2話 こうして俺の計画は続行される
な、なぜそこにいる?
雪奈のすぐ後ろには双子の片割れもいて、ますます頭が混乱する。
俺は戸惑いつつも好青年モードへと意識を切り替えた。この辺は特訓の成果だ。
「えっと、何かな?」
「トイレに行きたいなんて嘘でしょ」
「ん? え?」
「だって反対側にありますよ?」
サイドテールが笑顔で指差したのは、進行方向とは真逆。
マジか。
さすがに行きつけな場所だけあって、店の間取りを把握しているらしかった。
「そうなの? どこにあるかよく分からなくて」
「それ、本当?」
「…………(ジー)」←吾妻氷奈
「…………(ジッ)」←吾妻雪奈
「嘘です。ちょっと外の空気を吸いたくなりました……」
でっかい瞳×2に責められ、耐え切れなくなり本音を暴露してしまった。
メンチで負けるとは美少女恐るべし……。
「そう。まあいいわ。……それより、ちょっと訊きたいことがあるんだけど」
なんでバレたんだと思っていると、ツインテールが少し気まずそうに上目遣いで見てくる。
今度は何だ。
「あんたは結婚に反対なの?」
「は?」
いきなり重要な話を持ち出されて、思わず思考が一時停止。
ししおどしの静かなはずの音色がやけに耳に響いた。
「な、なんでそんなこと訊くのかな……?」
「…………なんか無理して笑ってるように見えたから」
おいいいいいいい! バレてんぞ悪友ども!!
……い、いやいや待て落ち着こう。
作り笑いの意味が違うかもしれない。
ほらアレだ。最初の方は偽装が上手くいくか緊張で顔が若干引き攣ってたから、そんな風に見えたんだろう。
さすがに性格ごと偽装しているとは思っていないだろうよ。
『不満があるけど円満に見せてます☆』って感じに思われてんだろうきっと!
「だからキモいとか言っちゃって……わ、悪かったわ」
勝手に結論付けた俺をチラッと横目で見つつ、ツインテールが謝ってくる。
よしバレてない! 多分!!
「別にいいよ。それと俺は反対じゃないから。だってこんなに可愛い家族が二人もできるんだし」
対応に困ったらとりあえず褒めとけ、という悪友その二の雑なマニュアルに従う。
もう話題転換に必死である。
ちなみに味の感想マニュアルは悪友その一が考案した。
「っ!? な、なに言ってんの!?」
「ふ、不意打ちですかぁ!?」
ぶわっと音がしそうなほど真っ赤になって動揺する双子。
キョドり方が同じだ。すげー。
「二人の方こそ本当のところはどう思ってるのか、聞かせてくれる?」
親の前では聞けない本心をこっちも探ってみる。一応、確認しておきたい。
さっきの仲良さそうな様子は演技とは思えなかったが、念の為。
双子は互いに顔を見合わせると、同時にコクリと頷く。
「わ、私も氷奈も反対じゃないわ」
「さっき言ったこと、嘘じゃないですよ?」
「そっか。よかった」
……これなら母さんも心置きなく再婚できるだろう。
「俺は今のマンションにこのまま住んで一人暮らしするつもりだから安心してよ。よく知らない男と一緒に住むなんて嫌でしょ?」
一番の懸念材料をこちらから先制しておく。
結婚するということは一緒に暮らすということだ。
週末婚とかもあるが、さっきの吾妻さんの口振りからしてそれはないだろう。
だとすれば俺は四六時中、好青年に偽装し続けなくちゃならなくなる。
そんなのしんどすぎて死ぬ。無理。
双子だって当然嫌だろう。
「え? あんたの部屋、お父さんがとっくに用意してるわよ?」
うんうん、そうだろう……は?
「今、何て……?」
「すみません。父が張り切って内装を変えちゃったどころか、勝手に家具も揃えちゃってまして……。なのでぜひ使って頂けたら嬉しいです」
な ん だ っ て?
「ほ、本当? なんか申し訳ないな……」
やりすぎだろ! 何してんの!?
外堀埋めんのが突貫工事ばりに早ぇよ!
「だから――」
何を恥じらっているのか、もじもじと言い難そうにするツインテール。
隣のサイドテールはニコニコと満面の笑みだ。
可愛いがこれ以上の追い打ちはやめてくれ頼む……。
「こ、これからよろしく」
「お願いしますね!」
詰んだ。
それから三人で部屋に戻ったが、後は何を話したか覚えていない。
多分、運ばれてきた料理を食べながら今後のこととか話し合ったんだろうけど、俺の良くない頭は偽装するのに精一杯で、内容がこれっぽっちも入ってこなかった。
とりあえず理解できたのはこれだけ。
春休み最終日。
もうすぐ正式に同い年の義妹が二人もできそうです。まる。