生き残った理由
本能寺の真実を知った信長たちの前に、今度は新たな敵が現れます
黒い鎧をまとった謎の兵団
彼らは誰の命令で動いているのか
なぜ信長を消そうとしているのか
そして、彼らと「時の門」にはどんな関係があるのか
信長はこれまで、過去を変えることを望みませんでした
過去を変えれば、今まで出会った人々との歴史まで変わってしまうからです
しかし、未来ならばどうでしょうか
まだ誰にも決められていない未来なら、そこに答えがあるかもしれません
信長が生き残った理由
光秀が本能寺で戦った本当の目的
信長を救った謎の人物
そして黒き兵団を動かしている存在
すべての謎が、少しずつ一つにつながり始めています
次に信長が向かう場所は、過去ではありません
誰も見たことのない未来です
第百十一章
生き残った理由 ― 黒き兵団の正体
京都を離れてから、数日が経った
本能寺で見たものは、信長たちの心に深く残っていた
明智光秀は、信長を討つために兵を動かしたのではなかった
信長を守るためだった
そして、その裏には信長を本当に消そうとしていた謎の黒い兵団が存在していた
信長は馬に乗りながら、ずっと黙っていた
隣を走る幸村も、あえて声を掛けなかった
何を考えているのか
幸村には分かっていた
信長は、光秀のことを考えている
かつて敵だと思っていた男
本能寺で自分を裏切ったと思っていた男
しかし、実際には違った
光秀は最後まで信長を守ろうとしていた
「……幸村」
突然、信長が口を開いた
「はい」
「人は、死んだ後も誤解され続けることがあるのだな」
幸村は少し驚いた
「光秀のことですか」
「ああ」
信長は前を見たまま答える
「余も、長い間そう思っていた」
「光秀は余を裏切った」
「余の天下を奪おうとした」
「だが……」
信長は少しだけ目を伏せる
「違った」
幸村は何も言わなかった
しばらく馬の蹄の音だけが響く
すると後ろから天狼が近づいてきた
「信長様」
「何だ」
「一つ、気になることがあります」
「言ってみろ」
天狼は険しい表情をしていた
「黒い兵団です」
信長の表情が変わる
「やはり、お前も気づいたか」
「はい」
「明智軍ではない」
「織田軍でもない」
「そして、あの兵士たちは……」
天狼は少し間を置いた
「普通の兵士ではありませんでした」
信長は振り返る
「どういう意味だ」
「動きが妙でした」
「人間の軍隊なら、あれほど統一された動きは難しい」
「まるで、一人の人間が何千人もの兵士を同時に動かしているようでした」
幸村も口を挟む
「私も感じました」
「号令を出している様子がなかった」
「それなのに、全員が同じタイミングで動いていた」
信長は黙り込む
ルーカスが後ろから追いついてきた
「その話なら……」
三人がルーカスを見る
「何か知っているのか」
信長が尋ねる
ルーカスは首を横に振った
「確かなことは言えません」
「ただ、私の国の古い記録に似た存在が出てきます」
「黒き兵団」
信長が繰り返す
「黒き兵団?」
「はい」
ルーカスは古い本を開いた
「遠い昔、ある王国が滅びる直前に現れた軍団です」
「兵士たちは黒い鎧を身につけていた」
「数千人いたと言われています」
「そして、その軍団には一つの特徴がありました」
幸村が尋ねる
「何ですか」
「誰も、兵士たちの正体を知らなかった」
「名前も」
「出身地も」
「誰が率いていたのかも」
天狼が眉をひそめる
「では、ただ突然現れたと?」
「はい」
「そして王国を滅ぼした後、突然消えた」
信長は考え込む
「それは本当に軍隊なのか?」
ルーカスは答えに詰まる
「私にも分かりません」
「ただ……」
「その記録には、こう書かれています」
ルーカスは一行を指差した
「『時の門より現れし者たち』」
信長の目が鋭くなる
「時の門……」
幸村も息を呑んだ
「では、黒い兵団も時の門から来た可能性がある?」
「そう考えるのが自然です」
信長は馬を止めた
全員が止まる
「ならば」
信長は西の空を見る
「敵は過去にも未来にもいるということか」
ルーカスは黙って頷いた
その時だった
遠くの山道から、一人の少年が走ってきた
「信長様!」
兵士たちが警戒する
幸村が槍へ手を伸ばす
「止まれ!」
少年は息を切らしながら止まった
「私は……村から来ました!」
「村?」
「はい!」
少年は震える手で一枚の紙を差し出した
「これを、信長様へ渡せと言われました」
信長が受け取る
紙には、見覚えのある紋章が描かれていた
時の鍵と同じ紋章だった
「誰からだ」
「分かりません」
「顔は?」
「黒い服を着た男でした」
信長の表情が変わる
「何と言っていた」
少年は答える
「『織田信長に渡せ』」
「そして……」
「『次は村が狙われる』と」
幸村が顔を上げる
「何だと?」
少年は続けた
「その男は、明日の夜に村へ来ると言っていました」
信長は紙を握りしめる
「村の場所は?」
「この先です」
「案内しろ」
「はい!」
信長たちは進路を変えた
予定していた城へ戻る道ではない
小さな村へ向かう道だった
夕方
村へ到着する
そこには十数軒の家が並んでいた
田畑もある
小さな寺もある
人々は信長たちを見ると、最初は驚いた
しかし少年が説明すると、村長が駆け寄ってきた
「信長様……」
「話は聞いた」
「黒い兵団のことか」
村長は震えながら頷いた
「はい」
「昨夜、村の外に黒い影を見た者がおります」
「兵士だったのか?」
「分かりません」
「ただ……」
村長は声を落とした
「人間ではないように見えたと」
幸村と天狼が顔を見合わせる
信長は村の外を見る
日が沈み始めている
「今夜来る」
村長が震える
「どうすれば……」
信長は即答した
「逃げる必要はない」
「余たちが守る」
村人たちがざわめく
「ですが、相手は……」
「関係ない」
信長は静かに言った
「余は、本能寺から逃げた」
「今度は逃げぬ」
幸村が微笑む
「私たちもおります」
天狼も刀を抜く
「黒い兵団が何者であろうと、ここを通すつもりはありません」
夜
村は静まり返った
灯りを消し、兵士たちは村の周囲に配置された
幸村は東側
天狼は西側
信長は村の中央
ルーカスは時の鍵を持っている
そして――
真夜中
遠くから音が聞こえた
カン……
カン……
カン……
金属がぶつかる音
幸村が顔を上げる
「来た」
森の中から、黒い影が現れた
一人
二人
十人
五十人
百人
次々と黒い兵士が姿を現す
村人たちは震える
だが信長は動かない
黒い兵士たちが村を包囲する
そして、その中央から一人の男が歩いてきた
黒い鎧
顔には仮面
その声は、あの日の本能寺で聞いたものと同じだった
「織田信長」
信長が刀を抜く
「何者だ」
男は答えた
「お前が生きていることで、歴史が狂っている」
「だから消す」
信長は笑った
「なるほど」
「それがお前たちの目的か」
「そうだ」
「ならば、一つ聞こう」
「何だ」
信長は刀を構える
「なぜ、そこまでして余を殺そうとする」
男は黙った
「答えられぬか」
「それとも――」
信長の目が鋭くなる
「お前たち自身も、誰かに命令されているだけか」
男の動きが止まった
ほんの一瞬だった
だが信長は見逃さなかった
「図星か」
男が叫ぶ
「殺せ!」
黒い兵団が一斉に動く
幸村が槍を振る
天狼が刀を抜く
信長も前へ出る
戦いが始まった
しかし、黒い兵士たちは強かった
一人倒しても、次が来る
十人倒しても、さらに現れる
まるで終わりがない
幸村が叫ぶ
「数が多すぎます!」
天狼も苦戦している
「こいつら、疲れを知らない!」
信長は敵兵を斬り伏せながら叫ぶ
「ルーカス!」
「はい!」
「時の鍵を!」
ルーカスが箱を開く
黒い兵士たちが一斉にこちらを見る
その瞬間――
全員が止まった
まるで時間そのものが止まったようだった
信長は驚く
「何だ……」
ルーカスが震える
「時の鍵が……」
「黒き兵団を止めている」
信長は一歩前へ出る
黒い兵士の一人へ近づく
仮面へ手を伸ばす
そして――
仮面を外した
そこにあった顔を見て、信長は言葉を失った
「……人間ではない」
幸村が駆け寄る
「何ですか、これは……」
顔は人間に似ている
しかし、目がない
皮膚も異様に白い
そして胸には、時の鍵と同じ紋章が刻まれていた
ルーカスが呟く
「これは兵士ではありません」
「作られた存在です」
信長が振り返る
「誰が作った」
ルーカスは答えられない
その時
黒い兵団の隊長が、ゆっくりと動き始めた
時間停止の影響を受けていない
「……やはり」
男が笑う
「お前は時の鍵を手に入れたか」
信長が刀を向ける
「お前は誰だ」
男は仮面を外す
そして――
その顔を見た瞬間
信長の表情が凍った
「そんな……」
幸村が驚く
「信長様?」
信長は男を見つめる
その顔は――
本能寺で信長を救った謎の人物と同じだった
だが、違う
声も違う
雰囲気も違う
そして何より――
この男は、信長を殺そうとしている
男は笑った
「ようやく会えましたね」
「織田信長」
信長は刀を握り直す
「お前は何者だ」
男は答えた
「私は――」
その瞬間
空から青白い光が落ちてきた
男の姿が光に包まれる
そして最後に一言だけ残した
「お前が生き残った理由を知りたければ――」
「次は本能寺ではなく、未来へ来い」
光が消える
黒い兵団も一瞬で姿を消した
村には静寂だけが残った
信長は空を見上げる
未来
その言葉が、頭から離れない
そして時の鍵が、再び強く光り始めた
信長はそれを見つめる
「……未来か」
幸村が隣に立つ
「行くのですか?」
信長は少しだけ笑った
「ああ」
「ここまで来たのだ」
「最後まで確かめよう」
過去の真実を知るために始まった旅は――
ついに、未来へ向かおうとしていた
:::
黒き兵団との戦いによって、信長たちは新たな事実を知りました
あの兵士たちは普通の人間ではありませんでした
誰かによって作られた存在
そして、その身体には時の鍵と同じ紋章が刻まれていました
さらに現れた黒き兵団の男
その顔は、本能寺で信長を救った謎の人物と同じでした
なぜ同じ顔をしているのか
本当に同一人物なのか
それとも、同じ姿を持つ別の存在なのか
まだ答えはありません
しかし、男が残した言葉だけは明確でした
信長が生き残った理由を知りたければ、未来へ来い
これまで信長は、過去を追いかけてきました
本能寺へ戻り
光秀と向き合い
自分が知らなかった真実を知りました
そして今度は、未来へ進みます
そこには、信長がまだ知らない歴史があります
味方が待っているのか
敵が待っているのか
それとも、信長自身の未来の姿が待っているのか
時の鍵は、再び光り始めました
次に開く扉は、過去ではありません
未来です




