11話 良いことばかりは続かない
「凌ちゃん、和食も作れるんですか?」
「まあ家庭料理の範囲くらいなら」
「あ、じゃあ焼き鮭食べたい。あと、お味噌汁」
「分かった。氷奈は何かリクエストある?」
「氷奈はかぼちゃサラダが好きなんですけど……」
「いいよ。じゃあ晩のメニューはそれで」
「えっ、いいんですか!?」
「? うん。一応、何度か作ったことあるし。母さんも好きだから」
「凌ちゃんって良いお嫁さんになれそうですね……」
「私もそう思うわ……」
「……婿じゃなくて?」
現在、俺と双子は昨日のスーパーで待ち合わせ、買い物中。
氷奈の提案で今朝連絡先を交換し、怖いくらい順調に進んでいる関係に感慨に浸っていたら、昼休みに氷奈から『今日の晩ご飯どうしますか?』とネコがナイフとフォークを持ったスタンプ付きでメッセージが来たのだ。思わず二度見した。
緊張しながら『俺が作る』と返信すれば、放課後に待ち合わせて一緒に買い物をしようという流れになり、ようやく合流したところ。
相変わらず目立つので賑わう店内でもすぐに見つけられた。
「俺は野菜を見てくるから、買いたい物とか選んできていいよ」
「なんかもう嫁を通り越してお母さんぽいわね……」
誰がオカンだ。俺からお前らみたいな美少女産まれねーよ。
実際に双子を産んだ人はかなりの美人だ。
もう亡くなっているけど。
吾妻邸に引っ越した当日、和室に設えられていた仏壇に手を合わせた時に写真を見たのだが、女優かと思うくらい綺麗な人だった。
飾られたフレームの中のその人はとても幸せそうに微笑んでいて。
――あまりに若かった。
病死だったそうだ。
母さんからそれとなく聞いていたが、雪奈と氷奈も俺と同様、小さい頃から片親で過ごしてきたんだと、その時初めて実感した。
「凌ちゃん? どうかしましたか?」
「ごめん、何でもない。それより行かないの?」
「……なによ。追い払いたいわけ?」
「そういうわけじゃ……」
ある。正直、一人の方が気楽に選べる。
「もー。一緒にお買い物したいって素直に言えばいいのに」
「そっ、そんなわけないでしょ!?」
雪奈が真っ赤になって否定するが、氷奈は穏やかな顔で続ける。
「氷奈たちお互い以外でこんな風にお買い物したこと、ほとんどないんですよ。だから楽しくて……。昨日はちょっと一緒に歩いたぐらいでしたけど、こうして一緒に食材を選ぶと、いかにも家族っぽいですし」
今度は雪奈も否定しなかった。
頬を染めたまま、俺から視線を逸らしてツンとしている。
お、おお……。そういうことなのか。
「えーっと、じゃあ選ぶの手伝ってくれる……?」
「! し、しょうがないわね!」
提案した途端、嬉しさを隠し切れない様子で返事をする雪奈。
「はい、任せてください!」
氷奈も同様だ。
こんなことぐらいで喜んでもらえるとは、美味しいものを作らねぇとな。
冷食も使えば品数も増やせるか。
「そういえば冷凍庫何も入ってなかったけど、何か買ってストックしておかない?」
「「え……」」
なぜか急降下する二人のテンション。
あれ?
「あの、作るのが面倒とかじゃなくて、あれば便利だと思って言った……んですが」
吾妻家にはインスタント食品もない。
一つも。
庶民の味は馴染みがないとかそういうことなのか分からないが、一つもないのにはさすがに驚かされた。
母さんも出張に行く前「ご飯は凌くんが作るか、外食してね」と言っていた。
冷凍食品の一つでも買い置きしておいてくれればよかったのに、ストックはゼロ。
毎回、一から作れと!? と戦慄したものだ。
「すみません、冷凍食品はちょっと……」
「……見たくない」
「そ、そこまで……? 食べたことは?」
「ありますよ。小さい頃に散々食べました」
「散々? 直純さんが料理できるようになるまでってこと?」
今は料理上手でも、やり始めは酷いものだったはずだ。
今の雪奈と氷奈みたいに。
……いや、あそこまで酷いやつはそういねぇわ。
と、とにかくそういう時や忙しい時に活躍するのが冷凍食品。
やっぱ慣れるまで結構活用してたんだろうか。だから食べ飽きたって感じか?
「そうだけど、多分凌大が思ってることと違う」
「?」
なんだそのとんちみたいな答え。
すまん。俺の頭脳は低スペックなエコ設計だからサッパリ意味が分からん。
「……雪ちゃん、話してもいいんじゃない?」
「…………」
雪奈は無言で氷奈の手をぎゅっと握る。
何の話だ……?
よく分からないが、すごく迷っている空気だけは伝わってくる。
「――あら? 雪奈ちゃんに氷奈ちゃんじゃない?」
突然背後からした声に思わず振り返れば、そこに立っていたのは買い物かごを下げた四十代くらいの女性。
パンツスーツを着たキャリアウーマンらしいキリッとした美人だ。
「き、木崎さん……」
誰だ? と思っていると、氷奈が驚いたようにその人物の名を呼ぶ。
嬉しさではなく、嫌な方の驚き方で。
「お久しぶり。大きくなったわねぇ」
木崎と呼ばれた女性は親戚みたいなことを口にするが、言われた双子からは親戚に対する和やかさなど欠片も感じない。
むしろ雪奈など睨み付けている。
……明らかに様子が尋常じゃない。
「どういう――」
関係だと思わず口から洩れた疑問は、意外な答えを引き出した。
「昔うちに来ていた家政婦さんです」




