家康への密書
本能寺の炎は消えた。
だが、その炎が生んだ混乱は、なおも日本中を包み込んでいた。
信長は密かに生き延び、家康へ密書を送る。
一方、秀吉は中国大返しで京へ迫り、光秀は迫り来る決戦に備えていた。
三人の英雄の運命が交差するとき、歴史は誰も予想しなかった未来へと動き出す。
第四章 家康への密書
三河国。
徳川家康は岡崎城で重臣たちと軍議を開いていた。
本能寺の変から数日。
明智光秀は京を押さえ、羽柴秀吉は猛烈な勢いで東へ進軍している。
天下は混乱の渦中にあった。
その時、一人の忍びが静かに広間へ現れた。
「殿、密書にございます。」
家康は封を受け取り、慎重に開く。
中には、わずか一文だけが記されていた。
「余は生きている。」
家康は目を見開いた。
「……信長殿。」
重臣たちは不思議そうな顔をする。
「殿、何がございましたか。」
家康は密書を懐へしまい、静かに言った。
「何でもない。」
だが、その胸の内は激しく揺れていた。
信長が生きている。
それは天下の行方が大きく変わることを意味していた。
その夜、家康は側近の本多忠勝と酒井忠次だけを呼び寄せた。
「この話は他言無用だ。」
二人は深くうなずく。
家康は密書を見せる。
「信長様が……。」
忠勝は驚きのあまり言葉を失った。
酒井忠次も目を丸くする。
「では、本能寺で討たれたというのは……。」
「偽りということだ。」
家康は静かに立ち上がる。
「我らは信長殿と合流する。」
「ただし、誰にも気付かれてはならぬ。」
一方、山奥では信長が新たな作戦を立てていた。
「光秀は秀吉を迎え撃つ準備を進めている。」
「ならば、その隙を突く。」
森蘭丸が地図を広げる。
「山崎で両軍がぶつかる可能性があります。」
信長は地図を見つめながら笑った。
「天下人とは最後に姿を現すものよ。」
その頃、明智光秀の陣。
「秀吉が迫っております!」
伝令が駆け込む。
光秀は軍配を握り締めた。
「望むところだ。」
「天下はこの一戦で決まる。」
しかし光秀は知らない。
自ら討ち取ったと思っていた織田信長が、この戦を見届けようとしていることを。
そして、その姿が戦場に現れた時、すべての武将たちの運命が大きく変わることを――。
第四章では、信長の生存を知る最初の大名として徳川家康が登場しました。
信長、秀吉、光秀、家康――それぞれの思惑が交錯し、戦国の勢力図は大きく変わろうとしています。
次章では、いよいよ天下分け目の戦い「山崎の戦い」が始まります。
史実とは異なる「もう一つの山崎」で、信長はどのような決断を下すのか。物語はさらに激動の展開へと進んでいきます。




