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心が読める少女の物語 序章【改】

今年、高校一年生を迎えた私――蓮見はすみ とおるには秘密がある。

 それは、人の心が読めること。

 

 今では、その力をコントロールすることもできようになったものの、幼い頃はそんなことはできず、そもそも不自然な状態だと気づかずにずっと人の心を読み続けているような状態だった。


 恐らく、少しでもボタンが掛け違っていれば、私の人生は大きく変わっていたはずだ。

 もしかしたら、化け物として、見世物として、そんなふうに扱われていてもおかしくはなかったのかもしれない。



 でも、幸運にも私は今でも普通の生活を送れている。

 多少の違和感は拭いきれるほどに賢い子として知られていたこと、そして、物心ついた時には両親が既におらず人の少ない田舎で祖母に育てられたこと、そのどちらかの要素が抜けていればと思うとぞっとする気持ちはあるけれど。


 







◆◆◆◆◆









≪ったくよー。ほんと、あのハゲ課長ムカつくわー≫


≪…………はぁ。明日、学校行きたくないなぁ≫


≪彼氏の誕生日プレゼント何にしようかな~≫


≪なんだよ、あの子。めっちゃ可愛いじゃん≫

 





 


 帰りの電車、読まなくてもいい人の心を読んでしまい嫌な気分になる。

 もちろん、これが悪い癖だというのはわかっている。

 でも、この身に集まりやすい悪意と欲望、そして、力のおかげで助かった経験から、防衛本能的に心を読んでしまうのを抑えきることはなかなかできなかった。


(…………別に、望んで手に入れたものじゃないんだけどな)


 客観的に見て、私が恵まれているということは十分理解している。

 恵まれた容姿、優れた運動神経に並外れた記憶力。

 

 文句を言ったら罰が当たるのはわかっているし、両親に貰ったこの体に感謝もしている。

 ただ、同性からの嫉妬や、異性からの欲望、それらの矛先になりがちなことには正直なところうんざりさせられていた。


(…………ほんと、嫌になるなぁ)

  

 胸や顔、それらに集まりつつある視線。

 そして、入り乱れる思考の波から目を背けるように本に視線を落とす。


 本は、好きだ。  

 書いてあることは不変で、どんな人が読んでも変わることはない。

 私の意志を無視して干渉してくることもないし、こちらの機嫌に合わせて媚びを売ってくることもない。


 それに、知識は力にもなる。

 元々、実家には祖父の趣味でたくさんの本が置いてあって、心を読めることが普通ではありえないことを教えてくれたのも本だ。


 これから、自分一人で生きていくことも視野に入れれば、知識を蓄えておくことは決して無駄にはならないだろう。

 

(みんなに言ったら、たぶん反対されるんだろうけど)


 数少ない大切な人達。

 本当に大事で、大事で、私の全てを使ってでも、守りたい人達。

  

 しかし、それでも――いや、だからこそ秘密は誰にも言えなかった。

 私の闇を少しも抱え込んでほしくない、明るい道を生き続けて欲しいと、そう思うから。

  

(……………………孤独は死に至る病。だとしても、私は)


 正解などない。

 振動を伝えてくる車内、私は自分の体が揺れ動くのを感じながら、思考の海にゆっくりと沈んでいった。

 

 







◆◆◆◆◆






 

 


 翌日のホームルーム、担任教師がようやく重い腰を上げ行うことになった席替えに、周りの気持ちはかなり高まっているようだった。

 


「ねぇねぇ。誰の隣がいい?」


「私はねー、狩谷君か篠崎君かなぁ」


「あははっ。めっちゃ面食いじゃん」


「しょうがないじゃん。だってあの二人カッコいいもん」


 

 近くの席から微かに聞こえてくる声に、共感の気持ちは全くといっていいほど浮かんでこない。

 正直なところ、面倒くさい人でないなら誰でもいい、そんな思いしか私にはなかった。

 

(…………男の子なら。あんまり、うるさい人は嫌だな)


 それこそ、ほとんど話さないくらいで丁度いいのだ。

 どうせ、仲良くする理由もないのだから。


(…………早く、終わるといいのに)


 やがて、自分の番となったことに気づいた私は、くじを引きに教卓の方へと向かった。








≪蓮見さんの隣になりたいなぁ≫


≪頼む!神よ、俺の近くに≫


≪もう俺の周り全部埋まってんじゃん。最悪≫






 

 面倒くさい心の声を努めて無視する。

 少しは私の気持ちも考えて欲しいと、そんな言うことのできない言葉を怒りとともに飲み込みながら。



「…………窓際最後尾ですね」



 引いたくじはある意味最高とも言えるような席。

 単純に囲む席が少なることもあるし、授業中に後ろから見られることもなくなる。

 あとは、右隣に唯一いる男の子だけが不安な要素だが、それは私が選べるものでもないので考えるだけ無駄だろう。


 

 


 そして、順番に席が動き始めると、やがて自分の決められた位置に机を移動させる。

 隣を一目見た感じは、ごく普通の男の子。


 大雑把に切りそろえられた短い黒髪。

 過度に着崩されていない制服と、欠伸をしている姿からはあまり、明るいタイプには思えなかった。

 


蓮見はすみ とおる。よろしくね」 


氷室ひむろ まこと。よろしく」


 

 それは、いうなれば作業のようなもので、よろしくするつもりはなかった。


 交わらないと思っていた関係。

 ただ、席が隣だったというだけの、薄い繋がり。 



 でも、それは間違っていたのだ…………幸運なことに。


 何故なら彼は、私を闇の中から救い出してくれる、素敵なヒーローだったのだから。


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