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帰宅

 両親が病室に戻って来て、今後の流れを全員で話し合い始める。

「取り敢えず怪我は大した事無いみたいだから、明日にでも退院して問題無いって先生は言っていたけどどうする? 奏真が決めて大丈夫だって。」

 母さんの問いかけに少し考えてから返事をする。

「体はなんとも無いから明日退院しようと思う。」

「無理はしてないな?」

 父さんが心配そうに尋ねてくる。

 俺は少し口角を上げて軽く頷いた。


「奏真が良いなら先生にそう伝えておこう。

 警察もそれでだいじょうぶですか?」

「はい。奏真君の予定は本部に報告する事になってますが、警護は私の担当なので私に伝えておいていただければ問題はありません。」

「あの、学校とバイトは普通に行ってもいいですか?」


 学校には通わないと学生として本末転倒だ。

「もちろん、学校には通ってもらって構わないよ。

 ただ、バイトはオススメできないな。

 事件の発生時刻と同じ時間だと奏真君の危険性が上がってしまう。

 もちろん全力で守るけれど、リスクは高くなる。」


 確かに、いくら普通の生活をしてもいいと言われても、しばらくは用心しないといけない。


「それじゃあ、学校には通常通り通ってアルバイトはしばらくお休みさせて貰いなさい。

 お母さんもしばらくは日本に残るわ。」

「仕事はいいの?」

「今はパソコンがあればある程度は自宅で仕事ができるのよ。

 直接会う必要がある仕事は他の人にお願い出来るから大丈夫よ。」


 所謂リモートワークってことか。

「だけど全部を任せるのは難しくないか?」

 両親が顔を見合わせる。

「わかった。

二人とも抜けるのは厳しいと思うが、直接会う必要が出てきた時には俺が行こう。」


「父さん母さん、二人とも大丈夫?」

「大丈夫だって言ってるでしょ。

 奏真は心配する必要ないの。

 今は自分を第一に考えなさい。」


「とにかく、奏真は学校は通常通り通うこと。

 そして暫くはバイトはお休みさせて貰って、母さんと一緒に暮らすこと。

 俺も必要に応じで仕事に向かうけれど、なるべくは日本に居る。

 これで決定でいいな?」


 自宅に両親が居るのは少し安心する。

 赤坂を信用していない訳ではないけれど、やっぱり親が居る安心感と比べると見劣りする。

 今は頼る時なんだ。

「わかった。

 バイトは週末しか入ってなかったけど、暫くは完全に休ませて貰えるように頼んでみるよ。」


「学校には警察から連絡をしておきますので、安心して通ってください。」


 話はまとまった。


「奏真これ。」

 そう言って今度は美穂がノートを差し出してきた。

「今日までの授業のノート。

 まとめておいたから明後日までに目を通しておいて。

 学校内の事は私がサポートするから、心配しないで。」


「美穂さんがそう言ってくれると心強いわ。

 奏真、美穂さんの気持ちを無駄にしちゃダメよ。」

 母さんが冗談混じりで茶化してくる。


 そんな事言われなくても、しっかり勉強しますから。


「それじゃあ私も今日は帰るよ。

 明日は家にノート持って行く。」

「わかった。明日までにこのノートには目を通しておくよ。

 わからないところがあったら明日来た時に教えてくれないか?」

「いいよ、そのくらいのサポートならいつでも大歓迎。」


 周りの視線が気になるが、とにかくこれで元の生活に戻る為の準備ができた。

 殆どが周囲のサポートありきなんだけど。


「それじゃあお母さん達も一旦お家に帰ろうかしら。

 明日から久しぶりに家族全員での生活になるから、必要な物も買い揃えないと。」


「わかった。

 俺は美穂が持って来てくれたノートで少し勉強しておくよ。」

「それなら父さんが見てやろう。

 どれ、ノートを開いて。」


 ノートを持った父の手が止まった。

「母さん、買い物には荷物持ちが必要だろう?

 私が持とう。

 奏真ならそのくらいの勉強は自分で出来るな。

 なんたって父さんと母さんの息子なんだからな。」


 この親父ノートの問題絶対わからなかったな。

 誤魔化し方が下手くそ過ぎる。

「そうね、どうしても荷物が持ちたいなら一緒に帰りましょうか。

 美穂さんも一緒に帰りましょう。」


 なんだこの茶番は。

「はい、それじゃあ奏真、また明日。」

「ありがとう。また明日。」


 三人が病室を出て行くと、静かになった。


「すいません、うるさくて。」

「構わないよ。

 奏真君が元気になってきて嬉しいくらいだ。」


 その後は、美穂が持ってくれたノートで勉強を始めた。

 流石、優等生が書いたノートだ。

 授業を受けて無くても、先生が言ったポイントもメモされているおかげで勉強が捗る。


 この量をまとめるのは相当大変だったに違いない。

 本当、俺には勿体ないな。


「立花さん、夕食の時間ですよ。」

 看護師さんが夕食を持って入ってきた。

 いつのまにか窓の外は真っ暗になっている。


 急いでテーブルの上を片付けて夕食を受け取った。

 受験勉強していた時と同じくらい集中できた。

「俺も一緒に食べていいかな?」


 ずっと部屋にいた赤坂がコンビニの袋を持って問いかけてきた。

「もちろんです。

 一人だと寂しすぎますから。」


 二人で談笑しながら夕食をとった。

 昨日よりも打ち解けていたから会話が弾んだ。


 夕食を食べ終えると赤坂は交代の時間になったらしく、自宅へと帰って行った。


 赤坂と交代の警察官は、相変わらず会話が進まなかった。




 あっという間に消灯時間になったらしく、病室の電気が消える。

 普段ならまだ起きている時間だ。

 そう思いながらベッドで横になると、いつのまにか寝てしまった。



 翌朝目が覚めると既に病院には両親が揃っていた。

「おはよう奏真。

 母さん、退院の手続きしてくるからお父さんと荷物まとめておきなさい。」

 起きて直ぐに動くのは苦手なんだよな。

 母さんは足早に病室を出て行った。


「おはよう奏真。

 しっかり勉強したみたいだな。」

 昨日は逃げたくせに。

「美穂の持って来てくれたノートのおかげでとても捗ったよ。

 それに父さん達の息子だからね。」


 少し意地悪っぽく言ってみた。

「そうだろうとも。

 流石だな。」

 調子がいいんだから。


「早く荷物まとめないと、母さん戻って来ちゃう。」

「そうだな、急いでまとめよう。」


 二人で慌てて片付けを終えると同時に母さんが戻ってきた。

「丁度いいタイミングだったわね。

 それじゃあ、帰りましょうか。」

「外にタクシーを呼んでおいたから行こうか。」

「いつの間にタクシーを呼んだの?」

「父さんはできる男だからな。

 このくらい朝飯前だ。」


 母さんが笑ってる。

 さては仕込みだな。



 少し慣れ親しみ始めていた病室を出て病院の入口へと向かった。

 バイト終わりに帰ることが出来なかったら自宅に、両親とタクシーで帰宅か。

 今日も美穂がノートを持って来てくれるそうだから、それまでゆっくりさせてもらおう。


 外に停まっていたタクシーに乗り込んだ。

 助手席には赤坂が座りタクシーは走り出す。


 赤坂が運転手にルートを指定したらしく、事件現場を通らずに自宅へと向かった。



 自宅のある通りに差し掛かりスピードが落ちていき停車した。


 降りるとそこには、いつもと変わらない自宅が建っていた。

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