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信長が知らない本能寺

本能寺で何が起きたのか


信長自身が覚えていなかった記憶が、少しずつ蘇り始めます


炎の中にいた謎の人物


「まだ終わっていない」という言葉


そして、海の向こうから現れた巨大な時の門


すべてが一本の線でつながろうとしています


これまで信長は、戦いながら未来を切り開いてきました


しかし今回、向き合うことになるのは刀で倒せる敵ではありません


それは、自分自身の過去です


もし本能寺で信長を救った人物が存在したのなら、なぜその人物は信長を助けたのでしょうか


なぜ未来から現れたのでしょうか


そして、信長が生き残ったことで、本当の歴史はどこまで変わってしまったのでしょうか


過去を変えるのか


過去を受け入れるのか


それとも、過去そのものに隠された真実を見つけるのか


信長、幸村、天狼、そして海の向こうから来たルーカス


それぞれの思いが重なり、物語は新たな段階へ進みます


歴史の白紙だった場所に、今、一つの文字が書かれようとしています


その先に待っているのは、信長がまだ知らない真実


そして――


本能寺から始まった、もう一つの歴史の答えです

第百九章


海の向こうから来た記憶 ― 信長が知らない本能寺


夜が明けても、城下町には昨日の緊張が残っていた。


西の海から現れた謎の船団。


見たこともない旗。


そして、その船団から現れた異国の使者。


何より人々を驚かせたのは、その使者が織田信長の過去を知っていたことだった。


本能寺。


その名を口にする者は、城内でも少なかった。


信長にとって、それは遠い過去でありながら、決して消えることのない記憶だった。


あの日。


炎。


煙。


怒号。


迫り来る兵。


そして、自分の人生が終わるはずだった瞬間。


だが信長は生きている。


なぜ生きているのか。


誰に助けられたのか。


なぜ本能寺から逃れることができたのか。


その部分だけは、信長自身にも完全には思い出せなかった。


それが今になって、再び目の前に現れようとしていた。


朝。


城の大広間には、信長、幸村、天狼、そして異国の使者ルーカスが集まっていた。


机の上には、昨日見せられた古い本が置かれている。


信長はその本を見つめたまま、しばらく何も言わなかった。


やがて口を開く。


「ルーカス」


「はい」


「もう一度確認する」


「あなたの国では、余は本能寺で死んだことになっている」


「その通りです」


「では、なぜ余が生きている」


ルーカスは答えに迷った。


「分かりません」


信長の眉が動く。


「分からぬ?」


「はい」


「記録にも残っていません」


「本能寺の変が起きた」


「織田信長が死亡した」


「そこまでは記録されています」


「しかし、その後の記録には矛盾があります」


幸村が尋ねる。


「矛盾とは?」


ルーカスは本を開いた。


「本来ならば、信長公が亡くなった後、日本の歴史は大きく変わるはずでした」


「ですが、こちらの記録には、信長公が生きているような痕跡がいくつもある」


天狼が眉をひそめる。


「どういうことだ」


「たとえば、この記録です」


ルーカスが一枚の紙を取り出した。


そこには、信長の名が書かれている。


しかし日付は、本能寺の後だった。


「これは何だ」


信長が尋ねる。


「信長公が本能寺の後に出したとされる文書です」


幸村が驚く。


「そんなものが残っているのですか?」


「はい」


「ですが、誰が書いたのか分からない」


信長は文書を手に取った。


そこには確かに、自分の名前が記されている。


筆跡も、自分のものに似ている。


「……妙だな」


「はい」


ルーカスは続ける。


「さらに奇妙なものがあります」


今度は一枚の絵を出した。


そこには、燃え上がる本能寺が描かれている。


しかし、信長の姿はない。


幸村が首をかしげる。


「信長様が描かれていません」


「そうだ」


天狼も絵を見る。


「代わりに、誰かいる」


絵の中央。


炎の向こう側に、一人の人物が立っている。


黒い衣。


顔は見えない。


手には何かを持っている。


幸村が近づく。


「これは……本ですか?」


ルーカスはうなずいた。


「そう見えます」


信長は絵から目を離さない。


なぜだろう。


その人物を見ていると、胸の奥がざわつく。


どこかで会ったことがある。


いや。


会ったというより――


知っている。


そんな感覚だった。


信長は目を閉じた。


すると、頭の中に一瞬だけ映像が浮かんだ。


燃える廊下。


煙。


倒れた柱。


血。


そして一人の男。


「……誰だ」


信長が呟く。


幸村が振り向く。


「信長様?」


「今、見えた」


「何がですか」


「本能寺だ」


信長は額を押さえる。


「余は、あの日のすべてを覚えていると思っていた」


「だが違う」


「何かが抜け落ちている」


ルーカスが静かに尋ねる。


「何が見えましたか」


「男だ」


「どんな男ですか」


「分からぬ」


「ただ……」


信長は目を細める。


「余に向かって何かを言っていた」


幸村が尋ねる。


「何と?」


信長はしばらく黙っていた。


やがて答える。


「まだ終わっていない」


大広間の空気が凍りついた。


ルーカスの顔から血の気が引いた。


「……やはり」


信長が振り返る。


「何を知っている」


ルーカスは答えなかった。


「申せ」


「……私たちの記録にも、その言葉があります」


幸村が驚く。


「同じ言葉が?」


「はい」


ルーカスは古い書物を取り出した。


「本能寺の変について書かれた最も古い記録の一つです」


ページには、古い文字が並んでいる。


ルーカスが翻訳する。


「『炎の中で、信長公は何者かと話していた』」


「そして最後に」


「『まだ終わっていない』という声を聞いた」


信長は黙り込む。


自分の記憶と、遠い国の記録。


二つが一致している。


偶然とは思えない。


天狼が口を開く。


「信長様」


「何だ」


「もし、その人物が信長様を助けたのだとしたら?」


信長は天狼を見る。


「あり得る」


「では、誰なのか」


「分からぬ」


「なぜ助けたのか」


「それも分からぬ」


幸村が考え込む。


「ですが、一つだけ分かっていることがあります」


信長が見る。


「何だ」


「その人物は、信長様が生きることを望んだ」


信長はしばらく何も言わなかった。


やがて立ち上がる。


「ならば、探す」


幸村も立ち上がる。


「どこへ?」


「まず本能寺へ戻る」


「本能寺……」


天狼が驚く。


「今からですか?」


「いや」


信長は首を横に振る。


「その前に海へ行く」


全員が驚いた。


信長は窓の外を見る。


西の海。


昨日、巨大な光が現れた場所。


「答えは、海の向こうから来た」


「ならば、海へ行けばよい」


その日の午後。


信長たちは海岸へ向かった。


海は穏やかだった。


昨日の異変など、最初から存在しなかったかのようだ。


しかし、砂浜には奇妙なものが残されていた。


黒い金属片。


幸村が拾い上げる。


「これは?」


ルーカスの顔色が変わった。


「それは……」


「知っているのか」


「はい」


「私たちの国に伝わる古い遺物と同じものです」


天狼が尋ねる。


「何に使う」


「分かりません」


「ただ、時に関係するものだと伝えられています」


信長は金属片を受け取った。


冷たい。


しかし、触れた瞬間――


頭の中に再び映像が流れた。


本能寺。


燃える建物。


自分。


そして、目の前に立つ人物。


今度は少しだけ顔が見えた。


「……お前は」


信長が呟く。


その人物がこちらを見る。


「信長」


「まだ終わっていない」


そして、手を伸ばす。


次の瞬間、視界が真っ白になった。


信長は砂浜に膝をついた。


「信長様!」


幸村が駆け寄る。


「大丈夫ですか!」


「……ああ」


信長はゆっくり立ち上がる。


「思い出した」


全員が息をのむ。


「何を?」


信長は海を見つめた。


「本能寺で、余を助けた者がいた」


「誰ですか?」


信長は答えようとした。


だが――


名前だけが思い出せない。


「顔も分からぬ」


「名も分からぬ」


「だが、一つだけ覚えている」


幸村が尋ねる。


「何を?」


「そいつは、余にこう言った」


信長は静かに振り返る。


「『未来で会おう』と」


ルーカスが青ざめる。


「未来で……」


天狼が腕を組む。


「つまり、その人物は未来から来た?」


信長は答えない。


その時だった。


海面が大きく揺れた。


波が沖へ引いていく。


「何だ!」


遠くの海が、青白く光り始める。


昨日よりも強い。


巨大な光の柱が空へ伸びる。


ルーカスが叫ぶ。


「離れてください!」


「時の門が開きます!」


光の中から、何かが現れた。


船ではない。


人でもない。


巨大な黒い門だった。


空中に浮かび、ゆっくりと回転している。


門の中央には、真っ暗な空間。


幸村は槍を構えた。


「何が出てくるか分かりません!」


天狼も刀へ手を添える。


しかし信長は武器を抜かなかった。


「待て」


「信長様!」


「敵とは限らぬ」


門の向こうから、足音が聞こえる。


一歩。


また一歩。


やがて、一人の人物が姿を現した。


黒い衣。


顔を隠す仮面。


手には古い書物。


その姿を見た瞬間、信長の呼吸が止まった。


「……お前」


仮面の人物は、ゆっくりと仮面を外す。


そこにあった顔を見て――


幸村も、天狼も、ルーカスも言葉を失った。


信長だけが、その人物を見つめ続ける。


「まさか……」


その人物は微笑んだ。


「久しぶりですね」


信長の記憶の中にあった声。


本能寺の炎の中で聞いた声。


そして、あの言葉。


「まだ終わっていない」


すべてがつながった。


信長は震える声で尋ねる。


「なぜ、お前がここにいる」


その人物は答えた。


「あなたが生き残ったからです」


「そして、あなたが未来を選んだから」


信長は一歩前へ出る。


「余の歴史を変えたのは……」


人物は首を横に振る。


「違います」


「歴史を変えたのは、あなた自身です」


「私はただ、あなたに一つの選択肢を与えただけ」


信長は黙る。


「では、なぜ余を助けた」


人物は静かに答える。


「あなたが死ねば、多くの未来が消えるからです」


「未来?」


「はい」


「あなたが生きることで、救われる者がいる」


「あなたが生きることで、出会う者がいる」


「あなたが生きることで、戦を終わらせられる者もいる」


天狼が思わず尋ねる。


「それは……私のことですか」


人物は天狼を見る。


「あなたもその一人です」


天狼は言葉を失った。


幸村も黙っている。


信長は静かに目を閉じた。


本能寺で終わるはずだった人生。


しかし、その後に出会った人々。


幸村。


天狼。


海の向こうの人々。


これまでの旅。


すべてが偶然だったのか。


それとも――


信長は目を開く。


「ならば聞こう」


「余はこれから何をすればいい」


人物は微笑んだ。


「何もしなくていい」


「ただ、生きてください」


「そして、自分で未来を選んでください」


その瞬間、時の門が大きく揺れた。


人物の姿が薄くなっていく。


「待て!」


信長が手を伸ばす。


「お前の名を!」


人物は最後に一言だけ残した。


「あなたなら、もう知っているはずです」


光が弾けた。


門は消えた。


海には静けさだけが戻った。


信長は伸ばした手をゆっくり下ろす。


幸村が尋ねる。


「信長様」


「はい」


「お名前は……分かりましたか?」


信長はしばらく考える。


そして――


小さく笑った。


「まだ分からぬ」


「ですが」


「いずれ分かるだろう」


天狼も海を見る。


「未来から来た人物……」


ルーカスは古い本を抱きしめる。


「これで、私たちの記録が変わるかもしれません」


信長は振り返る。


「ならば、変えてみせよう」


「誰かに書かれた歴史ではない」


「余たちが生きて、選んで、作る歴史を」


夕日が海を赤く染めていく。


本能寺で終わるはずだった信長の人生。


その人生は、まだ続いている。


そして今度は、誰かに与えられた未来ではない。


自分自身で選ぶ未来へ。


信長たちは再び歩き始めた。


しかし、その背後。


誰も気づかない海の底で――


小さな光が一つだけ、まだ消えずに輝いていた。


そしてそこには、新たな文字が浮かび上がっていた。


「次の歴史、開始」


物語はまだ、終わらない。

第百九章 登場人物


織田 信長


本作の主人公


本能寺で死ぬはずだった歴史を越え、現在も生き続けている


過去を消すのではなく、過去を背負ったまま未来を変えることを決意している


今回、自分が本能寺で誰かに助けられていた記憶を取り戻し始める


歴史そのものに隠された秘密へと迫っていく



真田 幸村


信長と行動を共にする武将


信長の過去を知り、これまで以上にその身を案じている


本能寺で何が起きたのかを知るため、信長とともに謎を追う


どんな不可思議な出来事が起きても、最後まで信長のそばにいる覚悟を決めている



九条 蒼真


かつて「天狼」と名乗っていた武将


信長と一騎討ちを行った後、敵ではなく仲間として新しい国づくりに加わった


自らも戦争で多くのものを失った過去を持つ


今回、信長が歴史の謎に巻き込まれていく中で、未来から来た存在の意味について考え始める


信長の過去だけでなく、自分自身の過去にも何か関係があるのではないかと感じている



ルーカス・ベルナール


海の向こうからやって来た異国の使者


信長の生涯を記した古い書物を持って日本へやって来た


ルーカスの国では、信長は本能寺で死亡した人物として記録されている


しかし、その後の歴史には不可解な空白が存在する


本能寺に関する古い記録や「時の門」の存在を知っており、信長の過去を解き明かす重要人物となる



謎の人物


本能寺の炎の中で信長を救ったとされる人物


長い間、その存在は信長自身の記憶からも消えていた


「まだ終わっていない」


「未来で会おう」


という言葉を信長へ残した


今回、時の門を通って再び信長の前に姿を現す


正体も目的も、まだ完全には明らかになっていない



本能寺の影


本能寺の記憶の中に残る謎の存在


信長が忘れていた過去と深く関係している


本当に一人の人物なのか、それとも歴史そのものを動かす存在なのかは不明


今後の物語で、その正体が大きな鍵となる



信長軍の兵士たち


信長を守り、新しい国づくりに参加している兵士たち


これまで戦場で戦ってきたが、現在は橋や家の修復、農地の再建などにも力を貸している


未知の「時の門」の出現によって、再び信長を守るために動き始める



海の向こうの人々


ルーカスの故郷に暮らす人々


信長の歴史を古い書物として受け継いできた


彼らにとって本能寺は歴史上の出来事だったが、信長が生きていることで、その歴史そのものが変化し始めている



時の門


人物ではないが、第百九章の重要な存在


海上に現れた巨大な謎の門


過去や未来へつながる可能性を持つ


信長を本能寺の記憶へ導き、謎の人物を現在へ送り込んだ


その正体はまだ誰にも分かっていない



本章の重要人物


織田信長


過去を背負い、未来を選ぶ者


真田幸村


信長のそばで歴史の謎を追う者


九条蒼真


過去を償い、新しい未来を作ろうとする者


ルーカス・ベルナール


海の向こうから歴史の秘密を運んできた者


謎の人物


本能寺と未来をつなぐ者


そして――


時の門


歴史そのものを動かす鍵となる存在

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