4・ギャビー
『おかえり。ギャビー。』
ギャビーが久しぶりの自宅に帰ると、
歩くゴミ箱が彼女を出迎えた。
ゴミ箱には液晶画面内に目や口が描かれ、
伸びた手足で直立二足歩行をしている。
ギャビーはサングラスとマスクを取り、
スーツケースを逆さまにしたような物体を、
眉間に力を込めて凝視した。
『ご飯にする? お風呂にする?』
日常に溶け込む科学技術を実感しながら、
喋るゴミ箱との対話を拒むと、
元凶と思える同居人が思い浮かんだ。
「アルの悪戯ね。」
『アルに代わるよ。』
「おかえり、ギャビー。
その子はティフィだよ。」
ティフィと名付けられた、
ゴミ箱のスピーカー越しに
アルマの声がした。
「この喋るゴミ箱がティフィだって?」
『ぼくはゴミ箱じゃないよ。』
「ゴミ箱だからアルが
そのステッカー貼ったんでしょ?」
『なに?』
指のさされた場所が見えないティフィは、
姿見の前に立ってカメラで観察してみると、
貼られたシールの存在に気づいた。
ティフィの液晶画面の下部分には、
ゴミ箱を描いたピクトグラム。
『なに、これ! アル!』
ティフィが叫び声を発すると、
アルマの笑い声が同じスピーカーから
発せられる。
「どこで買ってきたの?」
「これはあたしが作ったんだよ。」
『ぼくってアルが作った
イマジナリーフレンドなんだって。』
「イマジナリーフレンド?
あぁ、アルが前に言ってた?
…作った?」
ギャビーは彼女たちの言葉から思い出し、
繰り返し、疑問を浮かべた。
「ねぇ、こっちの余ってるパーツは?」
ギャビーは部屋にスーツケースを置くと、
近くに機械のパーツが入った
別のゴミ箱を見つけた。
逆立ちになって歩く気配はない。
アルマは部屋の椅子に座ったまま、
ゲーム機のコントローラーを握っている。
パソコンに繋げられた液晶画面には、
アルマの操る犬が二足歩行をしていた。
ティフィと名乗った物体が、
ギャビーの隣に立って様子を窺う。
『そっちはアルが
組み立てようとした物。』
「出来ずに諦めたのね。
これとこれで、いくらしたの?」
「教えてあげない。」
『その箱の方は100万だって。』
「100万?」
「ティフ! 秘密だって言ったよね。」
イマジナリーフレンドであっても、
自由を与えれば秘密は簡単に暴露される。
「まさかお小遣い以外で、
わたしの口座のお金、使ったの?」
「使ってないって。
お金は他所から借りただけ。」
「借りた?
アルは働きもせず、
返す当ても無いのに?」
アルマはギャビーの収入を頼りに、
この部屋に寄生している。
「100万って、わたしの今回の映画の
出演料がほとんど消えるわよ。
他に何かやってない?」
ギャビーはアルマの持っていた
コントローラーを奪って問いただす。
「あっ、返して。」
「この部屋貸すときに、
問題起こさないで
って言ったよね。」
『問題は起きてないよ、ギャビー。』
「ひっ。勝手に動いたっ。」
コントローラーを何も触っていないのに、
ゴミ箱が自動的に動いたので、
想定していなかったギャビーが驚く。
「企業が法の抜け穴を突いて稼いだ
後ろめたい行為で得ているお金だから、
律儀に返す必要もない。」
アルマの言葉にティフィが続く。
『資金の痕跡は、関連する保険の会社を
経由して偽装しているから、
誰にも気付かれないんだよ。』
ティフィはイマジナリーフレンドらしく、
アルマの悪事に同調する。
「かれらは被害届も出せない。」
「でも、汚いお金でしょ?」
「大半はギャビーの名義で
寄付をしておいたから、
つまりは洗われた綺麗なお金だよ。」
「知らない間にわたしが巻き込まれてた。」
『アルってそういう子なんだよ。』
ティフィに諭されると、
ギャビーも自然に頷きかけた。
アルマはギャビーから
コントローラーを奪い返して、
ふたたび液晶画面を眺める。
ギャビーは小さく息を吐き、
新たな同居人《にん》のティフィを見下ろした。
「ギャビーの今回の映画の
出演料も踏まえると、
結果として節税になるぞ。」
「…まぁ、それなら良いか。」
『良いんだ。』
ギャビーはアルマの従姉妹であり、
彼女の悪事を忌避せず受け入れた。
▶ つづく




