20話 種明かし
「解決済みって……。どういうことだ」
「……これ」
ルイスが嫁からごそごそ取り出して見せたのは、スマホの画面。
アリスの名でメッセージが来ている。
その文面は『一応、合格』というもの。
どういうことだ。
内容も気になるが、そもそもなぜルイスが篠宮と連絡を取り合っている。
「……他の人に聞かれてもいいの?」
チラッと周囲を見遣るルイス。
確かに周りは野次馬で一杯だ。
今すぐ聞き出したいが、プライベートを明け透けに知られるのも気分が良よくない。仕方ねぇ。
「ルイス、悪いが嫁は置いて行く」
「……え?」
司のジャージを無理矢理被せ、中から全身を引っ張り出すと肩に担ぐ。
そのまま人攫いのように教室を飛び出した。
「……ちょ、凌大?」
「悪いがこの方が早い。舌噛むから喋んのもちょっと我慢してくれ」
向かうは屋上。
この学校の屋上は使用禁止になっておらず、自由に使うことができる。
教室棟ごとにあるので全部で三ヶ所あるのだが、目指すのは一年の教室があるこのA棟屋上だ。
昼休みに司と椿とそこでよくメシを食っている内、俺たち以外の利用者がフェードアウトしていった場所である。
原因なんて言わずもがな。地上げ屋か俺は。
縄張りを主張したことなんて一度もないのに、忖度しすぎだぞ日本人……。
ぎょっとする通行人に構わず駆け抜け、階段も根性で上がる。くっそ重い!
そうして見えた屋上へ続く扉をバンッと蹴破れば、曇天が出迎えた。
暗い雲がところどころ渦を巻く様が俺の心境のようだとか詩的なことを考えてしまったのは、さっきの授業が現国だったせいだろう。
そして野郎と無駄に密着している感触から逃避したかったに違いない。
「降ろすぞ」
そこそこ身長はあっても華奢な荷を解放すれば、フラリとよろめくルイス。
シャツを掴まれていた俺は、引っ張られるようにしてルイスに覆い被さ……らない! そんなフラグはブチ折る!
インナーマッスルを酷使して踏み止まった。よくやった筋肉たち!
キモいな俺。
「……さすが『キング』。衰えてないね」
「腹筋を叩くな。そんなことより説明してくれ」
「……何から?」
「何でもいいから全部」
ルイスは少し考え込むと、スマホを取り出して操作し始める。
「……役者が揃ってからにしようか」
「は?」
――そうして待つこと数分。
揃ったメンツを紹介しよう。
俺、ルイス、司、椿、篠宮アリスである。
ルイスがスマホを操作していたのは、篠宮を屋上へ呼び出す為だったらしい。
訳が分からな過ぎて頭痛ぇ……。
「なんでルイスがここにいるっていうか、先にバラしちゃうの~」
「……俺は凌大の味方」
「待て待て。二人はどういう知り合いなんだ……?」
「ルイス、説明してんか。凌大くんが知恵熱出すで」
「……そうだね。まず俺ってハーフなんだけど」
いきなり何を言い出す。知ってるわ。
ん? ハーフ?
「まさか――」
「……そう。アリスと俺はいとこ。母親同士が姉妹なんだ」
以下ネタバラシ。
双子と篠宮が知り合いなのは本当で、但し実際は仲が良い。
父親同士が同じ大学の出身で親交があり、小さい頃から遊んだりしているとか。
そして両家対面の日に行った料亭は、篠宮父が経営している店だそうだ。
だから篠宮は偶然居合わせたのではなく、再婚相手がどんな人たちか確認する為に張っていた。
そこに現れた俺。
ルイスと一緒に写っている写真(ヤンチャ時代)で俺のことを知っていた為、「あれ? アイツなに良い子ぶってんだ」的な感じになり、警戒し経過観察していたんだと。
どのポジションなんだお前……。
もちろんルイスにも電話で問い質したらしいが、問題ないの一点張り。
いつまでも双子の前で尻尾を出さない俺に、篠宮は本性を暴くテストを仕掛けることにした。
俺が何を考えているのか見極める為に。
それが今日の昼休みの出来事。
「……アリスから連絡があって、止めに来たけど間に合わなかった」
「ごめんね~。ビックリした~?」
「お前、演技もやり口もえげつない……」
「本気だったからね~。まあ放課後には『やっぱ嘘で~す』って言うつもりだったんだけど~」
もうどこからツッコんでいいのか分からない。
テッテレ~♪というお馴染みのドッキリ看板を出されたらブチ破れるのに。
「ってことは、合格やったんやろ?」
「今の関係を壊さないよう下僕になる覚悟までしたからね~。及第点でいいよ~」
女子マジで怖い。
このままでは彼女ができる前に女性不審になりそうだ。……できるかどうかは別として。
「あのさ、篠宮。なんでそこまでしたんだ」
「ん~? 最初は親切面してたのに雪奈ちゃんたちを傷付けたクズが過去にいたから、どうしても見過ごせなくて~」
「ああ……。木崎のことか」
「凌くんも会ったんだっけ~。そうだよ~。アリスは何もしてあげられなかったから、次は絶対助けようって決めてたんだ~」
それでヤンデレストーカー気味セ●ムが爆誕したと。
気持ちは分からんでもないが、警戒レベルが最初からMAXすぎる。
「木崎という人のことは知らないけれど、もし瀬名くんが逆上して暴力に出たらどうするつもりだったの?」
ずっと黙って話を聞いていた椿が、腕を組んだまま偉そうに訊いた。女王様感が凄い。
「催涙スプレーとかスタンガンは隠し持ってたよ~?」
「甘いで篠宮。そんなもん出す間なく殴られてるわ。キングなめんときや」
ハッと嘲笑し間髪入れず反論する司。
おい、注意が俺の極悪自慢にすり替わってるぞ。俺じゃなくても危険だと言ってくれ。ドヤんな。
「篠宮、危ねぇから他のやつにはこういう事すんなよ……。あと合格ならこの首輪もどき、外してくれ」
「え~。似合ってるのに残念~」
篠宮はぶーぶー言いながらも外してくれる。
よかった。最終手段の鍵屋には行かずに済んだ。
男子高校生が「首輪外してください」って来店したらもう通報案件だろ。
「ちなみに不合格だったらどうなってたんだ?」
「言ったでしょ~? おもちゃは壊すまで遊ぶって~」
チョーカーを指先でクルクル回し微笑むアリス。
…………ほ、本気で飼う気だこれ。
ここにもドSがいた! しかもヤンデレ属性! 怖えええ!
「しかし篠宮みたいなんが今後出てきたら面倒やな」
「言えてるわね。今回は無事に済んだけれど」
「無事か!? 俺の精神がゴリゴリ削られたぞ!」
加えてルイスの抱き枕事件だ。
担任からすっかり情緒不安定扱いされるし、そろそろ心が疲労骨折しそう。
「……凌大。疲れたらいつでもシェリーたんを貸してあげる」
そんな名前だったのか、嫁。
「おう、サンキュー。じゃねぇ。いつでもって無理だろ。ルイスはクラス違う――あれ? お前、何組だったっけ?」
「……アリスと同じ」
隣 か よ。
クラス割はアリスから聞いているらしい。俺のも。個人情報漏洩反対。
何にせよ、ルイスが復学すればまた一段と騒がしくなるに違いない。
なにせこの容姿。目立たない訳がないのだ。……嫁も含めて。
「ちょっと寝かせてくれ。疲れた……」
とりあえず一段落した安心感から襲い来る倦怠感に耐えかね、硬いコンクリートに寝転がる。
早速嫁を借りたいところだが、あいにく教室に置いてきてしまった。無事かな。
ルイスに説教する気も失せゴロリと転がっていれば、「仕方ないわね」と椿が近付いて来て、柔らかい物が頭の下に差し込まれる。
こ、この感触は! と一瞬だけ期待しかけて萎える心。
「それでも敷いてなさい」
折り畳まれた司のジャージだよ。
そういえばルイスが俺の席をつきとめられたのも、鞄からはみ出していたジャージに刺繍された名前だってさ。
どうでもいいけど香水臭ぇ。




