16話 俺への当たりがハードモードすぎる
「なんだか色々と知られているようね」
「……みたいだな」
俺と双子の関係も、二人の前では性格を偽装しているということも。
「瀬名くんの下駄箱のネームプレート、まだ旧姓のままなのに『吾妻様へ』と宛名のある手紙が入っているから妙な気はしてたけど、この内容……」
「それであんな真剣な顔してたのか」
確かに言われてみれば、事情を知る人間にしかできない行動だ。
「だったら差出人は俺の名字が最近変わったことを知っている人物、ってことだよな?」
「ええ。候補としては教員と、同じクラスの人間かしら」
他クラスに知り合いはいないので自然そうなる。
教師がそんなことをするとも考えにくいし、となるとクラスの中の誰かが――?
「……いやでも、性格を偽装していることは誰も知らないはずだろ。司と椿以外に話したことなんてねぇし」
「そうね。話せる相手がいないものね」
「それはお前も同じだろ」
「私はモブと話す必要が無いだけよ」
酷ぇ。この一言に尽きる。
「あともう一点、腑に落ちないわ。中学の時に比べてマシになったとはいえ、瀬名くんの評価は不良そのものと言って差し支えない。そんな相手にわざわざケンカを売るなんて、何を考えているのかしら。マゾなの?」
「マゾなら椿のファンじゃないのか?」
「あら、どういう意味?」
「痛い痛い肘を締め上げるなって、そういうとこだよ!」
ほらみろ、ドSじゃねーか!
「気持ちの悪い冗談はそれくらいにするとして。どうするのそれ?」
冗談で関節をキめにくるやつがどこにいんだよ。ここにいたわ。
「そりゃ行くに決まってるだろ」
ふざけた野郎の顔を見ないと気が治まらない。
「会った後は?」
「ぶちのめすけど?」
俺一人に向けての脅迫ならまだ許すが、他人を巻き込むのは駄目だ。
そんなのはルール違反。許さない。
「と言っても、さすがにもう怪我をさせたりはしねぇよ。寸止めで心を折りにいく」
「……それはやめときなさい」
「なんで。売られたケンカは有り余るお釣りで返すのが常識だろ」
「まあ気持ちは充分すぎるほど分かるけれど」
「だよな。椿は俺と同じタイプだ」
むしろ俺よりえげつない方法で女子に報復していたはず。
「でも駄目よ。未遂でも暴力事件なんて起こしたら、停学どころか退学もあるわ。もう義務教育じゃないんだから」
「ぅぐ……。た、確かに」
「そんなことになったらどうなるか、いくら瀬名くんでも分かるでしょう?」
えーっと、恐らくこうなるだろう。
俺が停学もしくは退学になる
↓
直純さんと双子に素行の悪さがバレる
↓
家庭崩壊
俺の人生も崩壊
「ダメじゃん!!」
「ええ。駄目よ。そもそも今までがおかしかったの。殴って友情が芽生えるなんて、司だけだから」
「他にもいたぞ?」
「もうサル山に帰ったらどうかしら」
誰がボス猿だ。引退したわ。
「とにかく。会うなら死ぬ気の覚悟で耐えなさい。それが無理なら行かないことね。退学になんてなったら、言い逃れもできないわよ」
「覆面すればいいんじゃねーの?」
「名指しで呼ばれているのを忘れたのかしら」
「あ。」
「本当にポンコツね……」
心底憐れんだ目を向けられた。
「わ、分かったよ! 手を出さなきゃいいんだろ」
好青年への偽装で忍耐力は鍛えられたはずだ。一応。
高校に入ってからこんなにあからさまな敵意を向けられたことがないから、不安はあるが。
「私もこっそり後を追けて行きたいところだけれど、そうするには相手の情報が不足しすぎているのよね。誰の目を避けたらいいのか分からない。一人でないことが分かったらバラす、とも取れるし」
「脅迫通り俺だけで行くのが無難、ってことだな」
「腹立たしいけれど、そういうことになるわね」
最初からそのつもりだったから、そこは別に問題ない。
「というか、やけに優しいな椿」
「は?」
「色々アドバイスくれたりさ」
「そんなの今更でしょう。偽装するって言い出した時なんて、どれだけ協力したと思っているの」
何言ってんだこいつ、みたいな顔で呆れられた。
「そうだな、すまん……。椿と司には本当に感謝してるよ」
どうやって返せばいいか分からないほどの恩を感じている。
こうやって同じ高校に通えているのも、椿と司が受験勉強をサポートしてくれたからに他ならない。
自分の勉強そっちのけで教えてくれたから俺はここにいられるのだ。
少しでも恩を返せればいいんだが、こいつら揃って優秀だからな……。
でもいつか絶対返そうとは思っている。
「感謝は態度で表して欲しいわね」
「じゃあハグでもするか」
「そこの保健室のお世話になりたいのかしら……?」
双子がよくやる様子を思い出しての冗談だったのだが、割とマジでキレられた。
全ての感情を殺したような顔をしている。美人の真顔って怖い。
「わ、悪かったよ。今度何か奢らせてくれ」
「はぁ……。もういいわ。今後、私のお願いを一つ聞くということで。それでセクハラは無罪にしてあげましょう」
「ここにも脅迫犯がいた!」
「不用意に女子に手を出したらどうなるか、甘く見ないことね」
「出してねぇのに理不尽だろ……」
「事後なら重りと一緒に海の底よ」
古風な制裁方法! ネットに晒すとかじゃねぇとは、SNSを使わない椿らしい。
どっちにしろ死ぬけど。
「……分かった。じゃあそれで」
「さて何にしようかしら? 楽しみね」
「じゅ、授業が始まるから戻るぞ!」
ふざけた脅迫文をぐしゃっと丸めてポケットに突っ込む。
それから不穏な気配を誤魔化すように、わざと大股で歩き始めた。
だから椿が何か呟いたのにも気付かなかった。
「まったく人の気も知らないで。……瀬名くんのバカ」
その後、教室に着いて司にもこの事を話し、ようやく昼休み。
ちょっと前に言っていた状況に至る。
……至るのだが、どうしたものか。
「よく来てくれたね~」
俺を呼び出したやつはニコニコと可愛らしく微笑む――女子だった。




