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別れ、そして再会

「我が輩は西の国、ここよりもっと寒いところで生まれたのだ。我が輩たち木の精霊は、太陽の光と豊かな大地さえあれば暮らしていける。我が輩の故郷はまさに楽園であった。だが、我が輩はある日、旅人の話を耳にしたことがあってな。俄然、外の世界を見てみたいと思うようになったのだよ」

 ミモーはゆっくりと腰を下ろした。それに倣って3人もミモーの周りに腰を下ろした。

「まずは南に下っていった、心地よい風が印象的であったな。あぁ、古代の人間が作ったという遺跡も見て回ったぞ。あれはいい! 今の人間が建てる物には魅力を感じん。まぁそれはいい、そのあとは一度船に乗り、別の大陸に渡った。ここには動物がたくさんいてな。多くの友人ができたぞ」

「動物と話せるの!?」ヤマヤンが割って入った。

「あぁ。ゾウやキリン、チーターやサイにライオン、なかなか愉快な奴らだよ。ただ、あのカバとかいう連中とはそりが合わんかったがな」ミモーは苦笑した。

「それからまた船に乗り、元の大陸に戻ってきた。あぁ、この後がきつかった。砂漠を越えなければならんかったのだ。あの砂は厄介だよ。我が輩の関節に入り込むんだ。気をつけねば、体が動かなくなってしまう」

「砂漠って、ピラミッドとか観たの?」

「それはエジプトだな、今話している砂漠は別の国のものだぞ」

「そうなんだ。それで、それから?」マー坊が先を促した。

「おぉ、我が輩は砂漠を越えたあと、大きな山に登ったぞ。だが、安易に挑戦するものではないな。今度登るときはしっかり準備せねば」ミモーは地面をポンポン叩いた。

「山の次はまた、海に出た。この時だよ、ひどい嵐に襲われたのは。我が輩の背丈の何倍も大きい波、船は大きく揺れて、気分が悪くなったわ。そして、この嵐を乗り越えて我が輩は今、この国に到着したのだ」

 3人は目を輝かせながら、ミモーの話に聞き入っていた。


「そういえば、ミモーって日本語が上手だね?」トシ兄が尋ねた。他の少年たちも頷いた。

「日本語? 我が輩は君たちの言語を話しているわけではないぞ。精霊の言葉しか知らんからな」

「え? でも今話しているじゃないか!」

「いやいや、我が輩には、お前たちが精霊の言葉で話しているように聞こえるぞ。まぁ、これは、木の精霊が使う魔法の力によるものなのだよ」

「魔法!? ミモー、魔法使えるの?」少年たちはさらに目を輝かせた。

「ああとも!」ミモーは胸を張った。

「どんな魔法が使えるんだい? 空を飛べる?」トシ兄が身を乗り出した。

「空? 空は飛べん! それは鳥に任せておけ」

「えー」3人は目に見えて落胆した。

「空を飛ぶことはできんが、それに近いことはできるかもしれん」

ミモーは立ち上がり、何かぶつぶつと呟いた。すると、「森の主」の大きな枝がするすると降りてきた。

「わぁ! さっき僕のバットを取ったときと同じだね!」

 枝はミモーたちの足下で動きを止めた。

「さぁ、鳥の気分を味あおうぞ!」ミモーは枝に飛び乗った。少年たちも枝に乗った。すると枝は木の頂上まで上がっていった。

 ミモーと少年たちは「森の主」の頂上から森全体を見渡していた。さらに遠くを見ると、自分たちの町も見える。さらにその先には海も見ることができた。

「すっげぇー!」3人とも目の前に広がる光景に歓喜した。見慣れた町ではあるが、視点が違うと新鮮味があった。

 強い風が吹いた。枝が揺れ、3人は慌ててしがみついた。

「ははは! チビ助ども! 恐れることはないぞ。風を楽しみたまえ」

ミモーは両腕を大きく広げ、風に身を任せている。

「ミモー、危ないよ! 落っこちちゃう!」ヤマヤンが叫んだ。

「大丈夫さ! この木が落ちないよう助けてくれる。だから今は鳥のように風を感じたまえ」

 まず、トシ兄が思い切って枝から手を離し、ミモーと同じように両手を広げた。続いてヤマヤンが、最後にマー坊も同じように手を広げた。

「鳥になった気分はどうだ?」ミモーが笑いながら言った。

「最高だよ!」少年たちは生まれて初めて鳥の気分を味わった。


「ミモーはこれからどうするの?」マー坊が尋ねた。

 ミモーたちは木から降りて、また地面に座り込んでいた。

「うーむ、また旅を続けるつもりなんだが、問題があってな」困ったように眉根を寄せた。

「問題って?」

「うむ、我ら木の精霊には厄介な生態があってな。実は我が輩たちは周期的に5年間の休眠を取らねばならんのだ」

「5年間!?」3人は仰天した。

「あぁ、もう眠らねばならんのだ。どこか休眠できるところを探さねば、それも結構広い土地でなければならん」

「どうして?」

「我々が休眠をとるとき、姿が木に変化するのだ。他の木とまったく一緒さ、見分けはつかん。だが、我が輩はノッポでな。大きな木に変化するのだよ。この森では他の木に迷惑がかかるし、人間たちが暮らしている場所もダメだろう」

「眠らないってのは無理なの?」

「無理だ、睡魔には逆らえん。お前たち、どこかいい場所は知らないだろうか?」

 3人は考え込んだ。そして、3人とも同じことを思いついた。

「佐藤ばあちゃんの家だ!」少年たちは顔を見合わせた。

 ミモーはポカンとしていた。


 少年たちとミモーが佐藤おばあさんの家に着くと、既におばあさんは帰ってきていた。

「ばあちゃん、話があるんだ」トシ兄が戸口越しに言った。

「なんだい?」おばあさんが戸口を開けた。少年たちの後ろのミモーを見てびっくりしたようだ。

「まぁ、これは珍しいお客さんだねぇ」

「最初から説明するよ……」トシ兄が事の経緯を説明した。

「えぇ、えぇ、私は構わないよ。見ての通り、寂しい庭だからね」

おばあさんは快く了承してくれた。

「本当!? ありがとう、ばあちゃん!」少年たちは飛んで喜んだ。

「ご婦人、なんと感謝してよいやら……しばらく居候させてもらいます」ミモーはその大きな体を折り曲げて、礼を述べた。


 ミモーは庭の一角に立ち、少し離れたところにいる少年たちとおばあさんを見やった。

「しばしのお別れだ」ミモーは言った。

「また、5年後に会えるよね」とトシ兄。

「目が覚めたら、もっと色んなお話聞かせておくれよ」とマー坊。

「ミモーが眠っている間も僕たちここに遊びに来るからさ」とヤマヤン。

 突然ミモーの体が光出した。あまりの眩しさに思わず目を閉じてしまう。

 光に包まれたミモーの体はどんどん大きくなり、その姿が変化していった。

 光が収まり、少年たちが目を開けると、ミモーが立っていたところに大きなモミの木が立っていた。「木の主」よりも大きいその木は堂々とした佇まいで、彼らを見下ろしている。風に揺れる枝を通して、3人は「ありがとう」とミモーの低い声を聞いたような気がした。

 少年たちはしばらく木を眺めていた。

 突然、マー坊がポケットを探り、何かを取り出した。

「あ! 僕、結局水鉄砲使わなかったや」


 3人はそれからも、佐藤おばあさんの家に遊びにきた。中学生になり、なかなか遊びには来れなかったが、それでも集まれるときは3人で立ち寄った。高校生になると、3人とも別々の高校に通うことになり、なかなか遊ぶことができなかった。

 

 そして、5年後。なんとか、3人とも時間を作ることができ、久しぶりに佐藤おばあさんの家に集まった。おばあさんは相変わらず元気にしていた。

 4人でモミの木を眺めていると、木が突然光だして、どんどん小さくなっていった。やがて人型の形に変化し、光が収まると、5年前と同様の姿のミモーが立っていた。彼は少年たちを見ると、ニヤッと笑った。

「少しは大きくなったじゃないか、チビ助ども!」



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