5.虎の求婚
再び国王から呼び出された時、一つの予感はあった。
謁見の間で跪き、頭を垂れるメーロウに白金の毛並みを持つ国王が長くたくわえさせた髭を撫で、一つの現実を口にする。
「実はな、メーロウ。アディレがリツィア姫を身請けしたいと申しておる」
アディレ国。メーロウの表情がわずかに変わる。顔を上げて見れば国王の隣に控えるレダが苦々しい表情で眉間に皺を寄せていた。
「勿論身代金を払うつもりらしい。国王や王妃でもない一国の姫であるリツィア殿に貴賓としての価値は低いが、交渉すればそれなりの大金が我が国に入るだろう。また、同時に移民も受け入れると言っている。つまり、収容所の捕虜の分も支払う心積もりがあるということだ」
「……それはまた度量の大きい話でございますね。アディレは何故リツィア姫を?」
「恐らくだが。あの国には嫡子以外を含め、皇子が8人おる。そのうちの誰かに娶らせるつもりだろうな」
床についた手が拳に変わる。
アディレは人間の国。しかも大国だ。リツィアにとっては待ちに待ったと言える程の良い話。しかも収容所の民までもが救われるのだから、この話を聞けば彼女は一にも二にも首を縦に振る事だろう。
想像しなくても判る。彼女は民が捕虜の身から解放されるのであれば顔も見たこともないような皇子だろうが自ら進んで妻になるだろう。
人間は排他的で閉鎖的な種族。だからこそ、人間は同種族と共にいる方がずっと物事が円滑に行く。
真にリツィアの幸せを願うなら、自分は身を引くべきなのだ。
――だが。
メーロウは跪いたまま国王を見つめる。その相貌は、国王の剣と誓った英雄の顔。私情を交えない冷徹な武人がそこにいた。
「畏れながら国王。アディレは策謀に長けた大国でございます。リツィアを娶り、収容所の捕虜を貰い受けるには何かしらの理由があるのでしょう。恐らくは、かの国にとって利となる事が」
「まぁ、そうであろうな。それで、メーロウはどう見ておる?」
「……兵の増員。また、リツィア姫をアディレの公人と迎える事で捕虜達の士気を高める事が目的でしょう。男は兵となり、女子供は糧を拵えます。全てはアディレの為に。アディレに住まう彼らが姫の為に」
そうしてメーロウは目を伏せる。今、この時でしか彼女の運命は変えられない。
変えるのは自分だ。彼女の意思を無視して、彼女が受けるべき幸せの道を絶つ。
――すまない、と心で謝り、メーロウは再び顔を上げた。
「アディレはきっと捕虜達に植えつける事でしょう。虎人への憎悪を。エインラーク憎しと、亡国となった母国の恨みを再び燃え上がらせ、いつか必ず我々に剣を向けるでしょう。かの亡国のように」
「ならばまた、お前が滅ぼせばいい。何か問題があるのか?」
冷たい声で言い放ったのは義兄、レダだ。メーロウは彼にも目を向け、やがてゆっくりと首を振る。
「国王がそれを望むのなら私の剣は迷いません。ですが、あまりに不毛だと思うのです。戦は人が死ぬ。敵も死にますが、味方も死にます。今回の戦いでも沢山の兵が地に伏しました。……それを繰り返すと判っていながらアディレの話を飲むのは憎しみの連鎖に繋がるも同じ。そんなものは、悲しすぎます」
それは、戦場に立つ者の言葉。
兵の上に立ち、指示をするだけの者にはわからない言葉。
目を閉じ、再び開けばいつだってメーロウの周りはあの血煙に溢れた地獄絵図。死にたくないと叫ぶ同胞を時に看取り、命乞いをする敵を容赦なく斬り捨てた、あの紅い世界。
味方の士気を上げる為に人間の集落を潰し、女子供も修羅の如く斬ってきた。
人は男を英雄と呼ぶ。だが、男にとって英雄とは、ただの殺戮者としての烙印にすぎない。
多くを殺しただけだ。
人より沢山殺したから、英雄と呼ばれたのだ。
だが、メーロウは後悔をしない。それが自分の生きた道だから。……だが、自ら進んで修羅になろうとは思わない。どうせ憎むなら……愛したいから。
国王が思慮するようにゆっくりと髭を撫でる。
「しかしな、メーロウ。レダの言う事も尤もなのだ。捕虜を収容するにも国費がいる。市井の民として生かせば確かに収容費は浮くが、得るものがない。本来捕虜とは他国に身代金を要求する為に保管している、言わば譲渡物のようなものだろう?我々に利がなければ、捕虜は売るのが定石だと思うが?」
「それに関しましては、私に案がございます。どうか、聞くだけでも考慮してもらえないでしょうか」
「……メーロウに案とな?ふむ、とりあえずは言ってみるがよい」
これが彼にとっての切り札。聞くだけでも、等で話を終わらせるつもりは毛頭ない。メーロウは今ここで国王に首を頷かせるつもりで、自分の策を口にした。
「どういうつもりだ」
謁見が終わった後、カツカツと硬く響く廊下を歩くメーロウに再び後ろから声をかけられる。振り向くと、やはりそこにいたのはレダだった。
「どういうつもりも何も。私としては一番にエインラークの利となる案を提示したに過ぎませんが」
「戯言を。お前はただリツィアが欲しいだけだろう」
「……然り。ですが、いずれ敵となると判っていて、あの国に菓子をくれてやる事もないでしょう。例えその菓子がまばゆい金塊との交換であっても」
「それは、そうだが……。しかし、納得がいかん。なぜ、お前まで退く必要がある。あの人間の為にお前がどうしてそこまでするのだ!奴らは……私達の仇なのだぞ」
そう。人間は――メーロウやレダにとって仇だった。
義兄の、かの種族に対する強い憎しみはそれが原因だ。しかしメーロウは軽く俯き、やがて遠くを見る。王城の中庭に繋がる回廊は美しい白亜に包まれていて、箱庭から差し込む陽の光に、彼は目を細めた。
「……平和になれば、英雄は必要ありません」
「また戦が起る。なれば、お前はまた戦場へ往く。英雄としてな」
「でしょうな。しかし、私がここに居座れば居心地の悪い者も多いのです。何せ一等兵上がりの中将。敵を多く殺した故に得た椅子に嫌悪を覚える者は多い。戦の駒になるのはともかく、政治の駒にされる位なら、私は退く手を選びます」
「……居心地の悪い者。それは私の事を指しているのか」
低く唸るような声。メーロウが目を向ければ、複雑そうに、しかし若干苛々とした表情をする義兄がいた。
彼はゼルデ家の嫡男。名家の出であるが故に、元帥の座を得た。しかしそれは父の世襲に近く、彼自身の力で手に入れたとは言い難い。
勿論、彼自身仕事ができる男だから世襲とはいえ元帥になれたのだ。だが、戦場に一度も赴いた事のないその椅子は、男にとって空虚なものだった。それなのに、正妻ではない側室の子が英雄となり、人々の誉れとして褒め称えられている。
――それが、まるで比べられているようで。レダにとってメーロウは嫌悪の対象だった。
「……私はここから離れた方が良いのです。貴方の為にも、国にとっても。平和を得た国に殺戮者はいらない。できる事ならばこれから先、生涯を田舎で過ごしていたいものですな。楽隠居ですよ」
がはは、と明るく笑って。全てを理解しているメーロウは碧いベリルを細める。
豪快で豪気。明朗活発で他者を引き寄せる男を、レダは嫌悪していた。
だが、同時にどうしようもなく憧れていたのだ。
それは自分ですら自覚できない、心の奥底に仕舞った感情。レダはしばし目を伏せ、やがて「そうか」と短く相槌を打ち、カツカツと踵を鳴らして歩いていく。
義兄の後ろ姿はそれでも背筋を伸ばして歩幅は広く。元帥の証である赤い外套がゆるやかにたなびいた。
◆◇
今日もメーロウは花を摘む。エインラークの街の近くにある野山はいつも美しい花で溢れており、花を見つけるのに苦労は無い。
だが、男は真剣な顔をして彼女に似合う花を選んでいた。どれが彼女にとって好きな花だろう、これなら喜んでくれるだろうか?
リツィアの顔を思い浮かべては、あれでもないこれでもないと野山を歩き回る。
暫くして、これが良さそうだとメーロウは膝をついた。今日は黄色の花が目についた。いかにも春らしい、柔らかで小さい花びらをいくつもつけた、まるで義兄の毛並みのような小金色の花。
メーロウは花の知識が皆無に等しい。花言葉など勿論知らない。ただ、愛しい女性に喜んでもらえるような可愛らしい花を選んで摘む。
今日は5本。黄色い花を大きな手に携え、メーロウは街に戻る。否、ラウ夫人の屋敷へと。
「リツィア」
軽く戸を叩いてから、彼女の部屋を訪れる。傷の療養中であるリツィアは自室のベッドに座り、何かの詩集を読んでいた。
「はい。こんにちは、メル様」
彼が入った途端ぱたんと本を閉じ、ベッドのふちに腰をかけて迎えるリツィアにメーロウは首を傾げる。
「何の本を読んでいたのだ?」
「暇つぶしに、とラウ様からお借りした詩集です。虎人の詩人が書いた詩集も趣きがあって良いですね」
「なるほど。――ああ、今日は詩を書いてくるのを忘れた。昨日からばたばたとしておってな。しかし、花は持ってきたぞ。ほら、野山に沢山咲いていた花だが、とても可愛らしいと思ってな。摘んできた」
「まあ。……鼓草ですわね。春らしい、まるで陽のような花。いつもありがとうございます。メル様」
白銀の毛並みを持ったメーロウの手が握る花は、彼の体格と対比して酷く小さく見える。それを、細い手首を持ったリツィアの手が伸び、彼から黄色い花を受け取った。
水差しから花瓶に水を入れ、花を飾る。メーロウは彼女のその丁寧な仕草を見るのが好きだった。
……否、これからだって、ずっと見ていたい。自分の摘む花を、いつまでも受け取って欲しい。
メーロウは静かに覚悟する。
「……実はな、リツィア。話があるのだ」
「はい。何でしょう?」
首を傾げてベッドから見上げるリツィアの前に、メーロウは跪く。今まで彼がリツィアと同じ目線で話してくる事が無かったからか、彼女の瞳がわずかに見開いた。
「収容所にいる、捕虜の事なのだが」
言葉を口にした途端、リツィアが緊張したような面持ちを見せる。そして食い入るような強い瞳が、メーロウに向けられた。
「新しい居住地が決まったのだ。私が国王より賜った領地。あまり広くはないが小さな虎人の村もある。……だが、まだまだ開拓が進んでいない土地でな。今を住む住民のみでは人手が足りぬのだ。だからそこに人間の民を住まわせ、労働に励んでもらおうと思うておる。勿論、捕虜でも囚人でもなく、エインラークの民としてな」
他種族が移民すれば多少の軋轢や諍いは起きるだろう。だが、それを乗り越えなければ判り合えない。ならばこそ、メーロウは小さな村がある領地を選んだ。
まずはそこから、少しずつお互いが歩み寄れば良いと思ったのだ。争いが起きれば自分が調停に向かえる程度の小さな領地を。
そして、ふたつの種族が手を取り合うにふさわしい人物を、彼は見た。
「リツィア。そなたもそこに赴き、民の指針となって欲しい。領主が私であると皆が萎縮しよう。だからそなたが管理するのだ。新しい、領地を」
「わたくしが……領主?」
「勿論、本来の領主は私だ。うん……。何と言おうか。そう、雇われ領主だな。私の代わりに色々見てやって欲しいのだ。無論、学ぶべき事は多いし毎日は大変だと思う。屋敷も雇いの使用人がいるわけではないから、家事もある程度はしなければならない。しかし、どうだ?リツィア。そなたはこの案をどう思う」
するとリツィアは少し悩むような表情をし、小さな唇に指を添える。ややあって、再びメーロウに目を向け「しかし」と懸念するような声を上げた。
「わたくしが仮の領主となれば、元から住んでいた虎人の住民が不満の声を上げるでしょう。ここは虎人の国なのにどうして人間が領主を務めるのか、と。そんな所で働きたくはない筈です」
「そ、そうだな。それは私も同じことを思うている。そこでだ。……その。リツィア。わ、私と、私……と、いっ……一緒に、ならぬか?」
「……え?」
きょとんとするリツィアに、メーロウは跪いたまま彼女の手を握る。それはあの時、園庭で勢いのまま求婚してしまった時と全く同じで、男の顔は真っ赤に染まっていた。
「私のつ、妻に、なって欲しい。そっそれで、ふたりで、領地を治めないか。人間のそなたと虎人の私が手を取り…合えば、た、民も、そのうち……ついてきてくれるのでは、ないかと……思うのだ」
「メル様……」
たどたどしく二度目の求婚をする虎人に、リツィアは僅かに戸惑った表情をする。しかしやがて、困ったように目を伏せると力なく微笑んだ。
「貴方様はそういった、外掘りを埋めるような行為はなさらないと思っておりました」
「う、それを言うな。私も柄ではないと思うておる」
「わたくしがもし、ここでいいえと答えれば、貴方様はわたくしを罰するのですか?民はどうなりますか?」
メーロウが何時の間にか俯いていた顔を上げるとリツィアはどこか無表情に、真意を見せない顔をして彼を見つめている。
それがまるで責められているように思えて、自分はやはり方法を間違ったのかとメーロウの耳がへなりと垂れ、ぴんと張り詰めるヒゲも尻尾も力なく下がった。
しかし、最後の矜持を持って彼は答える。それはしっかりとした意思の強い声だった。
「求婚は命令ではないからそなたを罰するなどしない。民もそなたも変わらない。人間の民は私の領地に住んでもらい、そなたには領主になってもらう。私……は、その……」
うう、と唸って悲しそうにメーロウは目を伏せる。彼女の夫になることができなければ、自分は領地にある屋敷に住めない。彼女に出て行ってもらうなどと言う選択肢など、はなから存在していない。
だが、自分もまたあの領地を治めなければ、今を住まう虎人の民が納得しないのだ。それならば……。
「まぁ、その、新しく小さな屋敷でも建て、そこに住むしかないな。……こっそりとそなたらの様子を監督して……」
我ながらなんとも情けない案だ。
しおしおとしながら俯く。しかしそこに、柔らかいものが頬に触れてきた。
――リツィアの、小さな白い、手だ。
「……申し訳ございません。今の質問は意地が悪かったですね。……ですがメル様、お言葉はとてもありがたいのですが、わたくしは前にも申しました通り、亡国の責任を負う身です。そのわたくしが……婚儀など、上げてよいものか。せめてこれが愛のない政略的な話でしたら良かったのに。……貴方様はわたくしを愛してくださるから、どうしたら良いのか……わからなくて」
彼の頬、白銀の毛並みを優しく撫でながら、リツィアは僅かに顔をそらす。彼女の視線の先にあるものは、黄色に彩る可愛らしい野山の花。
確かにこれが完全に策謀的な愛のない求婚であればリツィアは頷いただろう。何故なら自分が幸せになることは無いからだ。しかし、すでにメーロウはリツィアに愛を伝えてある。だからこそ彼女は最後の一線を越えられずにいた。……自分が幸せになってしまいそうで、怖いのだ。
しかし、メーロウは優しく碧のベリルを細める。
そして穏やかに「なぁ、リツィア」と声をかけた。
「……私の両親はな、人間に殺されたのだ。先の戦の最中にな」
「え……?」
「父はこの国の元帥をしておってな。母はその側室であった。母の住む屋敷に父が訪れた時、人間の間者が現れ……そしてふたりは殺された」
思わず黙り込み、メーロウを見つめるリツィア。その彼女をメーロウは悟ったような表情をして見つめ返す。
レダにとって人間とは父を、メーロウにとっては父母を殺された憎き種族だった。
「最初は憎んだ。憎んで、その思いのまま……多くを殺した。だが、私が憎み殺した人間には勿論、国で待つ者がいて……その者達がまた兵となり、私を殺そうと剣を向ける。そんな憎悪を、私は沢山見てきた。私の憎しみが殺戮を生んだのだ。憎しみは螺旋のように連なり、道は終わる事なく憎悪が憎悪を呼ぶ」
恨み、罵詈雑言。数多に彼は罵られ、そして斬ってきた。
その頃にはもう自身の恨みは消えていた。ただ、義務のように殺した。国王の剣として、意思を捨てて殺しつくした。
「そなたもまた、父母を亡くしただろう。確かに死因は自決だっただろうが、戦が彼らに、その選択を迫ったのだ。ならば、リツィアの父母は戦に殺された。……私の父母と同じにな」
「……メル、様……」
「真に幸福を願う資格が無いのは私なのだ。この手はもう鮮血に濡れていて、肉や骨を切り裂く感触など今斬ってきたかのように鮮烈な感触が残っている。多くを殺した私は、幸せになってはいけない。何度もそう思った、だが……それでも」
力なくメーロウは頭を垂れ、それでも彼女が頬をなでる手をぎゅっと握った。
そして両手で包み込む。毛むくじゃらの大きな手に対し、半分程しかない小さな手。……だが、柔らかく、優しく、汚れていない。愛しい包帯だらけの手。
「私は、幸せになりたい。……そなたが欲しい。リツィア」
「……」
「きっと過去の罪に苛まれる日も来るだろう。幸せになるほどに、己の内側からくる違和感や罪悪感。様々なものに苦しみ、時には後悔するかもしれない。だが、その時はそなたと一緒がいいのだ」
「メル様……」
「幸せも苦しみも、全て全て、そなたと共に味わいたい。私の妻になってくれ、リツィア」
「……っ!メルさま……!」
思い余ったようにリツィアがメーロウの胸に飛び込み、彼の黒い外套をしかと抱きしめる。メーロウもまた、彼女の細い体に腕を回し、壊れ物を扱うように優しく抱き留めた。
「リツィア、共にいよう。愛している、リツィア」
「メル様……。わたくしも、貴方の優しい瞳が、共に詩を交わすあの時間が、夢のように楽しく、好きでした。……ごめんなさい。でも、嬉しいのです。メル様、わたくしを許してくださいませ……」
「ああ。……いつかふたりで、あの亡国を参ろう」
彼女が何に謝ったのか。それを痛いほどに理解したメーロウは、優しく彼女の小さな唇に口付けた。
やがて時は流れ――。
虎人の大国、エインラークには小さな集落がいくつかある。その一つ、かつて白銀の英雄と呼ばれた男が住まう領地があった。
黄金色に輝く麦畑に、季節ごとに変わる野菜達はのびやかに陽の光を浴びる。
虎人と人間という異種族同士が共に力を合わせ、収穫に精をだしている中、一際大柄な男がせっせと小さな鎌で作物を刈り取っていた。
しかし突然、そんな彼の耳がぴくりと動き、何かの音を探り出す。毎日のようにこの時間になれば彼女が現れるから、足音だけで判るのだ。
男はのっしりと起き上がり、大きく手を振る。そんな彼にバスケットを高く掲げて歩いてくるのは――。
小さな我が子を片手に抱く、金色の髪をした男の妻。
翠がかった碧という宝石のような瞳を持つ、愛しい人。
男は首に巻いた手ぬぐいで汗を拭き、穏やかに微笑む。
その碧いベリルを細ませて――。
Fin
ツイッターの診断メーカー『獣人小説書くったー』にて出た結果を元に執筆した小説です。『戦歴の英雄である虎の獣人で求婚する話』でした。