21話 穏やかな時間
カコーンと雅に鳴り響くししおどし。
二度目でもいまいち良さは分からない。
なんと俺は今、両家対面の日の料亭『清流亭』にいる。
対面には雪奈、氷奈、篠宮。両隣には司、椿という布陣である。
なぜこうなったか。
脅かしたお詫びに夕飯を奢ってくれると篠宮が言い出したからだ。
家に帰って料理をする気力もない俺は、一も二もなく頷いた。
ではなぜこのメンバーなのか。
双子とは晩飯を別にする訳にはいかないので誘ったのだが、司と椿も一緒に行くとついて来たのだ。
丁度良い機会だから、こっちも双子を偵察するとか言っていた。
俺が偽装している出来栄えも見るらしい。査察官ごっこはぜひ他所でしてくれ。
ちなみにルイスはソシャゲのイベントがあるとかで帰って行った。お前、自由過ぎるだろ……。
「凌大がアリスと知り合いなんて知らなかったわ」
「ビックリしました!」
溜め息を押し殺していると、双子が興味深そうに話し掛けてきた。
いかん。集中せねば。
「俺もビックリだよ」
まさか脅迫状まで貰うとは思わなかった。
努めて穏やかに答えれば隣の司がニヤニヤする。ちくしょう、特訓の成果だろうが……!
「仲良くなったばっかりなんだよね~?」
「……ソウダネ」
思わず目が泳ぐ。外にある池の錦鯉ぐらい泳ぐ。
偽装に至る経緯を篠宮に説明すれば、バラさないと約束してくれた。
傷付けるつもりは全くないと分かってくれて何よりだ。
でもこいつは基本、双子の味方。
仲良くなったと言うには語弊がある。休戦協定が多分正しい。
「そちらの二人は凌ちゃんのお友達ですか?」
「え? あ、うん。公坂司と立花椿」
「どうもー。なんや随分と可愛らしいなぁ」
紹介後二秒で褒めちぎる司。
川のせせらぎぐらい自然な流れ且つ爽やかに女子を褒めやがった。マジかこいつ。
「こんばんは」
椿は至ってクールに返すのみ。ニコリともしねぇ。
女子が嫌いなら無理に来ることないのに……。
「凄いイケメンと美人さんです! 凌ちゃん、どうなっているんですか!?」
俺が訊きたい。
良くも悪くも見た目が派手な奴が多いのだ。ただし変人、と付く感じの。
この場にいない他の奴らも元気にやっているのだろうか。殺っているじゃないことを祈りたい。
「二人とも自慢の友人だよ」
嘘偽りない言葉に、両隣から返ってくる肘打ち。痛ぇッ!
照れ隠しにしても威力……っ!
あとメシ前に肋骨を狙うのはやめろ。胃液がせり上がって来ちゃうだろうが。
「ほんで凌大くん、僕らにも紹介してや」
冷静になった司が眼鏡を押し上げながら訊いてくる。
心なしかレンズがキラリと光った気がした。
まず俺の状態を見てくれ。若干気持ち悪い。吐くぞコラ。
「……ツインテールにしている方が雪奈、サイドテールが氷奈だよ」
うっぷ、となりそうなのに耐えて紹介する。
どっちが姉か妹かまでは、まあいいだろう。
「は、初めまして」
「凌ちゃんがお世話になってます!」
本当にな。世話になりっぱなしだよ。
「それはこっちのセリフやで。凌大くんが迷惑掛けてへん?」
司が早速、探りを入れてきた。
どう答えが返ってくるのか不安で思わずドキッとしてしまう。篠宮の視線の鋭さも増した気がした。怒気っ。
「全然ですよ! むしろ迷惑掛けてばかりなのは氷奈たちです……」
「……そうね」
木崎のことを思い出したのか、しゅんとなる氷奈と雪奈。
割り切ったと思っていたが、やっぱりそう簡単にはいかないらしい。
「そんなことないよ。家に帰った時に誰かがいるのとか、賑やかな食事とか、あんまりなかったから嬉しいし」
忙しく働いている母さんとの生活では得られなかったものだ。
それが今や毎日の出来事。
こんな風になるなんて想像もしてなかった。
「そんなのこれからずっとですよ! ね、雪ちゃん」
「あ、当たり前でしょ」
だといいなと思ってしまった俺は、勝手だろうか。
……本性を偽っているくせに。
だけど家を出る三年先までは、こんな穏やかな時間を過ごしたいと思うようになってしまたのだ。
「二人ともありがとう」
下がりそうになる眉尻に喝を入れ、なんとか笑って見せる。
氷奈は優しく微笑み、雪奈はツンと顔を逸らした。
「料理が来たよ~」
空気を切り替えるような篠宮の言葉通り、運ばれてくる御膳。
てきぱきとした仲居さんたちにより、高校生の晩飯にしては豪華すぎる日本料理が目の前に並べられた。
「あ。シイタケとキュウリ」
煮物には十字に切り込みが入ったシイタケが、漬物にはキュウリが使われているのが目に留まる。
「? どうかしたん?」
「雪奈と氷奈がそれぞれ嫌いなんだ」
「へぇ……。よく知っているのね」
おい、椿。見えないよう足をつねるのはやめろ。なんだいきなり!
「凌ちゃん、覚えててくれたんですか?」
「ああ、うん。残すのも悪いから、こっちにくれたら俺が食べるよ」
「ほ、本当!?」
嬉々として俺の皿に移してくる氷奈と雪奈。
行儀が良いとは言えないが、まあ肩肘張る場でもないしいいだろう。
「ふ~ん。仲良いんだね~」
「ほんまやなぁ。ちゃんと家族してるやん」
「ええ。まるでお母さんだわ」
どうやってもそのポジションなのか俺は。
「凌ちゃんは理想のお兄ちゃんそのものですよ! 優しいし、料理上手だし――」
「も、もうその辺で!」
急に氷奈が褒め出したので慌てて止める。
勘弁してくれ。褒められ慣れてないんだ。
「なに、凌大。照れてるの?」
「……照れてない」
「顔、真っ赤やで」
クソッ、ルイスを連れてくるんだった。
嫁の中に隠れたい。
「はいは~い。イチャイチャしてないで食べようよ~」
「ええ、そうね。それで一刻も早く解散しましょう」
本音漏れてるぞ椿。
今日も俺はししおどしをブチ割りたい衝動に耐え、料理を味わう余裕もなくなんとか乗り切った。
中学時代に話が及んだ時に味噌汁を吹かなかった自分にMVPをあげたい。
そして上手く誤魔化した司に詐欺師の称号を贈りたい。




