新たな命
登場人物
織田信長
本作の主人公。本能寺の変を生き延び、乱世を終わらせた天下人。平和な国づくりを進める中、父親となる喜びを胸に新たな時代への決意を固める。
濃姫
信長の正室。戦乱を乗り越えて信長と再会し、新たな命を授かる。家族と国の未来を支える存在。
織田家の嫡男
信長と濃姫の間に誕生した男児。本能寺で終わるはずだった織田家の未来を受け継ぐ、新時代の希望として誕生する。
羽柴秀吉
信長の忠臣。嫡男誕生の知らせを心から喜び、織田家の未来を支え続けることを誓う。
徳川家康
信長の盟友。織田家に新たな後継者が生まれたことを祝い、平和な時代の到来を喜ぶ。
弥助
信長に仕える黒き侍。変わらぬ忠義を尽くし、織田家の新しい命の誕生を心から祝福する。
森蘭丸
信長の近習。産室の外で信長を気遣いながら、織田家の新たな希望の誕生を見守る。
服部半蔵
徳川家康に仕える忍。平和となった世でも情報収集を続け、信長と家康を陰から支えている。
第十七章 新たな命
戦乱が終わり、京には穏やかな日々が戻っていた。
城下町には商人の威勢のよい声が響き、子どもたちは笑顔で駆け回っている。
二条御所では、信長が政務を終え、庭園を歩いていた。
そこへ濃姫が静かに姿を現す。
「あなた。」
信長は振り返り、穏やかに微笑んだ。
「濃。」
「どうした。」
濃姫は少し恥ずかしそうに両手を重ねる。
「あなたに、お伝えしたいことがあります。」
信長は真剣な表情になった。
「申してみよ。」
濃姫はゆっくりと頭を下げる。
「私のお腹に……新しい命を授かりました。」
その言葉に、信長はしばらく動かなかった。
やがて静かに目を見開く。
「……本当か。」
「はい。」
濃姫は優しく微笑んだ。
信長は震える手で、そっと濃姫の手を握る。
「ありがとう。」
「このような日が来るとは思わなかった。」
その知らせは家臣たちにも伝えられた。
秀吉は飛び上がって喜ぶ。
「上様、おめでとうございます!」
家康も穏やかな笑みを浮かべる。
「織田家にとって、これ以上ない吉報ですな。」
弥助は深く頭を下げた。
「私も心よりお祝い申し上げます。」
数か月後。
城中は慌ただしく動いていた。
産室の外では信長が落ち着かない様子で歩き回る。
「上様、どうかお座りください。」
蘭丸が声をかけても、信長は首を横に振る。
「落ち着いてなどおれぬ。」
やがて――
「オギャア、オギャア!」
元気な産声が御所中に響いた。
産婆が笑顔で部屋から出てくる。
「おめでとうございます!」
「元気な男の子でございます!」
信長は静かに部屋へ入り、濃姫の傍らに立った。
濃姫は赤子を抱き、優しく微笑む。
「あなた。」
信長はそっと赤子を抱き上げる。
小さな手が、信長の指をぎゅっと握った。
信長は目を細める。
「この子が、これからの時代を生きるのだな。」
濃姫はうなずいた。
「戦のない世で。」
信長は高らかに宣言する。
「この子が誇れる国を築こう。」
その言葉に家臣たちは一斉にひざまずいた。
「ははっ!」
春の日差しが差し込む御所で、新しい命は静かに眠っていた。
本能寺で途絶えるはずだった織田家の未来は、新たな希望とともに受け継がれていく。
乱世を越えた先には、戦ではなく命を育む時代が訪れようとしていた。
おまけ
濃姫 ―帰還―
春の風が京の町を優しく吹き抜けていた。
戦乱が終わり、人々の笑顔が少しずつ戻り始めた頃。
二条御所の庭で、信長は一人、満開の桜を眺めていた。
「上様。」
静かな声が背後から聞こえる。
信長が振り返ると、一人の女性が立っていた。
美しく凛とした姿。
その女性こそ、信長の正室――濃姫であった。
「帰ってまいりました。」
信長はしばらく言葉を失った。
本能寺の変以来、生死も分からなかった妻が、目の前に立っている。
「……帰ってきたか。」
濃姫は優しく微笑んだ。
「はい。」
「あなたが生きていると聞き、どれほど安心したことか。」
信長は静かに歩み寄る。
「心配をかけた。」
「もう二度と、お前を悲しませはせぬ。」
濃姫はそっと信長の手を握った。
「あなたなら、そう言ってくださると思っていました。」
その様子を少し離れた場所から見ていた秀吉は、弥助へ小声で話しかける。
「上様にも、あんな優しいお顔があるんじゃな。」
弥助は穏やかに笑う。
「奥方様の前だけなのでしょう。」
二人の笑顔に、家臣たちも自然と笑みを浮かべた。
濃姫は信長を見つめる。
「あなたが守ろうとした天下を、私も共に支えます。」
信長は大きくうなずいた。
「これからは戦ではない。」
「皆が笑って暮らせる国を、一緒に築こう。」
春風が二人の間を吹き抜け、桜の花びらが静かに舞い落ちる。
本能寺で終わるはずだった二人の人生は、新たな時代とともに、再び歩み始めるのであった。
第十七章をお読みいただき、ありがとうございました。
この章で誕生した、信長と濃姫の嫡男の名は――
「織田 信栄」
「信」の字には織田家の志を受け継ぐ願いを、「栄」の字には国と民が末永く栄えるようにという願いを込めました。
本能寺で途絶えるはずだった織田家の未来は、信栄という新たな命へと受け継がれます。
次章からは、幼き信栄の成長と、父・信長が築こうとする平和な国の物語が始まります。
これからも『もし信長が生きていたら ― 本能寺から始まるもう一つの天下 ―』をよろしくお願いいたします。




