???(時系列不明の昔話)
歌うことが好きだった。
今とは違い、対した娯楽のない時代の、小さな村だ。
人々の考え方はずっと凝り固まっていて、悪魔だ魔女だと馬鹿な人たちが叫んでいた時代。
そんな暗い時代の中で、歌という好きなものを見つけられた私は、とても幸せ者だったのだろう。
生れた時から慣れ親しんだ『歌』。
最初は教会でみんなと声を揃えて賛美歌を歌っていただけだった。その頃はまだ漠然と歌うことが気持ちいいと思っていただけだったけど、次第にそれが『好き』に、そしていつの間にか『大好き』に変わっていた。
楽しい。歌うと、心が満たされる。歌っているだけで心がふわふわして、だけど自分をしっかりと見つけられて。色んな思いが胸を満たすけど、だけど何も考えずに一心不乱に音楽に合わせて声を出す。音の中に身を委ねて、音とともに世界を彩ることができる。
それに私が歌うと、村のみんなが本当に嬉しそうに喜んでくれるのだ。笑顔を浮かべて、拍手を送ってくれる。
『■■■はいつか、国王様に仕えられるかもしれないなあ』
『そうねえ。■■■の歌はとても美しいもの。みんなを虜にしてしまう。きっと、神様があなたに授けた奇跡なのよ』
両親はいつもそんなことを言っていた。村一番の声を持つ私が誇らしそうだった。それを見て、私はもっと嬉しくなった。
楽しかった。毎日が輝いていた。歌を歌うだけで日々が彩られた。世界が輝いて見えた。
だから、もっと歌を歌った。もっと上手になれるように。村の人たちを、もっともっと喜ばせられるように。もっともっと、幸せを与えられるように。
いつしか私の歌う理由が変わっていた。
誰かを喜ばせたい。笑顔を与えたい。背中を押したい。
きっと私は、そう――今風に言うのなら、才能があった。
才能――つまり、神様が与えてくれた奇跡だ。
『ありがとうございます、神様! 私はあなたに貰ったものを無駄にはしませんから! だから見ていてください、きっとたくさんの人たちを幸せにしてみせますから!』
その誓いの通り、私の声はどんどん美しくなって、私の歌はさらにさらに人を幸せに、笑顔にした。
そうしてある時、村という小さなくくりだけど――私はひとつ、夢を叶えたのだった。




