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34話 急転直下

「じゃあ、リョウタくん。近い内にそっちの学校に詫び入れに行くんで」


「は? 蘭丸が?」

「はい。迷惑掛けたやつらも全員割り出して、連れて行きます」

「律儀か! いいよ、来なくて……」

「他の学校にはここまでしないッスよ。でもリョウタくんのシマの奴らには、安心してもらいたいんで」

 シマって言うな。全校管轄外の公共施設だ。


「マジでいいから。不良の一斉謝罪会見とかより大ごとじゃねぇか。手を出して来なくなれば、自然と話題にならなくなるだろうし」

「そうッスか。……ついでに様子見しようと思ったのに」

「そっちが本命か!」

「舐めた口きく奴とかいないッスか? 俺が処しますよ」

「ビビられてるから問題ねぇよ……」

 いや、それが問題なんだけど。


「そんなナヨっちい恰好なのにッスか? やっば滲み出るオーラが――」

「ねーから! 校内じゃいつも通りなんだよ。これは外面用! いいからもう帰ろうぜ。伸びてる二人も回収してやらないと」

「了解ッス」

 蘭丸は大人しく後ろを付いて来る。

 俺には忠犬でしかないが、こいつが有名不良校の頭か……。


 そんなことを考え注意力散漫で公園の外に出たのがいけなかったのだろう。

 こっちに向かって歩いて来る人物に気が付かなかった。


「あれ? 凌大?」

「ふぇ? 本当だ! おーい、凌ちゃ……ん」

 互いを認識した途端、ピキッと固まる。


 な、なんで雪奈と氷奈が……!?

 双子の視線を辿れば俺のすぐ後ろにいる蘭丸へと向かっていた。

 やっべえ……ッ!!


「その人、知り合い……?」

「ふ、不良さんですね」

 まずいまずい。どうする――!?

「えっと……」

「あァ? んな訳ねぇだろ。歩く方向が同じだっただけだ。つか、誰だテメェら。気安く話し掛けんじゃねぇよ」

 空気を察して誤魔化してくれる蘭丸。

 俺的には助かったはずなのに、全く喜べなかった。


 蘭丸が耐えるように拳を強く握りしめているのを、見てしまったから。


 きっと人に紹介できないような人間なのかと思わせたはずだ。

 友人にした仕打ちに気付き、バカな自分に酷く腹が立った。

 ……俺は何をしているんだ。

 司も椿も見た目や言動が普通だから、引き合わせても全く問題がなく気付けなかった。

 偽装は俺一人の問題。友人を巻き込むのはお門違い。

 ましてや自分は関係ないと線引きするなど、もっての外だ。

 最低にも程がある。


「ごめん、蘭丸。目が覚めた」

「は……? 何、を――」

「俺の友人だよ。乾蘭丸って言うんだ」

 去ろうとする蘭丸の学ランを掴み紹介する。

 三人とも驚いているがこれでいい。

 この方が間違っていない。


「っ! リョウタくん……っ!」

「んぶっ」

 おい、急に抱きつくな。熱烈すぎてボーイズがラブな絵になっちゃうだろ。

 というか、さっきの典型的不良キャラはどうした。

 いやキャラじゃねぇけど。


「??? 凌ちゃん、お知り合いなんですか?」

「うん。二人が驚くと思ったのか、他人のフリをしようとしてくれたみたいで」

 俺の所為だがこの言い方なら不自然にならないはず。ごめん、蘭丸。

「そ、そうでしたか。というか、凌ちゃんの交友関係が謎すぎます!」

「幅広いわね……」

「そんなことないよ」

 本当の俺を晒せばきっと納得する。

 似た者同士なのだと。


「…………感動なんスけど、喋り方きめぇのが残念ッス」

 双子には聞こえないよう小声で蘭丸がボソッと吹き込んでくる。

 足を踏み抜いてやろうかと悪魔の俺も囁いたが自重した。

「蘭丸。右が雪奈で左が氷奈。義妹になった双子だよ」

「ああ、例の……。そっくりッスね」

「だろう?」


 蘭丸にジッと見下ろされた雪奈と氷奈はビクッとなる。

 自然と身を寄せ合うのは恐怖の表れか。

「は、初めましてです」

「ど、どうも」

「さっきは脅かして悪かったな」

「! いえ、お気になさらず!」

「別に……」

 おっかなびっくりしながら会話する氷奈と雪奈。

 ……これが普通の反応だよな。クラスのやつらが良い例だ。

 本来ならこうなっていたのだろうと、目の前の光景を見て改めて思う。


「――いってぇ……。あれ、オレ気絶して……ひいぃぃ! 乾くん!」

 ここにきて道端に倒れていた金髪がフラフラと復活し、秒で青褪めた。

 しまった、存在をすっかり忘れていた。

「チッ。リョウタくん、あいつら回収して帰るッス。また連絡していい?」

 しかし言い訳を考えるよりも早く蘭丸が対応する。す、すげぇ!


「もちろん。色々とありがとな」

「久々に会えて嬉しかったッス」

 お礼の意味が伝わったのか、ニッとはにかむ笑顔が返ってくる。

 次の瞬間、修羅の形相に変わり金髪とロン毛に近付いて行った。変わり身早ぇよ。


「おら、起きろテメェ」

 ガンッとロン毛の頭を蹴り飛ばし、無理矢理に起こす。ちょいちょい、やり方!

 早期撤退には感謝するが、そんなヤクザキックで起こすんじゃねぇよ!

 雪奈と氷奈を盗み見ればポカンとしている。

「か、変わったコミュニケーションですね?」

「完全なる上下関係じゃない……」

 雪奈、正解。


   * * *


「それにしても強そうな不良さんでしたね!」

「ははは……」

 一緒に帰る道すがら、氷奈が興奮したように言ってくる。

 あいつ不良校で一番なんだぜ☆ って答えたらどうなるんだろうか。


「……随分と慕われていたわね」

 氷奈とは対照的に冷静な雪奈が、ふいに立ち止まり真っ直ぐに見据えてきた。

「まあ、そうだ――」

 適当に答えようとした俺を、射抜かんばかりに見つめてくる雪奈。


 …………ああ、まずいな。

 これは多分、勘付かれてしまった。


「雪ちゃん?」

「言いたくないならいいけど。……凌大もそうしてくれたから」

 そう言いながらも雪奈の瞳は懸命に訴えかけてくる。

 ……やっぱり間違いない。

 ここではぐらかしても、恐らく雪奈は納得しないだろう。

 いくら鈍くたって分かる。

 それほど真剣な空気。


 必死に取り繕ってきたが、ここらで限界かもしれない……。

 バイトの皆の助けも借りて繋いできたが、俺自身かなり疲弊してきている。

 潔く直純さんには内緒にしてくれと頼むべきか。

 このまま母さんの家族でいてくれと、縋るのはムシが良すぎるか――。

「凌大」

 自然と俯いてしまった顔を、急に伸びてきた両手に挟まれた。

 柔らかく頬を包む手は雪奈のもの。


「ゆ、きな……?」

「落ち着いて。同居してから凌大がしてくれたことは無くならない。だからそんな、この世の終わりみたいな顔しないでよ」

「……っ」

「雪ちゃん? さっきから何を?」

 疑問符を浮かべる氷奈に、雪奈は静かに問い返す。


「氷奈。凌大のこと家族だと思ってる?」

「うん、もちろん!」

「もし良い子のフリしてたとしても?」

「? んー、それは悲しいかな」

 ……そうだよな。

 騙されてたなんて知ったら、傷付くに決まってる。

「だって素を見せられないってことは、信用されてないってことでしょ?」

「だそうよ、凌大」

「……、」

 もう駄目だ。


 これ以上は続けられない――。


「凌ちゃん? なんでそんな泣きそうな顔してるんですか?」

「ごめん、二人とも」

「え……?」

「ずっと騙してた」

「…………。」


「こんな真面目なのは、本当の俺じゃない」

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[一言] 楽しく読んでおります。 応援しています。
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