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最終話・後編 ずっと先も

 この半年間、椿は変わらず地道にアピールし続けてくれていた。

 椿の愛情深さも相当だと思う。

 それに甘えて引き延ばしてしまったが、今日終わりにする。


「で? この寒空の下に呼び出してどうするつもりかしら」

 放課後の屋上。

 やや風の強い曇天の元、決闘でも始めるように俺と椿は対峙している。

 ……よ、よし言うぞ。


「ちゅ、椿!」

 いきなり噛んだッッッ!!

 ダメだ。早くも心が折れそう。

「ふっ。何それ」

 珍しくクスクス笑う椿。

 こんな時だけ笑うとは卑怯な、と恨みがましく思う反面、そんな顔が見れたならまあいいかと嬉しくなる。


「あのさ、椿」

「なに?」

「好きだ」

「………………え」

「付き合って欲しい」

 大きな目を更に大きくして、椿は固まってしまう。


「今更すぎるのは分かってる。勝手だと思う。でもようやく向き合えた自分の正直な気持ちなんだ」

「…………」

「やっぱ遅すぎ……泣いてるーーーー!!」

 固まったままの椿の瞳から、大粒の涙だけがポタポタと落ちて行く。

 次から次へと溢れ出すのが止まらない。


「……泣いて、ないわ」

「いやいやいや! めちゃくちゃ号泣してんじゃねぇか!」

「コンタクトが……、ずれたのよ」

「……裸眼なの知ってるからな」

 近付いてセーターの袖で軽く拭ってやると、椿は抵抗せず受け入れる。

 されるがままだ。


「まさか泣かせるとは……」

「このまま、なかったことになるかと……思っていたから」

「…………ごめん」

 こんなに弱った椿を見たことがない。

 俺が惹かれた真っ直ぐ貫くような強さは形を潜め、迷子になった小さな女の子みたいだ。

 それ程に追い詰めてしまっていたのか。


「ハグしてくれたら、許してあげるわ」

「は!?」

 猛省したのも束の間。

 スンスンと鼻を啜りながら、椿がとんでもないことを言い出した。

 肉食系は変わらずかよ……!

 ~~~~、くそっ!


「こ、これでいいか?」

 全面的に俺が悪い自負があるので、恥ずかしさを殴り捨てて言う通りにする。

 やばい心臓うるせぇ……!

「もうちょっと強く」

「……ん」

 こうなりゃヤケだ。

 思ったよりも細い身体をぎゅっと抱き寄せた。心臓爆発しねぇかな。


「暖かくて安心する……」

「雪、降りそうだしな」

「鈍いのはあまり変わっていないわね」

「……悪かったな」

「いいえ。そういうところも好きよ」

「ふぁ!?」

 驚きすぎて奇声を発してしまったが仕方ないだろう。

 この状況でそのセリフだぞ。


「――なんやムードあらへんなぁ」

 ちょっと待て。なんか関西弁の幻聴が聞こえた気がするんだけど。


「そこは『俺も好きだ』ぐらい言わんかい」

「幻聴じゃねぇ! 司てめぇ、何してんだ!」

 やれやれとばかりに首を振りながら、屋上入り口の扉に凭れかかっている司を発見してしまった。

 いつからそこに居た!?


「そら顛末を見に来たに決まってるやろ」

「よし帰れ」

「酷ない!? ずっと二人のこと静かーに見守ってきたんは僕やで! というか、いつまでそうしてんの?」

「私が満足するまでよ。ちなみにあと五分はこのままの予定」

 心臓発作で死ぬ。


「えらいご機嫌やなぁ。おめでとさん」

「めげずに粘った甲斐があったわ」

 椿は俺に抱きついたまま、首だけ動かして会話する。勘弁してれ!

「せやけど残念なお知らせや。双子ちゃんも見てたで」

 は? と思う間に司の後ろから現れる人物。


 桜華女子の制服を着たままの、雪奈と氷奈がそこにいた。


「なんでだ!?」

「終業式が終わってから一緒に帰ろうと思って……」

「校門のところで待ってたら、公坂くんに案内されたんです! どうなってるんですか!?」

「おい、司おい」

 何してくれちゃってんだ。

「本格的に芽吹く前に摘んどいた方がええやろ」

「? なんでいきなり植物の話だよ」

「なるほど。そういうことなら許しましょう」

 どういうこと?

 椿はなぜか怒らない上に満足気だし、双子はなんだか悔しそうだ。


「そんな簡単に摘み切れるものじゃないから」

「公坂くんは中立だと思ってたのに……!」

「すまんなぁ。僕は生涯、凌大くんと椿ちゃんの味方やねん」

「司……」

 よく分からないが、その言葉だけは理解できた。ジーンと胸に響く。


「ちょっと、司。良いところを持って行かないでくれるかしら」

「悔しかったら凌大くんを骨抜きになるまで惚れさすんやな」

「いいでしょう。その挑発、乗ったわ」

 ツッコむ前にあれよあれよと進んで行く話。

 ニヤッと笑う司を残し、椿、雪奈、氷奈が静かな睨み合い始める。三竦み?


「瀬名くん……いえ、凌大」

「は、はい?」

「キスして」

「はああああああッッ!? な、なな何言ってんだ!」

 肉食通り越して暴食じゃねぇか!


「ひ、人前で何てこと言い出すのよ! バカじゃない!?」

「そうですよ! 当てつけですか!?」

「当てつけじゃなく見せつけるのよ。付き合っているんだからいいでしょう?」

 よくない。順序を踏もうぜ。


「そんな感じでするもんでもねぇだろ……」

「乙女か。いやヘタレか。しよ言うてんやから、したったらええやん」

「ちょっと黙れ。元ハーレム王!」

「あ、せや。上手い仕方が分からへんのやな! 歯が当たらんようにするんは、こう――」

「マジで黙ってくれ! つーか、寒いし帰るぞ!」

 椿を引き剥がし、代わりに手を取って歩き出す。


「こ、恋人繋ぎです……!?」

「っ、待ちなさいよ!」

「ぶはっ! 耳まで真っ赤やん」

 全部聞き流してズンズンと進み、屋上から校舎へと戻る。

 寒かったはずなのに全身が熱い!

 それに初めて好青年に偽装した時よりも恥ずかしい……!


「凌大」

「……これで勘弁してくれ」

「まあ半年待ったんだもの。それに比べたら大進歩ね」

「椿――んん!?」

 振り返った瞬間、唇に触れる柔らかさ。

 ゼロ距離に写るよく知った美顔が、スローモーションのように離れていく。

「隙あり」

「お、おまっ……!?」

「……気長に待ったご褒美を貰ったわ。階段で上からなら見えないから大丈夫よ」

 少女マンガのイケメンか。って、そういう問題じゃねぇぇええええ!


「そんな可愛い顔してるともう一回するわよ?」

「なっ……!?」

「おっ。やっとしたんかい。今夜はお赤飯やな!」

 いつの間にかニョキッと現れた司が、俺と椿の間に割って入り肩を組んでくる。


「そうだな。お前にぶつけた小豆で炊くか」

「早くもおじさんの伝統芸を受け継いどる!? こら婿入りも早いで」

「友人代表のスピーチは任せたわ、司」

「冗談だったのに椿も乗るなよ!」

「さっきから聞いてれば話がどんどん飛躍してます……!?」

「お、置いて行かないでよ!」


 ギャイギャイと賑やかな声が廊下に響き渡る。

 降り出した雪だけが静かに見守る、昼下がりの幸せな話――。

以上で完結です。

ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 明けましておめでとうございます!今年も応援しています!
[良い点] すっきり終わっててすごくよかったです。 [気になる点] 雪奈と氷奈ルートはないのですか?! [一言] 完結お疲れさまです。他のルートみたいなの作って欲しいです。自分は妹ちゃん達をずっと応援…
[良い点] 完結おめでとうございます! いい最終回でした! 椿ちゃんが報われてとても嬉しいです! 最高の御話でした! [一言] 「このまま、なかったことになるかと……思っていたから」(読者一同の代弁)…
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