表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
被虐の魔王〜異世界で家族になる〜  作者: 葉月十六夜
南の大森林
51/139

Story.50【繋ぎ留める生命力】


分裂した(・・・・)? 大蜘蛛がか?」


 グウェンが口にした衝撃の事実に、俺は驚きを隠せなかった。


「あぁ。燃え広がる俺の炎の中で、確かに小さな蜘蛛が数万……いや、数十万近く分裂したかもしれない」

「それはつまり、あの大蜘蛛の実態は小さな蜘蛛達が密集していて、一見すると巨大な蜘蛛の様に見えたって事か」

「そういう事なら辻褄が合う。通りでアレだけの図体が、今まで気づかれる事なくこの大森林の中で姿を隠せてたわけだ…」


 グウェンの話を聞くに、大蜘蛛の正体は()()()()()()()()だと判明した。

 おまけに、炎耐性有りの猛毒性の広範囲攻撃持ちと来た……


「普通、毒性魔術師に炎攻撃は有効なんだけどな?」

「虫は別なんじゃないか?」


 ―――そんな適当な…


 グウェンは難しい話し合いには向かない()()()()()かもしれない。

 などと考えていると、一人の鬼人族オーガも思い出したように声を発した。


「そう言えば、ローソゥの風魔術には警戒しているようにも見えたぞ? 実際小型の蜘蛛は何匹か風魔術を受けて消し飛んでたし」

「そうなのか?」

 

 俺は確認でローソゥの方を見やる。

 クールな表情に戻っているローソゥは小さく頷き返した。


「その様だった。しかし、威力で言うなら、俺の風魔術はグウェンの炎に遠く及ばない筈なんだが……」

「威力があろうが耐性を持たれてたんじゃ意味ない。お前のちからが有効なのは確かだ」


 そう言いながら、グウェンがローソゥの前で親指を立てる。


「他にはどうだ?」

「正直、確信は持てないんだが……目眩ましで放った“閃光フラッシュ”にも怯んだように見えた」

「光を嫌ったって事は、普段は暗所に居る生物なのか? その情報も使えそうだな」


 ―――()()持ちが()に耐え、()()に有効的な反応をみせた……


 師匠せんせいの許で身に着けたはずの知識がこうも覆されるとは、世界は広いという事か。


「さっきは俺が主体となって炎攻撃を仕掛けたが、今度はローソゥ主体で動く方が効果があると見る」

「そうだな。さっきと同様に“防盾シールド”で行動範囲を狭め、尚且つ“閃光フラッシュ”で目を眩ます作戦で行こう!」


 ザックリだが、次の作戦が固まった。


「………」


 大役を任されたローソゥは、明らかに緊張している様だった。

 そんな彼に、友であるグウェンが声をかける。


「気負い過ぎるなよ。サポートは俺に任せろ」

「グウェン…」

「頼んだぞ」


 グウェンがローソゥの肩を叩く。

 

「……正直、あまり自身は無いが―――尽力する…!」


 シンプルだが、力強い声援を受け、ローソゥの意志も高まったようだ。

 その様子を見て、俺も少し安心した。


 ―――ここで「俺がやる」と言う訳にもいかない。

 

 あくまで白角ハッカク鬼人族オーガ達に、一矢報わせたい。

 

「……とは言え、このまま大蜘蛛とやらせるにはローソゥに負担が掛かり過ぎるか……」


 他の鬼人族オーガ達だって治療を終えたが未だ万全ではない。

 磨り減った魔力を回復させ、尚且つ先程以上に魔力を上げておく必要があるだろう。

 少なくとも、グウェンとローソゥの二人は。


 「そうなると……アレ(・・)だな」


 ちょっと卑怯チート臭いが、彼らをここで死なせるより、ずっといい。

 俺はグウェンとローソゥの前に歩み寄った。


「提案がある」


 最終手段―――“等価交換トレース”の提案だ…!



「あら? ()()されるのですか?」


 黒角コッカクの里、デルフィノームの玉座に座るアジェッサは、拍子抜けしたように溜息を吐いた。

 

「残念ですわ。折角、貴方様に見合うだけの魔物モンスターを送りつけましたのに……雑兵ザコに任せてしまわれるのですか?」

 

 気に入らない選択肢を取られた事で、彼女は不機嫌そうに組んだ足をぷらぷら揺らす。

 

「―――ですが。何やら興味深い魔術を見せて頂けるのようですし、これはこれで良しとしましょう」


 アジェッサは“望遠鏡テレスコープ”の縁に、か細い指を添えた。


「しかし、このままでは少々盛り上がりに欠けますし……」


 妖艶に、不気味に、楽しそうに、彼女は口元を歪ませた。


「ちょっと悪戯しちゃいましょっ♡」


 アジェッサが指をパチンッと鳴らした。

 それを合図に、大森林で暴れる大蜘蛛が狙いを定めた“ソレ”を、大きな前足で―――貫いた。



「―――な、何だコレは…! 魔力が嘘みたいに上がっていく…!」


 グウェンの興奮した声が周辺に響く。

 魔力が向上した事により、グウェンは額の角が二本から三本へ、ローソゥは一本から三本へ増え、肉体も少し強固になった。

 所謂―――()()を果たしたのだ。


「よし! 今回も上手くいったな、“等価交換トレース”」


 俺はリアトに続く“等価交換トレース”成功に安堵した。

 時間が無い所為で二人にはザックリと“等価交換トレース”の説明をした。

 “等価交換トレース”による効果を知った二人は二つ返事で了承し、魔術を受け取った。

 勿論、それに見合った対価も貰い、今に至る。


「信じられない……コレが、俺の力か……!」


 あのローソゥも、クールな表情が驚きと喜びに満ちているようだった。

 他の鬼人族オーガ達も、二人の変化に驚愕していた。


「ほ、本当にこんな事が……二人共、あのデルフィノームと同等のちからを持った“鬼人ノ王(オーガ・ロード)”に進化したぞ!?」

「すげぇ! “未知魔術アンノウン”なんて初めて見たぜ!」

「ヨウさん、アンタは一体何者なんですか!?」


 全員が目をキラキラさせて俺を見て来る。

 何だかアングがいっぱいいる感じだ。


「色々聞きたい事はあるだろうけど、今は時間が無い! 早速行くぞ!」

「あ、あぁ! 所で、大蜘蛛を討つ前に、奴が追いかけて行ったサクラ達を助けたい。まだ無事だと良いんだが……」

「だったら、注意を逸らす役割は俺が引き受ける。グウェンがサクラを助け出し次第、全員で“(シールド)”を展開し、ローソゥ主体で大蜘蛛を討て」

「あぁ。今なら奴に劣る気がしない…!」

「お前なら安心して任せられる。頼むな」

「あぁ…!」


 グウェンが再度ローソゥへ信頼の意を示した。

 ローソゥも先程より明白な自信を持って、強く返答した。

 全員が、今度こそ宿敵“大蜘蛛”の討伐を決意した―――


 そしてタイミング良く、大森林の奥でアングの“雷ノ咆哮(サンダー・ロアー)”の光が発光した。


「見つけたか! グウェン!」

「行くぞお前等! 今度こそ、必ず奴の息の根を止めるぞ!!」

「「「おぉ!!!」」」


 鬼人族オーガ達が一斉に森の奥へ駆け出す。

 俺が先行し、アングの許へ急いだ。

 何度も雷が発光し、その度に地面が微かに揺れた。


「激しく交戦してるようだな!」

「無茶はしないと思うが、アング一人じゃ手厳しい相手かもしれない―――急がないと!」


 俺達は光を見印に、アングと大蜘蛛の交戦する場所に辿り着いた。


「アング!」

「はぁ…はぁ…マ、マスター!」


 俺が来た事に気付いたアングが大蜘蛛の毒を避けながら、俺の許まで無事に戻って来た。


「も、申し訳ありません……アングでも、足止めで精一杯で…!」

「よしよし。よく頑張ったな」


 派手に息を切らすアング。

 しかし大きな怪我は無い様子だ。

 俺はアングの頭を撫でながら安堵した。


「アング。サクラはどうした?」

「っ…や、奴の上です…!」


 “上”と言われ、その場の全員が一斉に反射的に大蜘蛛の頭上まで視線を向けた。


「―――ッ!!」


 その光景に、俺達は息を呑んだ。


「サ―――」


 目の当たりした光景には、大蜘蛛の足の一本に、痛々しく腹を貫かれるサクラの姿があった。


「サクラぁああああ!!!」


 顔を青ざめ、喉が潰れる程の絶叫を上げるグウェン。


「い、いや…いやぁああ! サクラ様ぁあ!!」

「そんな……お嬢……」


 鬼人族オーガ達の表情が絶望で歪む。

 同行していた鬼女オグレス達は絶叫し、涙を流して膝を着いた。


「や、ろぉ……!」

 

 俺も、腹の底からどうしようもない程の()()が込み上げる。

 徐々に自分の制御しきれない“負の感情”が全身を蝕んでいく。


【  殺セ  】


「!!」


 ―――ダメだッ…! ダメだ、ダメだ! ()()()()()()()()……!!


 “半人半魔デミ・アンデッド”として生まれた時から俺の中に居た。

 師匠せんせいと過ごす日々の中で、知ってしまった存在。

 認めたくないが、他人の不幸を喜び、絶望を求める―――()()()()()()()()()


「ッ……」


―――待て……落ち着け……怒り任せに攻撃したら、今度こそ白角ハッカク鬼人族オーガ達が全滅してしまう……


 俺は怒りを―――()()()()()()()()()を必死に抑え込んだ。


 その時……


「―――……ぅっ……うぁ……」


 頭上かた呻く声が聴こえる。

 聞き覚えのある女性の声だ。


「まさか…!」


 俺は腹を貫かれたサクラの方を凝視した。


「ッ―――あ、に……さま……ッ」

「サ……サクラ!?」


 俺達は目を疑った。

 腹を貫かれた状態で宙吊りになっているサクラは―――まだ生きていた。

 よく見ると、サクラは血だらけの両手を貫かれた腹部に添え、弱々しくも絶え間なく“治癒ヒール”をかけているのだ。


「なっ……」


 ―――何て子だよ……治癒アレで一命を取り留めていたのか…!?


 なんて度胸ーーー否! 凄まじい生命力!

 生きていた喜びに、後ろに控えるグウェン達も歓喜の声を上げる。


「サクラ! 流石は俺の妹だ!! もう少しだけ待ってろ! すぐに助けてやるからな!!」

「あ……あに、さま…! ほか、の……みん、なを…!」


 残息奄々にも関わらず、一緒に居たはずの避難民の安否を気に掛けた。


―――他の鬼人族オーガ達は何処に?


「アング。動けるか?」

「無論です。避難した鬼人族オーガ達を探して参ります!」

「頼んだ!」


 呼吸が整ったアングが、風の速さで子供達の行方を捜しに向かった。


「グウェン! サクラのあの状態は長く保てないぞ!」

「回復魔術が使える者は待機! サクラを救出次第、治療に当たれ!」

「「はい!」」


 グウェンの指示で、前髪の長い長身の鬼人族オーガと、先程まで泣き崩れていた鬼女オグレスの一人が豪快に涙を拭って、後方に控えた。


「ローソゥ! 準備は良いか?」

「何時でも…!」


 ローソゥの青い瞳に闘志が宿る。

 同時に、その両手には触れれば切り裂かれそうな程の威力を秘めた小さな竜巻が巻き起こる。


「行くぞ!!」


 今度こそ決着をつける―――大蜘蛛討伐作戦の終幕だ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ