絶体絶命
今宵の宴は?
第八十一章
絶体絶命 ― 信長、最大の危機 ―
黒い雲が空を覆い尽くした。
雷鳴が大地を震わせ、長良川の戦場は昼であることを忘れるほどの闇に包まれていた。
織田軍、斎藤軍は力を合わせて戦っていたが、その勢いを上回るほど敵軍は次々と押し寄せてくる。
「前線が崩れます!」
「右翼が突破されました!」
「左翼も持ちません!」
伝令が息を切らして駆け込んできた。
信長は地図を見つめながら静かに命じる。
「兵を退かせよ。」
「これ以上の無理な前進は許さぬ。」
しかし、その命令が届く前に敵軍は一気に押し寄せた。
「ぐあああっ!」
「助けてくれ!」
兵たちは次々と倒れていく。
道三は槍を振るいながら叫んだ。
「踏みとどまれ!」
「まだ終わりではない!」
義龍も兵をまとめる。
「逃げるな!」
「ここで崩れれば全滅だ!」
だが、敵の勢いは止まらない。
数百、数千という兵が押し寄せ、長良川の河原は完全に包囲されてしまった。
一人の家臣が青ざめた顔で叫ぶ。
「殿!」
「退路がありません!」
「完全に囲まれました!」
信長は静かに辺りを見渡した。
前も敵。
後ろも敵。
左右も敵。
逃げ場はない。
誰が見ても絶体絶命だった。
兵たちの表情から希望が消えていく。
「もう……終わりだ。」
「家族に会いたかった……。」
「母上……。」
涙を流しながら剣を握る若い兵もいた。
その姿を見た信長は静かに前へ歩き出す。
「皆、顔を上げよ。」
疲れ切った兵たちが信長を見る。
「余も恐ろしい。」
その言葉に全員が驚いた。
「人は誰でも死が怖い。」
「余も同じだ。」
「だが。」
信長は刀を高く掲げた。
「恐れているだけでは未来は守れぬ!」
「今日ここで倒れれば、守りたかった者たちはどうなる!」
兵たちはゆっくりと立ち上がる。
「故郷は!」
「家族は!」
「子どもたちは!」
「誰が守る!」
その言葉が胸に響いた。
「殿……。」
「私たちは……。」
信長は大きく息を吸った。
「生きて帰るぞ!」
「一人も見捨てぬ!」
その瞬間だった。
敵軍の奥から、一人の巨漢が姿を現す。
全身を黒い鎧で包み、巨大な戦斧を肩に担いでいる。
「織田信長。」
低く響く声。
「貴様の命はここで終わる。」
男は戦斧を振り下ろした。
轟音とともに地面が裂け、信長は間一髪でかわす。
しかし、その衝撃で吹き飛ばされ、大地へ激しく叩きつけられた。
「殿ーーっ!」
家臣たちの悲鳴が響く。
信長は立ち上がろうとするが、腕から血が流れ、足にも深い傷を負っていた。
刀を握る手が震える。
呼吸も乱れる。
敵はゆっくりと近づいてくる。
「終わりだ。」
巨漢は戦斧を振り上げた。
道三も義龍も駆け寄ろうとする。
しかし敵兵に阻まれ、あと一歩が届かない。
「信長!」
「殿!」
誰も助けられない。
戦場には絶望だけが広がっていた。
振り下ろされる巨大な戦斧。
信長は静かに目を閉じる。
その瞬間――
キィィィン!
一筋の光が戦場を駆け抜け、戦斧を弾き飛ばした。
敵も味方も、その光の正体を見て息をのむ。
「……誰だ?」
長良川に、新たな人物が姿を現した。
その者は静かに刀を構え、信長の前へ立ちはだかった。
「ここから先は、私が相手をしよう。」
絶体絶命の戦場に現れた、その救世主の正体とは――。
次章へ続く。
次回も楽しみに




