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第4話「その日から――〜start」

日本 北海道 札幌

令和十年 夏

朝 晴れ


札幌駅のホームには特急列車が停まっている。発車にはまだ時間があるが、すでに自由席はほとんど埋まっている。その通路側の席に座るキョウスケ――白いワイシャツ、黒いジャケット、赤いズボン姿――の隣も。

「どこへ行くの?」と、隣の席の男子――キョウスケと同年代。黒い短髪。小柄。白いジャージ姿――はふとキョウスケに聞く。

「函館まで」と、キョウスケは素直に答える「キミは?」

「私も函館まで。――乗り換えるの?」

「うん、道外へ行くんだ」

「私もだよ。お互い楽しい旅行になるといいね」

「うん」

「あっ、自己紹介がまだだったね。私はマサヨシ」

「キョウスケだ。――私は中学三年だけどキミは?」

「私も中三だよ」

と、アナウンスが流れる。

(――運行中止?)

と、キョウスケは怪しむ。

と、アナウンスは料金の払い戻しについて説明し始める。

「きっとあれだね」と、マサヨシは苦しげな顔でキョウスケに言う。

「あれ?」

「うん。よっぽど嫌なことがあったんだろうね」

(……なるほど)

と、キョウスケは察する。

(そういうことなんだろうな)

(まぁ、そうだよな。詳しい理由も知らされてないし)

と、その直後にアナウンスが終わる。

と、車内は騒がしくなる。

「キョウスケ君、これからどうする?」と、乗客が席を立っていく中でマサヨシは聞く「道外へ行く? 行くなら列車に乗って? それとも飛行機で?」

「キョウスケでいいよ。列車はほかも運休するかもしれないからなしかな」

「じゃ飛行機?」

「まぁそうなるな。もっとも別に今日行かなくてもいいんだけど。――キミはどうする?」

「私は……うーん、どうしよう?」と、マサヨシは軽い調子で言う「でも幸先悪いね。私も今日は行かないかな?」

あっ、そうだ。キョウスケ、これからドームへ行かない? とマサヨシは付け加えた。

「ドーム?」

「確か今日の午前中から野球の試合があるんじゃないかな? キョウスケ、キミは野球は好き?」

「普通だな」

「普通か。なら一緒に観に行かないか?」

「私も?」

マサヨシは苦笑して、「一人で行くのはちょっとね。どうかな?」

「良いよ」

「ありがとう」

二人はホームに降りる。

「キミは手ぶらなんだな」と、黒いリュックサックを背負うマサヨシは言った「宿泊先に送ってるの?」

「いいや。着いた先で揃える派なんだ」

「へぇー」

「ちょっと、キミ達」

と、声をかけられた。

「キミ達はこれからどうするの?」

と、青いロングヘアの少女――キョウスケ達と同年代。小柄な身体に青い長袖ワンピースを着て、白いキャリーケースを使う――は続けて言った。

「どうって?」と、キョウスケは聞く。

「キミ達も函館への予定が変わっちゃった人でしょ? 私もそうなのよ。で、これからの予定はどうするのかなって。参考にしたいのよ。私、あまり思いつかなくてね」

「ドームに行くんだ。野球を観に」

「ふーん。――ねぇ、私も一緒に行っていい?」

「私は別に構わないけど」

「私もいいよ」と、マサヨシ「野球好きなの?」

「野球はあまり興味ないわ。ドームに行きたいのよ」

「えっ?」

少女は微笑し、「面白そうじゃない? ドームの中の景色って」

「あっ、なるほど」

「キミは分かる?」と、少女はキョウスケに聞く。

「よく分からないな。ドームに行ったことないから」

「なら楽しみね。――私はポツサロよ」

「ポツサロ? なんのことだ?」

「私の名前よ」

(名前? 変わった名前だな)

「私はキョウスケ」

続いてマサヨシも名乗った。

「二人ともよろしく。――ドームってどこにあるの?」

(そういえば)

「札幌にあるよ」と、マサヨシは答える「駅のすぐそこにある」

「野球の試合はいつあるの?」

と、マサヨシは携帯電話を取り出す。時刻を見て、「もうすぐだね」

「なら急ぎましょう」

「急がなくていいよ。別に私は熱心に観たいわけじゃない。暇潰しになればいいのさ」

「そうなの? なら急がずに行きましょう。――マサヨシ、荷物をロッカーに預けに行かない?」

「いいね」

十数分後、三人は無人のドームの、そのフィールドの真ん中に立っていた。

「本当に今日試合あるの?」と、ポツサロは斜向かいのマサヨシに聞く。

「うん、間違いない」と、マサヨシは戸惑いながら答える「だけど誰もいないなんて……」

「ストライキかな?」

「ストライキ?」

「うん、球団かドームの労働者かの」

と、マサヨシは携帯電話を取り出し調べる。

少女の予想の答えはすぐに出た。

「ストライキじゃないね。そんな情報は出てこない」

「そっか。――でもラッキーね」

「ラッキー?」

ポツサロは楽しげに笑い、「だってフィールドの上に立つことができたんだから。そんな機会あまりないんじゃない?」と、周囲を見渡した「うん、勝手に入って正解だったわ。――キョウスケ? どうしたの?」少女はふと正面の彼の様子に気づいた。

「えっ?」

「なんだが深刻な表情してるから。どうかした?」

「……うん、この状況がおかしいからさ」

(――もしかしたら、この状況は――)

しかし、彼は確信できない。

「確かにそうね。でもそんな深刻な顔するほどかな? むしろ楽しいじゃない?」と、ポツサロは平気な顔で言う。

「楽しい?」キョウスケはあっけにとられる。

「うん、何か面白いことが起こりそうで」と、ポツサロは笑いながら言う「キミ達についてきて正解だったわ。これから何が起きるんだろう? 楽しみね」

「……あまりそうは思えないな」と、キョウスケは険しい顔をして言う。

「あれ? そう? キョウスケ君ってビビりなんだ」

「はぁ!? ビビりじゃないよ!」と、キョウスケはむかついて否定する。

「なら楽天的に行きましょうよ、どうせなら」

「……そうだな」

「キョウスケ」と、マサヨシは呼ぶ。

「何?」

「この状況はどうしてなんだろう? 何か心当たりはない?」

「分からないな。キミは?」

「私もさ。でも私達が来たからこうなっているんじゃないかな?」

「私達が? どうして?」

「もしかしたらの話だよ」と、マサヨシは苦笑しながら答えた。

ふと、キョウスケはポツサロを見る。

(この子の仕業か?)

(でもやはり……)

「キョウスケ? どうしたの?」と、ポツサロは聞く。

「いや、なんでもない」

「もしかして、私のことを疑っている?」と、ポツサロは平気そうな顔で聞いた。

「違うよ」キョウスケは慌てて答える「キミじゃないだろう」

「その通りだ」

と、キョウスケの背後で声が聞こえた。キョウスケは振り返る。

真紅のスーツを着た中年男性が立っている。

(この男、どこかで――)

「キョウスケ、その女の子は原因じゃないぞ」と、真紅のスーツの男は言う。

「何? キミは誰だ?」

「誰?」と、相手は不思議そうな表情を浮かべる「私のことを知らないのか? この私を?」と、ポツサロ――キョウスケの右隣にいる――を見る「キミは? 私のことを知っているか?」

「えっ? 知らない」

「そうか……キミは?」と、キョウスケの左隣にいるマサヨシにも聞く。

「知っている」と、マサヨシは答える「なんか偉い人だったはず」

真紅のスーツの男はため息をつく。「キミ達にはがっかりだよ。――まぁ、今時の若者らしいか」

「キミは何者なんだ?」と、キョウスケが聞く。

「名乗るのか……私はツトム。キョウスケ、キミに用がある」

「何?」と、キョウスケは警戒する「私になんの用だ?」

ツトムはさりげなく言った。「キミを今すぐ殺す」

「何……?」

「さて、キミはどうする?」

キョウスケは考えない。

そんなことは決まっている。

(“ABススアピーニクベ”発動)

(何!?)

「キョウスケ、何を驚いている?」と、ツトムは聞く「“ABススアピーニクベ”が効かないのがそんなに驚くことか?」

「何!? “ABススアピーニクベ”を知っているのか?」

「ああ、知っている」

「なんで……?」

「私も資金を出した一人だからな。だから悲しいよ、そういう意味でもキミが私のことを知らないなんてね」

(そうか、だから効かないのか……)

「キミがドームから人を消したの?」と、ポツサロはツトムに聞く。

「そうだよ」

「どうして?」

「キョウスケと戦うからだ。ここはそのフィールドだ」

(戦う?)

と、キョウスケは、「なぜ私を殺そうとするんだ? ――“ABススアピーニクベ”がほしいのか?」

ツトムはふっと笑う。「そんなものほしくないさ」

「じゃなんだ?」

「力試しだ」

「力試し?」

ツトムはうなずく。「道外へ行く前に私の力を試す必要がある。キミはその相手だ」

「どうして私なんだ?」

「キミはあまり優秀じゃない。だがキミには力がある。力試しにはもってこいの相手だ」

キョウスケは顔をしかめる。「やる前から勝ったつもりか?」

「当たり前だ。力試しだからな。この私がキミなんかに負けるわけがないだろう?」

「何?」

「なぜ戦う必要がある?」と、マサヨシはツトムに聞く「ドームから人が消せるならそんな必要はないだろう?」

「確かにそうだな。だが私は楽しみたいんだ」

「楽しむ?」

ツトムはにやりと笑う。「支配をな」

「支配?」

「そうだ、私は西日本にしにほんの支配を望んている」

「なぜ?」

「ゴミ捨て場にするのさ」

「ゴミ捨て場?」と、マサヨシは困惑する。それはキョウスケも。

(ゴミ捨て場だと? どういうことだ……?)

「北海道からゴミ捨て場をなくすのさ。そして北海道のゴミは西日本にやる」と、ツトムは楽しそうに語る「西日本は北海道の、いや日本のゴミ捨て場になる。私はそうする。だから私は支配するんだ」と、キョウスケを見る「だから私はキミと戦うんだ」と、キョウスケを指差す「戦ってもらうぞ。キミは私を知らなかった。もう逃げることはできない。覚悟を決めろ」

「覚悟なんていらないさ」と、マサヨシはツトムに言う「キミの相手は私がする」

ツトムは首をかしげる。「キミが? なぜ?」

「やめろ、ジュン」と、キョウスケは“マサヨシ”に向かって言う「キミは戦うんじゃない」

「気づいてたの?」と、“マサヨシ”は意外そうな顔で聞く。

「ああ」

“マサヨシ”はふっと笑い、「三年連続茶番に付き合ってくれたのか。でもどうして戦っちゃいけないの? “この格好”ならいいんじゃないの?」

「私が戦うからだよ」と、キョウスケはツトムを睨む「こいつは私が戦って倒す」

「倒すだと?」と、ツトムは呆れた顔で言う「やはりキミは愚かだな」

「なんだと?」

「私を倒すということはどういうことか分かっているのか? 私を殺すということだぞ?」

「何……?」

ふとキョウスケは不安になる。

「殺さなければ私を倒すことはできない」と、ツトムは笑い、「キミに私を倒すことができるのか? いやできないだろうな。キミにはな」

(くっ……!)

「キョウスケ」と、“マサヨシ”――ジュンが呼ぶ「やっぱり私が戦うよ」

「いややめろ」

「どうして? キミには倒せないでしょ? キミにはやることがあるんだから。私が戦うよ」

「よせ」

「だからどうして?」

「確かにキミでもいいだろう」と、ツトムが言った「だが私はキョウスケを倒したい」と、キョウスケを見る「だが今のキミは私の相手としてふさわしくない。だから少し話をしようか?」

「何?」

(話? なんの話だ?)

「キョウスケ、周りを見ろ」

「何? ――これは!?」

キョウスケは驚く。

ジュンとポツサロがいない。

「二人をどこへやった?」

「やったんじゃない。私達が移動しただけなんだ。私達しかいない同じドームに」

「何? なんのために?」

「だから話さ」と、ツトムは肩をすくめて答えた「あの子がいたらちょっと話しづらいからな」

「あの子?」

「青い髪の女の子だよ」

(ポツサロ?)

「あの子がどうかしたのか?」

ふいにツトムは真剣な顔になる。


「キョウスケ、あの子は“ABススアピーニクベ”の真価の結果だ」


「はっ? 真価の結果?」

キョウスケはきょとんとする。

「そうだ」

「どういうことだ?」

「分からないのか? まったく……」

キョウスケはむっとする。「分かっているさ」

「ならなんでそんな態度になる? ひどく驚くはずだろう?」

キョウスケは鼻で笑う。「キミがおかしなことを言っているからな」

「何?」

「だってそうだろう? 私は北海道にいるんだぞ? なのに“ABススアピーニクベ”の真価なんて見るはずがない」

「キミは知っているはずだぞ? あの子がキャリーケースを持っていたことを」

「どういうことだ?」

「旅行すらできるんだよ」

キョウスケははっとする。「だが、あの子は――」

「そうだな。でもおかしいことではないだろう? “ABススアピーニクベ”は専用のものではないんだから」

(た、確かに……)

と、動揺するキョウスケは、「だが私は何もしていない。なのにあの子がいるなんておかしいじゃないか?」

「エラーでも起きたんじゃないのか? ――それより話はここからだ。キョウスケ、あの子を殺せ」

「はぁ?」

ツトムは真剣な顔で、「そうしたら私と戦えるだろう?」

(はぁ? 何を言っているんだ?)

呆れ果てるキョウスケは、「そんなことするわけないだろ」

「なぜ? そうしないとキミは私に殺されるぞ? いいのか?」

いいわけがない。だがキョウスケはきっぱりと、「私はやらない。だがキミに殺されるわけにはいかない」

「ならどうするんだ?」

「戦うんだよ」

「だから今のキミには無理なんだよ」と、 ツトムは呆れた調子で言う「だから私はキミに話をしているんだよ。あの子を殺せばいいじゃないか、何か問題あるのか?」

キョウスケは顔をしかめる。「問題……?」

「さぁ、キョウスケ、そろそろ決めようじゃないか。あの子を殺すか殺さないか」

「キョウスケ」

はっとして彼は隣を見る。

ポツサロがいて、「一瞬消えてたけどどうしたの?」と、不思議そうに彼に聞く。

(この子が“ABススアピーニクベ”の――)

キョウスケはふいにどきっとする。

と、彼はふと反対側を向く。ジュンもいる。

ほっとするキョウスケに、「さぁ、決めてくれ」と、彼の正面にいるツトムが促す。

キョウスケは相手に向き直り、

「私はキミを殺さずに倒す」

ツトムはため息をつく。「キミには本当にがっかりだよ。少しは面白い戦いになることを期待していたのに……」

その時、横から声がした。「なら問題ないだろう」

(この声は――)

見ると、やはりスギ――学生服姿――と、

(キミは!)

キョウスケはびっくりする。

スギの隣には彼と同年代の、 赤い髪――短髪――と服装――シャツ、ジャケット、ズボンを着た――の男子がいた。

(なぜ彼が――いやスギも――)

「スギ君、問題ないってどういうことだ?」と、ツトムは聞く。

「私達も戦うからだ」

(私達?)

と、キョウスケはまたびっくりする。

(彼も戦うのか?)

「戦うだと?」ツトムは怪訝な顔で聞く。

「そうだ」と、スギはキョウスケを見る「いいよな? キョウスケ」

「えっ? あ、ああ……どうして一緒に戦うんだ?」

「仲間だからさ」と、スギはさりげなく言った。

キョウスケは目を丸くする。「仲間?」

「そうだ。意外か?」

「まぁ……」と、キョウスケはスギの隣の赤い髪の男子を見る「キミも一緒に戦ってくれるのか……?」

戸惑いながら聞くと、相手はつまらなそうな顔をして、「しょうがないな、仲間の危機なんだから」

「な、仲間……?」と、キョウスケは呆然としながら言う。

「なるほど、仲間を助けるために共闘するのか」と、ツトムはスギ達のほうを見て言う「だがそのためだけに戦うとは思えないな。命令があったか?」

(命令?)

(なるほど、それなら理解できる)

(スギはまぁともかく、彼は――)

スギは、「命令はされていない」

(何!?)

「命令されていない?」と、ツトムは怪訝な表情で言う「……なら本当に仲間を助けるために?」

「もちろんそれだけじゃない。キミを危険な存在と認定して動いている」

「危険な存在だと? 何が危険だ? 少なくとも私はキミ達二人には何もしていないはずだ」

「ああ。だがキョウスケにはしている。それでキミを危険と判断した」と、スギは断言する「キョウスケは仲間だ。その彼を実験台にするなら私達もそのターゲットになるかもしれない。認定の理由はそれだ」

「ふっ、なるほど。いい理由だ」

「降参するなら今だぞ? 少なくとも私達二人はキョウスケのように甘くはない。キミの命を奪える」

「降参だと?」ツトムは顔をしかめて言う「調子に乗るなよ? キミ達ごときに私が負けるはずがないだろ?」

「こちらは四人いる。勝ち目はないぞ?」

「ふん、そんなこと関係ないさ、全滅させてやる。“ABススアピーニクベ”は全て消失するが――」

「キョウスケ! ジュン!」と、スギは鋭い声で相手を遮り、「“ABススアピーニクベ”を起動させろ!」

キョウスケははっとした。

その瞬間、

(“ABススアピーニクベ”起動!)

次の瞬間、ツトムは変わった。

それは見目みめ木製の、二メートルくらいの白くて丸い棒――横幅二十センチくらい――だ。

と、キョウスケがその姿を目にした途端、「キョウスケ、私がやる」と、赤い髪の男子は言った。

「あ、ああ」

戸惑いながらキョウスケが返事をした瞬間、赤い髪の男子は両手のてのひらを白い棒に向け、そこからネイビーブルーの光線を撃つ。

すぐさま光線は白い棒に当たる。

その瞬間、光線と白い棒が姿を消す。

勝利した。

それを確信したキョウスケに、「どうなったの?」と、ポツサロは戸惑いながら聞く「あの白い棒を倒したからキミ達の勝ちでいいの?」

「うん、それでいいんだよ」と、キョウスケは落ち着いて答える。

「そうなんだ、なんだかよく分からないけどやっぱりキミ達についてきて正解だったわ」と、ポツサロは楽しそうに話す。

「でも信じられないな」と、キョウスケは赤い髪の男子を見る「ジョー、キミが協力してくれるなんて」

赤い髪の男子――ジョーは肩をすくめる。「気まぐれさ」

(気まぐれか)

と、キョウスケは嬉しくなる。彼は微笑して、「ありがとう、助かったよ」

スギもありがとう、とキョウスケは付け加えた。

「間に合ってよかったよ」と、スギは言う「札幌にいてくれてよかった。でもどうして札幌にいるんだ? 道外へはどうしたんだ?」

キョウスケは答えずポツサロを見る。

「……どうしたの?」

険しい表情で見つめられ、ポツサロは不思議そうな顔をする。

と、キョウスケは険しい顔のままふいにスギを見る。

「スギ、話したいことがある」と、キョウスケは表情を変えずに言う「ジュン、ジョーにも聞いてほしい」と、二人の顔を交互に見ながら言った。

スギはうなずき、「分かった。なんの話だ?」と、促す。

キョウスケは深呼吸する。

そして真面目な顔をし、「私は――」


その日の夕方、札幌駅のホームに停車する特急列車の中で、二人の男は会話をしている。

「まったく驚いたな」と、窓際の男は言う「それでキミ達はどうするつもりなんだ?」

「もう判断は下っている」と、隣の男は答える「尊重することにした」

「尊重だって?」と、窓際の男は驚く「それでいいのか?」

「ああ、問題ないからな」

「そうなのか?」

隣の男はうなずく。「ちゃんと報告してくれたし、本人に不備がなかったからな」

「不備ないのか? その報告は想定外だろ?」

隣の男は肩をすくめる。「リトライが続いたんだ、そんなことはないさ」

「そうだな」と、窓際の男は苦笑して言う「なるほど、問題はないな」

「だがひょっとすると危なかったぞ?」

「うん?」

隣の男は落ち着いて、そのひょっとするとを話した。

「もしかしたら不備が発生するかもしれなかった」と、隣の男は続けて言った。

「なんでそんな真似を?」

聞かされ、窓際の男はぽかんとし、「それが理由?」

「そうだ。まったくいい迷惑だ」と、隣の男は呆れた様子で言う。

「でも、らしいな」と、窓際の男は苦笑する「私達には到底考えつかない」

隣の男も笑い、「そうだな」

それから窓際の男はあることを質問する。彼にとって興味深いことだが、

「聞いているが、つまらないぞ?」と、隣の男は答える「圧倒的だったからな」

「圧倒的?」

聞かされ、窓際の男はびっくりした。「彼も?」

「ああ。動いてくれたよ」

「信じられないな。どうしてだ?」

「報告によれば――」

「ふっ、彼らしいな」と、窓際の男は微笑して言う「なるほど、確かにそれはつまらないな。――しかし、よく尊重したな。ちゃんとした理由があったのか?」

「理由は聞かなかった」

「聞かなかった?」

「ああ、だが尊重する」と、隣の男は平気な顔で答える「問題ないからな」

「――ちょっと待て。お金はどうするんだ?」

「お金?」

話を聞くと、隣の男は答えた。「今まで通りだ。必要だろうからな」

窓際の男は微笑する。「いいね。――そういえば捜索のほうは?」

隣の男は肩をすくめる。「まだだ」


同時刻、彼に電話がかかってきた。

「もしもし。――そうですか、うまくいきましたか」彼は淡々と言う。

「ああ、ようやく本題に入ることができた。これでさらに面白くなる。キミが提供してくれたおかげだよ、ありがとう。――しかし、“アバナンニードワ”は――」

「はい、もちろんできますよ。足りないんですか?」

「うん、足りなくなった。だから本題に入るのに時間がかかった」

「残りはいくつですか? ――『壊れかけが一つだけ』ですか」

「呆れるだろう?」

「いいえ、平和で嬉しいですよ、私としては。――しかし、“アバナンニードワ”によって誰を――」

「それはだね、アサオカ君――」

「なるほど。――ではまた同数の“アバナンニードワ”を提供します」

「ありがとう。――キミもいずれ――」

「ええ、もちろん行きます。ではこれで」

と、彼――アサオカは電話を切る。

(壊れかけが一つか。さて、どうするか――)

(いや、それよりまずあれを――)


一週間後。

朝、札幌にある空港の出発ロビーにはキョウスケ――白いワイシャツ、白いジャケット、茶色いズボン姿――がいて、人を待っている。

「キョウスケ」と、少女――キョウスケと同年代。白髪はくはつのロングヘア。小柄。茶色い長袖ワンピースを着ている――は来た「待った?」

「全然」と、キョウスケは答える「ポツサロは?」

「トイレに行ったわ。――何?」

「えっ?」

「じっと見つめてくるから」と、少女は不思議そうな表情で聞く「どうかした?」

「ふとちょっと気になることがあってね」

「何?」

「うん、どうして“ABススアピーニクベ”を返却したのかなって」

「うん? 今更?」

「そうだな」と、キョウスケは苦笑して言う「答えたくなければ答えなくていいから」

「興味がなくなったからよ」と、少女はあっさりと答える「だから返却したの。私がいなくなっても問題ないだろうし。スギ君とジョー君の二人がいるんだから」

(興味がなくなった? なんでだろう?)

と、キョウスケが不思議に思った時、「ちょうどよかったわ、ありがとう」と、少女は言った。

「ちょうどよかった?」

「キミが前例を作ってくれたからよ。言いやすかったわ。――どうしたの?」

「ジュン、今まで色々とありがとう」

真剣な顔になっているキョウスケは、少女にお礼を言った。

少女――ジュンはふっと笑う。「なんかまるでお別れの挨拶みたいね?」

「お別れ? そんなわけないじゃないか?」と、キョウスケは不思議な顔をして言う。

少女は微笑する。「そうね」

そこへポツサロが来た。「二人ともお待たせ。キョウスケ、おはよう」

「ああ、おはよう」と、キョウスケは赤い長袖ワンピース姿の相手を見つめる。

「どうかした? キョウスケ」

彼は微笑して、「別に」

「さて! どこへ行く?」と、ポツサロは楽しそうに二人に聞く「やっぱり瀬戸内せとうちにする?」

「そうだな」と、キョウスケは笑って答える。

「私もそれでいいよ」と、ジュン。

「決まりね! 瀬戸内のどこにする? キョウスケ、決めて」

「私が?」

「うん、だって瀬戸内をオススメしたのキョウスケだし。知ってるんでしょ? 瀬戸内の魅力的な場所」

キョウスケはツトムと戦った。

西日本――瀬戸内を守るために。

もちろんそれだけじゃない彼に、「私もそれでいいよ」と、ジュンは言う「キョウスケが決めて」

キョウスケは苦笑して、「困ったな、本を読んでオススメしたけど、実際に行ったことがあるのは兵庫のほんの一部だから決めにくい」

「そうなの? じゃほとんど私達と同じね!」と、ポツサロは楽しそうに言う「楽しみね、瀬戸内」

キョウスケは微笑む。「ああ、そうだね」

(――やはり“ABススアピーニクベ”を返してよかった――)

「キョウスケ」と、ジュンが呼ぶ「瀬戸内の前にジンギスカンを食べに行かない?」

「ジンギスカン?」

「うん、しばらく北海道を離れるから」

「なるほど。うん、私は良いよ。ポツサロは?」

「私もオッケー!」

二人とも、いい店知ってる? とポツサロは付け加えた。

「私は知ってる」と、ジュン。

「ならそこにしよう」と、キョウスケは言う「二人とも、行こう」

「うん」

「オッケー!」

そして三人は歩み出した――


〈了〉

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