ようこそ、エノワールドへ
案内人の一言
あなたは、歴史を知っていますか。
本能寺の変。
織田信長は炎の中で生涯を終えた――。
それが、多くの人が知る歴史です。
ですが、もし。
その結末が違っていたら。
もし、あの炎の向こうに、誰も知らない世界が広がっていたとしたら。
ここは「エノワールド」。
歴史でもなく、未来でもない。
魔法と剣、精霊と竜、そして数え切れない種族が暮らす、もう一つの世界です。
この世界では、過去の肩書きも、天下人という名も意味を持ちません。
必要なのは、人を導く強い心。
仲間を信じる勇気。
そして、どんな絶望の中でも未来を諦めない意志です。
さあ、織田信長。
あなたの新たな戦いが始まります。
どうか、この世界でも希望の光となってください。
――エノワールドの案内人
第七十二章 ようこそ、エノワールドへ
燃えていた。
本能寺が、赤く燃えていた。
炎は夜空を焦がし、黒煙は天へと昇る。
織田信長は刀を握りしめ、静かに立っていた。
目の前には、明智光秀。
かつて最も信頼した家臣。
今は刃を向ける敵だった。
光秀はゆっくりと口を開く。
「信長様。」
「ここで終わりです。」
信長は静かに笑った。
「光秀。」
「お前では天下は無理だ。」
光秀の眉が動く。
「何ですと。」
「天下とは城を奪うことではない。」
「人の心を掴むことだ。」
「お前は賢い。」
「だが、人を恐れさせることしか知らぬ。」
光秀は刀を強く握る。
「私は、この国を変えます。」
信長は首を横へ振った。
「無理だ。」
「お前みたいなのが、この国を治められるはずがない。」
その瞬間だった。
光秀は叫ぶ。
「撃てぇぇぇぇ!」
無数の鉄砲が火を吹く。
轟音。
火花。
煙。
信長は刀を振るう。
何人もの兵が倒れる。
しかし敵は次々と押し寄せてくる。
「上様!」
弥助が叫ぶ。
「ここは危険です!」
信長は笑った。
「余は逃げぬ。」
「最後まで織田信長だ。」
その時――
世界が白く輝いた。
轟音も。
炎も。
兵たちの叫びも。
すべてが消えた。
⸻
「……ここは。」
信長はゆっくり目を開ける。
そこは本能寺ではなかった。
青い空。
見たこともない巨大な木々。
色鮮やかな花々。
空には二つの月が浮かんでいる。
遠くでは巨大な鳥が飛び、虹色の滝が山から流れ落ちていた。
「夢か……。」
信長は辺りを見回す。
地面は柔らかな草原。
風は甘い香りを運んでくる。
「死後の世界……。」
そう思った時だった。
「ようこそ。」
澄んだ少女の声が聞こえた。
信長が振り向く。
そこには白銀の髪をした少女が立っていた。
純白の衣をまとい、不思議な光をまとっている。
その瞳は、星空のように美しかった。
少女は優しく微笑む。
「ようこそ。」
「エノワールドへ。」
信長は目を細めた。
「……エノワールド?」
少女は小さくうなずく。
「はい。」
「あなたの世界とは異なる、もう一つの世界です。」
信長は刀へ手をかける。
「敵か。」
少女は首を横へ振った。
「いいえ。」
「私は案内人。」
「あなたを待っていました。」
信長は周囲を見る。
「本能寺は。」
「光秀は。」
「皆はどうなった。」
少女は少し寂しそうに微笑んだ。
「それは、あなたがこれから知ることになります。」
突然、大地が震えた。
ズドォォォン!!
遠くの森から巨大な咆哮が響く。
山ほどもある黒い竜が翼を広げ、大空へ舞い上がる。
信長は思わず笑った。
「面白い。」
「まさか地獄でも天国でもないとはな。」
少女も笑う。
「ここでは、あなたの常識は通じません。」
「剣だけでは勝てない敵もいます。」
「魔法があります。」
「精霊がいます。」
「そして……。」
「世界を滅ぼそうとする魔王もいます。」
信長の目が鋭く光る。
「ほう。」
「ならば、この世界も乱世か。」
少女は静かに答える。
「はい。」
「だからこそ、あなたが必要なのです。」
信長は空を見上げた。
「光秀。」
「どうやら余は、まだ死ぬことを許されておらぬらしい。」
そして再び少女へ視線を向ける。
「案内しろ。」
「この世界を見せてもらおう。」
少女は深く一礼した。
「ありがとうございます。」
「では改めまして――。」
「織田信長様。」
「エノワールドへ、ようこそ。」
その瞬間、遠くの空で七色の光が大きく輝いた。
信長の新たな物語が、歴史を越え、世界を越え、今まさに始まろうとしていた。
エノワールドの住人たちの一言
私たちは、これまで多くの勇者を見てきました。
剣の達人。
偉大な魔法使い。
竜を従える王。
けれど、誰一人として世界を一つにまとめることはできませんでした。
争いは繰り返され、国は分かれ、憎しみは消えることがなかったのです。
そんな時、一人の男がこの世界へ現れました。
その名は、織田信長。
最初は誰も信じませんでした。
「異世界から来た男に何ができる。」
そう笑う者もいました。
しかし、その男は剣の強さだけではなく、人の心を動かす力を持っていました。
敵だった者とも語り合い、争う者には未来を示し、絶望する者には希望を与える。
私たちは少しずつ気付き始めています。
この世界に必要だったのは、最強の勇者ではなく、人々を一つにできる王だったのだと。
ですが、エノワールドには、まだ誰も知らない秘密があります。
信長がこの世界へ来た本当の理由。
本能寺の炎の真実。
そして、この世界に迫る最大の災厄。
その答えは、まだ誰も知りません。
物語は、ここからさらに大きく動き始めます。
どうか最後まで、信長と共に歩んでください。
――エノワールドの住人一同




