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22話 相合傘

「すっごく楽しかったですね!」

 清流亭からの帰り道、氷奈がスキップしそうな勢いで言ってきた。

 もの凄くご機嫌だ。


「あの、椿が感じ悪くなかった……?」

 いつもの三割増し(当社比)で愛想が悪かったと思うのだ。

 話を振られても「ええ」とか「別に」とかで、一度だって笑っていない。

 高倉●かよとツッコミたくなるぐらいの不器用さだろう。


「まあ、好かれてる感はあんまりなかったわね」

「クールな印象なのは確かですが、人見知りなんですか?」

「……そ、そんなとこかな」

 女子が嫌いなことなど勝手に話すのはよくないかと適当に誤魔化す。

「でも凌ちゃんについて来たってことは、好かれてますね!」

「あはは……」


 いや違うぞ。

 俺の査定と雪奈と氷奈を探りに来ただけだからな。

 店を出て別れる前に司がこっそりと合格判定をくれたが、椿は何も言わなかった。

 代わりに無言で背中をつねられた。ひねりが足りないというアドバイスなのか、ただのストレス解消か。限りなく後者だろう。

 だから無理することねぇのに……。


「つ、付き合ってるとかじゃないの?」

「は?」

 やべえ。思わず素になってしまった。

「そうなんですか!?」

「違うよ。ただの腐れ縁。司とくっ付くんじゃないかとは思ってるけど」

「うーん……。美男美女でお似合いではありますね」

 だよな。


 椿と恋バナとか命の危険がありそうなのでしたことはないが、司と仲が良いのは誰が見たって明らかだ。

 もはや熟練夫婦のような空気感と言ってもいい。

 司のやつにしても、あれで一度も特定の恋人を作ったことがないし。

 遊ぶ相手はたくさんいたのに。

 それって椿が本命だからじゃないかと俺は思っている。

 まあ、どっちにしろ下半身はクズだ。もげろ。


「……凌大はそれでいいの?」

「? いいよ」

「凌ちゃん、すでに諦めて……!?」

「ないから」

 気付いちゃった! って感じのリアクションだが誤解も甚だしい。

 そんな少女マンガみたいな関係性はねぇよ。


「――ん? 雨降って来た」

 げんなりしていると頬にポツリと当たる雫。

 放課後から曇っていたが、ついに降り出してきてしまったようだ。

 段々と雨粒が落ちる間隔が早くなってくる。

 俺は折り畳み傘なんて持っていない。いつも全身で浴びる自然派である。

 双子も手持ちがないのか、鞄から取り出す様子がない。困ったな。


「これ被ってて。濡れるよりマシだから」

 制服のブレザーを脱ぎ、双子の頭にバサッと掛ける。

 こういう時、身長が同じだと便利――。

「り、凌ちゃんの匂いがします」

 なん、だと……!?

 誰かファブ●ーズをくれ! シーブリー●でもいい!

「はっ! コンビニ発見!」

 動揺して思わずキョロキョロすれば、少し離れたところに見える数字の看板。

 便利な日本社会に心の底から感謝した。


「急いで傘買ってくる!」

「あ、ちょっ――」

 何か言いかけた雪奈を残し、日本記録を出す勢いで走り出す。

 すれ違った散歩中のチワワが怯えてキャンキャン吠え、飼い主さんが「と、逃亡犯!?」と狼狽えるぐらい爆走した。違います。



   * * *



「……ぜえ、はぁ……。か、買って来た……よ」

 店員が引くほど高速で買い物を済ませ、双子の元へ戻って来た。

 所要時間約三分。

 こんな短時間で世界を救えるウルト●マンて神か。


「大丈夫ですか、凌ちゃん……?」

「そ、そんなに全力疾走しなくてもよかったのに」

「風邪、引くと……大変だし」

 良家のお嬢様っていうと些細なことで体調を崩すイメージがある。

 気にしすぎだとしても悪いことは無いだろう。

 あと早くブレザーを回収したい。切実に。


「凌ちゃん、ハグしてもいいですか!?」

「……え?」

「ちょ、氷奈!?」

「氷奈は今すっごいキュンてしました! この感動をぜひ伝えたいです!」

 ちょっとよく分からんが言語でお願いします。

 感極まったら抱き付くのは母さんだけで充分だ。というか、普通に恥ずい!


「それはナシで。はい、これ」

 傘を開いて差し出せば、不満げな顔をする氷奈。

「むぅ……。ありがとうございます」

 代わりにブレザーを受け取る。それほど濡れた感じはなくて安心した。

 帰ったら洗濯機でビショビショにしてやろう。

「どういたしまして。雪奈も」

「ん、ありがと。って、凌大のは?」


 買ってきた傘は二本。

 いつも差さないので自分の分など頭になかったのだが、この状況ではまずいかもしれない。遠慮させてしましそうだ。

「えーっと……。その、忘れた」

「どれだけ慌ててたのよ……。はい、返す。氷奈と二人で使うから」

 案の定、雪奈が突き返してくる。

 いらないと言っても押し問答になるだろう。


「ごめん」

「ううん。よくやってるから平気よ」

 さすが双子。いや、仲が良い雪奈と氷奈だからこそか。

 ピッタリと寄り添うのが板に付いている。

「でもせっかくだから、凌ちゃんともやってみたいです。ね? 雪ちゃん」

「は、はあ!? そ、そんな訳ないじゃない!」

「身長差があるから濡れると思うけど」

「現実的な意見! 肝心な時に乙女心が分かってないです……」

 世界一難問だろ。

 分かっていたら隣に可愛い彼女がいて、濡れた服をハンカチで拭いてくれるはずである。目から雨が降りそう。


「本降りになってきたから早く帰ろう。ほら、危ないから前歩いて」

「かと思えば発揮する優しいお義兄ちゃんぶり……! 凌ちゃん、なかなかやりますね」

「氷奈、バカなこと言ってないで行くわよ」

 やや強引に歩き始める雪奈。

 氷奈も慌てて後に続くと、ザーッと雨音が激しくなった。



「ふふっ。雪ちゃん、顔真っ赤」

「う、うるさい!」

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