黒き皇帝の影
皇帝ゼノン・アルカディウスの一言
世界は広い。
だが、その広さゆえに争いは絶えぬ。
弱き国は滅び、強き国だけが生き残る。
それが私の見てきた世界だ。
東の果てに「織田信長」という英雄がいると聞く。
乱世を終わらせた男。
民に愛される王。
実に興味深い。
しかし、一人の英雄が世界を変えられるほど、この世界は甘くはない。
私の前に立つのであれば、その信念も、その力も、その覚悟もすべて見せてもらおう。
信長よ。
お前は天下人か。
それとも、世界を導く王となる器を持つ者なのか。
いずれ答えは、この戦いの中で明らかになるだろう。
――アルカディア帝国皇帝
ゼノン・アルカディウス
第六十二章 黒き皇帝の影
若狭沖海戦の前夜。
信長たちは静かな夜を迎えていた。
しかし、その頃――。
海のさらに彼方。
レオン・ヴァルディスの祖国では、大陸最大の帝国「アルカディア帝国」の皇城に緊張が走っていた。
黄金と黒曜石で造られた巨大な王宮。
数百本もの柱が天井を支え、赤い絨毯が玉座まで真っすぐ続いている。
玉座には、一人の男が静かに座っていた。
全身を黒い鎧で包み、金色の王冠を戴く帝国皇帝――ゼノン・アルカディウス。
その眼光は鋭く、世界中の王たちを震え上がらせるほどの威圧感を放っていた。
一人の伝令がひざまずく。
「皇帝陛下。」
「東方遠征艦隊より急報です。」
ゼノンは静かに目を開く。
「申せ。」
「艦隊総督レオン・ヴァルディスは、日本という島国で現地の王・織田信長と友好関係を結んだとのことです。」
その瞬間、玉座の間の空気が凍りついた。
「友好……だと。」
ゼノンの低い声が響く。
「我が帝国の艦隊が、征服ではなく友好を選んだというのか。」
伝令は震えながら答えた。
「は、はい……。」
ゼノンは立ち上がる。
「愚かな。」
「レオンは優秀な男だと思っていたが、甘さに溺れたか。」
そこへ、帝国宰相ルシウスが進み出る。
「陛下。」
「まだ間に合います。」
「ヴォルグ・カイゼルは日本征服を進めております。」
ゼノンは静かに笑った。
「ヴォルグか。」
「野心だけは誰にも負けぬ男だ。」
「だが、あの男だけでは足りぬ。」
皇帝は玉座の横に掛けられた巨大な世界地図を見つめる。
「世界は一つでなければならない。」
「すべては帝国の旗の下に。」
そして皇帝は静かに命じた。
「第一皇帝近衛艦隊を出撃させよ。」
「第二軍団、第三軍団も続け。」
「東方遠征軍総司令官を呼べ。」
家臣たちは一斉に頭を下げる。
「はっ!」
帝国中に鐘が鳴り響いた。
港では百隻を超える軍艦が出航準備を始める。
巨大な鉄の砲。
無数の兵士。
騎士団。
魔導砲兵。
そして空を飛ぶ巨大な飛竜部隊。
帝国史上最大の遠征軍が動き始めた。
その頃、日本では――。
信長とレオンは若狭の海を見つめていた。
二人はまだ知らない。
ヴォルグとの戦いは序章に過ぎず、その背後には世界最大の帝国が動き始めていることを。
静かな波が岸を打つ。
だが、その海の向こうでは、世界の運命を左右する巨大な嵐が、日本へ向かって進み始めていた。
新たな敵。
新たな世界。
そして、織田信長最大の戦いが、今まさに幕を開けようとしていた。
織田信長の一言
天下を治めることは、一国を治めることだけではない。
人と人が手を取り合い、争いをなくそうとする心を育てることでもある。
余は日本を守るために戦ってきた。
だが今、その戦いは海を越え、世界へと広がろうとしている。
強大な帝国が相手であろうと、恐れるつもりはない。
民を守るという志は、誰にも奪えぬ。
レオン、秀吉、家康、十兵衛、弥助、信栄、そして仲間たち。
皆と力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられると余は信じている。
新たな敵が現れるたび、新たな仲間もまた現れる。
それが歴史というものだ。
さあ、世界を懸けた戦いの幕が上がる。
余は天下人・織田信長としてではなく、一人の人間として未来を切り開いてみせよう。
――織田信長




