04 『邂逅』
笑いも収まった頃合いを見て、火迅帝が声を掛ける。
「すまんな、新帝。ガハハハ!つい愉快になってしまった。皆も適当に座ってくれ。」
抱えていた、地鳴帝・氷界帝を下ろす。
普通に着地をする地鳴帝と本人の中では大恥であろう、誤魔化す為に速やかに離れ席に着く。
そんな様子を見て、他の帝もそれぞれ席に座っていく。
すでに座っていた氷界帝の横に並んで座っていった為に、新帝は向かい合った席に座っていく事になる。
座り終えたのを確認した後に、満足そうに頷くと火迅帝が口を開く。
「えーゴホン。それじゃあ新帝の説明会も終わったんでな。ローブの配布、ギルドカードも渡した。
そこでだ、これからやって行く仲間として自己紹介と今後しばらくチームで動いてもらう事が増える事が予想されとる。
そこでツーマンセルに独自で組み分けをした物を全員に共有しておこうと思う。
では、最年長の俺から行こう!俺は火迅帝、火炎魔導単一式でSSSを保有しとる。
王からの命で帝のリーダーをしている。頭はからっきしだが、腕は多少の自信を持っとる!
ガハハハ、よろしく頼むぞ! ではと…次は地鳴帝だな。」
そうして座る地鳴帝に視線を向ける。てい
茶色のローブをバサッとはためかせ、立ち上がるとちょっと困ったように笑う。
帝になってまで、自己紹介を改めてする事ないに等しい。
世界に認知されて、帝という称号を手にした彼らには、久しく行なっていなかった事柄だろう。
しかし、眼前には硬くなる、新帝が緊張の面持ちで座っている。
これを解したいのだろうという、火迅帝の心意気も汲んでやらねば可哀想というものだろう…という事もわかっている為
立ち上がって、口を開く。
「おっ、俺かぁ?俺は地鳴帝。拳主体で戦う事が殆どの肉体系のアタッカーだ。地属性単一でSSSだ。
今回は俺の属性とマッチしてるって聞く、珍しい重力属性が新帝に居るって聞いてる。
組むかはしんねぇけど、楽しみにしてんぞ。」
そういうと、笑みを浮かべて拳を前に突き出す。
喋り終わると次はお前だろと促す様に、肘で横に座る男を小突く。
小突かれた青いローブを着た男、氷界帝はため息まじりに喋り出す。
「はぁ…年齢順か?氷界帝と呼ばれている…。
氷属性でSSSを保有している…。他に水の単一、水と氷の複合魔術も使える。
武器などは使わない…。」
小さく疑問を口にする。すでにめんどくさいと言わんばかりの口ぶりである。
座って腕を組んだ姿から、微動だにする事なく続ける言葉はまるで機械さながらの
メモを読んでいるかのような、簡潔で簡素な物だった。
横でうんうんと、無言で首を縦に振っていた地鳴帝が驚きの声をあげるまでに、そう時間はかからなかった。
「え!?終わったの!?今ので!?」
「あぁ…?」
何が悪かったのだろうか、そう言わんばかりの青年の顔には純粋な疑問なのだろう、怪訝な表情をしているのが見て取れる。
あちゃー…という小声と共に額に手を当てる地鳴帝を他所に、首を傾げる。
「もっという事あるでしょーが…。」
友人の発表会でも見ているかのような、弟の様子を見るかのような兄の様な、何とも言えないもどかしさが本人から伝わってきたのだろう。
バツが悪そうな顔をして、氷界帝はため息をこぼす。
「知るか…。自己紹介とか何年してねぇと思ってる…。」
数秒の無言の間が訪れた。
何とも喋り難い空気感、ただし喋れと言わんばかりの空気感も確かに存在している。
そんな中、間伸びした声がその場を占領した。
真っ黒なローブを着ている青年、闇極帝は椅子の背もたれに体を預ける形で話し出した。
「じゃあ次は俺だねー。闇極帝、闇の属性単一でSSS保有~…。
闇属性の魔力練度が強すぎて他のはからっきしだけど、視覚幻術とかが得意ね~…。
武器は魔剣。機会があったら見られるかもー…。」
背もたれに体を預ける…最早、頭が椅子の反対側にカクンと落ちていて、新帝から見れば
アゴや首しか見えていない事だろう。
言い終わると同時に手を軽く振る仕草をすると、力なく手をダランと下げ再び怠けた形に収まった。
苦笑をしつつ、緑色のローブを手で押さえながら、立ち上がって一礼し口を開く。
「じゃあ最後は僕が失礼します。
近年、入帝したばかりの風帝です。風属性の単一魔導でSSSを保有させて貰ってます。
一応、風属性を主として戦いますが、微弱ながら雷属性も持っています。
基本的には風単一と思ってください。得意なのは変速魔導です。皆さんと同じ年齢ぐらいでしょうし、よろしくお願いします。」
言い終わると同時にもう一度、礼をする。つられる形で、何人かは新帝がペコリと軽く頭を下げている。
彼の持つ柔らかい雰囲気のおかげか、先の二人の時とは打って変わって、空気感が穏やかに感じる。
少しばかり、緊張の糸が和らいだのを感じたのか火迅帝が話を進める。
「うむ、では次は新帝達、座ってる順にしよう。頼む。」
向かって一番手前に座る、灰色のローブを着た女性に目配せをする。
向けられた女性は軽く1度頷くと静かに立ち上がり、息を整える様子を見せる。
「本日より王都並びに王直々に選抜して頂き、新たな一員として共にする事になりました。重帝と申します。
重力属性単一SSSを頂きました。皆様にご迷惑かけないようにして行きたいと思います。よろしくお願いします。」
少々、緊張した面持ちではあったが自身が考えていた通り、問題なく話せた事に安堵の表情が見受けられる。
彼女達からすれば、つい先日まで雲の上の様な人達が目の前に並んだ特殊な状態。
自身の人生においては会う事は出来ないと思っている、伝説の上で聞いていた人達と相対し
その中に自分が入ろうとしているのだ。
彼女の緊張感は計り知れないだろう。
落ち着いて、座る。その瞬間にガタッと大きな音を立てて、先ほどの重帝とは正反対に乱雑に立ち上がり
自身の胸骨あたりをパンと手のひらで叩き、黄色のローブを着た少女が自信満々に喋り始める。
「私は雷帝!王都の魔導学院を主席で卒業してクイーンクラスに即時入隊したわ!
雷属性単一のSSSよ!魔族なんてササっと倒して、直ぐに私を認めて貰うわ!」
ふふん、と自慢げなのが見て取れる。外見を見ればマッチしていなくもない行動だが
歴戦である帝達からしてみれば、じゃじゃ馬が騒いでる程度で口を挟む程でもないのか、そのまま聞いている。
唯一、氷界帝の周りの体感温度が下がった様に感じる程度だろう。
その様子をわかってか、火迅帝が苦笑を漏らしフォローを挟む。
「ガハハ…!元気なのは良いが、ゆめゆめ油断せん様にな。では次は・・・。」
次の新帝へ、そう思った矢先に、ノイズ音とも言えるであろうキンキンとした高い声が響く。
DB計があれば、きっとすごい数値なのだろう。
瞬時に、闇極帝及び氷界帝の顔が不快に染まる。
そうとも知らず、そのクリーム色のローブを着た小さな少女【光帝】は元気に続ける。
「はいはーい!光属性単一SSSですっ!特技は元気!自慢も元気!得意なのは回復と閃光魔導とかが得意です!
よろしくおねがいしまーす!
あ、痛っ。頭ぶつけた!」
頭を下げる。その下げる勢いが強すぎて、綺麗に机に額を打つ。
一瞬で騒の様になる、特技が元気というのもみれば納得できるというものだろう。
氷界帝も闇極帝もため息を吐く。
(はぁ…うるさい。)
そんな事を思われているとは全くわかっていない光帝本人は、頭をぶつけた恥ずかしさからか
えへへ、と誤魔化し笑いを浮かべて座る。
座ると、横に座っていた水色のローブの女性が静かに立つ。
「初めまして。水帝です。水属性単一でSSSを頂きましたc。
水流式を主に使っており、得意な魔導でもあります…。海底都出身です。お願いします。
それと、氷界帝様、同じく水系統に精通する者としてご教授いただければと…。」
被せる様に、両断する声が凛と響く。
静かに、荒げる訳でもなく、ただただ静かな一言。
「…断る。」
「えっ…。」
一瞬の拒否に気圧され、疑問を浮かべる【水帝】を全く気にせずに、横に座るウサ耳の生えた少女が立つ。
「音帝。自国を守るためにやってきた…。音奏式でSSS保有…。ウサギの獣人族、よろしく…。」
全く空気を読んでいない様で、マイペースに話して座る。
氷界帝以上に簡素で短い自己紹介。
何故か地鳴帝だけ神妙な面持ちにも見える不思議な表情をしている。
(おぉ、これが空気読まねー系てやつか…。)
(こいつのこの顔…。また訳の分からない事を考えてるな。)
付き合いの長い氷界帝だからこそ、考えていそうな事が手に取るようにわかってしまったのだろう。
くだらない事を考えているのは、想像通りであろうことから、何なのかは聞かずに、再度新帝の方に顔を向ける。
自己紹介は取り合えず聞く気はあるようで、顔は真剣である。
「さてさて!自己紹介も終わったんだ。組み分けを言っていくぞ!これからは言われた相手と着いて任務に当たる事になる。そやつから色々教えてもらってくれ! まず、風帝、音帝。」
名を呼ばれた風帝は、緑のローブの裾を軽く整えながら背筋を伸ばす。新帝らしい緊張の残る面持ちながらも、柔らかな笑みを絶やさず深く頭を下げた。
「はい、分かりました。」
その隣で、音帝は白いうさぎ耳をぴくりと一度だけ動かした。表情にこれといった変化はなく、興味があるのかないのかも読み取れない、淡々とした声だけが返ってくる。
「ん……。」
短いやり取りに、火迅帝は気にした風もなく次へと視線を移す。
「次は、地鳴帝、重帝。」
呼ばれた瞬間、地鳴帝はブロンズのローブを揺らしながらニヤリと口の端を持ち上げた。組み合わせを予想していたのか、どこか得意げで、拳をコツンと胸に当てる仕草までしてみせる。
「来ると思ったぜ。」
対照的に、重帝はシルバーグレイのローブを纏ったまま、姿勢を崩すことなく一礼した。声音には硬さが残るものの、瞳の奥には安堵に似た色がわずかに滲んでいる。
「光栄です。」
豪快さと折り目正しさ、まるで対極にあるような二人の温度差に、その場の空気がふっと緩んだ気がした。火迅帝はそれを楽しむように喉の奥で笑い、続けた。
「闇極帝と光帝。闇極帝、主に諜報系についてを教えてやってくれ。」
呼ばれた闇極帝は、椅子の背もたれに体を預けたまま顔だけをわずかに動かす。気だるげに片手を持ち上げ、ひらひらと力なく振ってみせた。
「めんどくさいけどいーよー……。」
その気の抜けた返事を遮るように、光帝が勢いよく椅子を鳴らして立ち上がる。クリーム色のローブが大きく揺れ、ビシッと音が聞こえそうなほど綺麗な敬礼を決めた。
「よろしくお願いしまっす、闇極帝様!」
あまりの元気さに、闇極帝は半眼のまま小さくため息をひとつ漏らす。けれど反論する気力もないのか、それ以上は何も言わず、再び背もたれに身を沈めていった。
「次が俺なんだが、氷界帝。俺とお主は、水帝と雷帝の両方を見る。」
腕を組んだまま動かずにいた氷界帝が、そこでわずかに眉を寄せた。整った顔に微かな不満げな色が浮かぶ。
「あぁ……。ん? 両方……?」
「水帝をつけても良かったんだが……雷帝が2属性使えるか見極める。交互に付けていき片鱗があれば、お主に付ける。」
理由を聞かされた氷界帝は、特に表情を変えることもなく、感情の読めない声で短く頷く。
「そうか、了解した。」
予想外に素直な返事だったのだろう、それを聞いていた闇極帝が片眉だけをくいと持ち上げる。
「あれ? 嫌に素直じゃん?」
「あぁ……戦場の立ち方は教えるつもりだが、そこまで面倒を見てやるつもりはない。鍛えたければ勝手にやれ。」
抑揚のない声で言い放つと、氷界帝は腕をほどき、椅子を引く音とともに立ち上がった。コバルトブルーのローブが揺れる。
「もう良いな。俺は行くぞ。」
踵を返し、扉へと向かって歩き出す。だがふと、何かを思い出したように足を止め、振り返らずに低く付け加えた。
「あぁ、風帝。今日もやるなら後で来い。」
「あ、はい。分かりました。後でお伺いします。」
慌てて返事をする風帝の声を背に受けながら、氷界帝はそのまま部屋を出ていく。重く静かな音を立てて扉が閉まると、室内にはわずかな静寂が落ちた。
その様子を見送ってから、火迅帝は両手をパンと打ち鳴らし、空気を切り替えるように声を上げる。
「よし、後はそれぞれ、ペア同士で話をしてくれ。以上、解散!」
その号令を合図に、それぞれが立ち上がり、ローブの衣擦れの音と椅子を引く音が重なりながら、部屋は静かにざわめき始めた。




