そしてユリオスが同時に頷いた。



 作戦会議は夜通し行われ、より勝率を高める案を抜粋していった。

 その間に、北東連合が大きな動きを見せたという報告は入って来なかった。

 恐らくは向こう(北方連合)も作戦を練っているのだろう。

 実力差がありそうな相手にも策を練って挑んで来ようと言うつもりなら、やはりビオニアと言う人馬族ケンタウロスを軽んじて相手にしてはいけない。

 

「思ったんだけど。俺と数人だけでビオニアの所に赴いて同盟話を持ち掛けに行くのもありじゃないか?」


 と、平和的和解策を口にした所で三魔将さんましょう二人に拒否られた。


「大森林に住まう魔族は王都や他国の連中と違って、徹底した()()()()だ。他種族の顔を見た瞬間に武具を振るい、仮に話し合いに応じたとしても十中八九聞く耳なんぞ持たない」

「おまけに奴は同じ三魔将さんましょうたるわらわ達を毛嫌っておる。同じ括りにされること自体が癪に触っておるのじゃろう……忌々しい!」

「成程……―――」


 ―――ってソレ、お前等だって同じじゃん?


 と、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。

 この二人、ただでさえ目付きが極悪―――基、眼光鋭いから睨まれたくない。


 ―――しかし、やっぱり交戦は免れない。穏便に済ませたいけど、それこそ考えが甘いみたいだな、この大森林の魔族間では……


 一度でも仲良くなれれば、二種族同盟(俺達)みたいに話し合いでスムーズに色々取り決めが進むのにな。

 

「まぁ、ザックリ言えば、この戦いは“仲良くなる為の戦い”だ。俺達は必勝を収めなければならない」


 ―――誰の犠牲も出さずにな。

 

 この言葉を、会議の中で何度も復唱した。

 ()が言っても説得力ないような気はするけど、本来、命は一人一つ。

 今後の安住の為の戦いの中で、その未来に行き付けない犠牲者を出す事は、頭目である俺にとって一番の失態だ。

 気を引き締めなくては…!


「よし! 計画は固まったな。では最終確認を―――」

「失礼します!!」


 その日の会議終盤に差し掛かった頃、血相変えて偵察中のサンが会議所内に飛び込んできた。

 思わず会議を中断して、全員の視線がサンに集中した。


「サン、どうした?」

「はっ! 鬼人族オーガの領地と北東連合の領地の境付近にて、北方連合の兵士に追われる魔族の姿を確認しました! 一人は堕耳長族ダーク・エルフと思われる女。もう一人は負傷した女蛇族ラミアです!」

「何じゃと!?」


 サンの報告に真っ先に反応を示したのはユリオスだ。

 言わずもがな、その負傷した女蛇族ラミアとはユリオスが血眼になって探している妹の事だろう。


「逃げてる二人はコッチに来てるのか?」

「はい。間も無く境界線を越えます。ローソゥ様が監視を続けていますが、如何致しましょう?」


 ―――如何も何も、堕耳長族ダーク・エルフの方はいざ知らず、女蛇族ラミアは放っておけない。


「助けろ! 二人ともだ!」

「承知―――」


 言葉尻を消す勢いでサンは会議所から出て行った。


「おい。その二人は北東連合に追われているんだろ? 下手に手助けすれば藪蛇やぶへびだぞ?」

わらわの妹を見殺す気かこの冷血漢!!」

「ゔ…」


 デルフィノームの的を得ている発言も、ユリオスの剣幕で一蹴された。

 危険は承知だが、今は救出を優先しよう。


「里の防御を固めろ! 逃走中の二名を保護次第、治療と反撃体制を取れ!!」

「「「はい!!」」」


 一斉に動き出した“二種族同盟”の幹部勢。

 ローソゥとサンの活躍によって、被害を出さず二人の逃走者は保護された。

 同時に、逃走者の一人―――“叛逆のアジェッサ”の計画も、この瞬間から始まったのだった。


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