表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生魔王と騎士  作者: 如月文
第三部
112/112

魔王の特技は暗躍です。

 ミレーナがレイをジルフィートに預け、彼の元を去ってから彼女は戦場でエルディラ兵の傷を癒しに行った。そうすることでエルディラが勝機を上げ、愛する者と息子が平和な生活を送れるならばという考えの行動だった。

 しかしあまりに多くの負傷兵に、彼女の魔力は追いつかず枯渇寸前となってしまった。そして少しでも魔力を回復するためにと、彼女は人間に見つからないよう森の木の陰で休息を取っていた時、カサリと落ち葉を踏む音に目を開くと目の前にこの上ない美しい姿をした男性が立っていたという。

 異質な雰囲気を持つ男性の登場に彼女は身構えたが、彼の身の内より溢れ出る魔力に気付くとホッと肩の力を抜いた。彼は魔族だ。少なくとも敵ではないだろう。もしかしたら助力を頼めるかもしれない。彼の魔力の質と量を考えるに高位の魔族に違いない。自分に戦える力はないが彼にはある。もし助力を断られたとしても、ディウレウスに援軍を送ってもらうよう嘆願書を書いて彼に届けてもらおう。エルディラは大国だ。恩を売っておいても損はないと考えてくれるかもしれない。彼女は彼の存在にほんのわずかな希望を見出した。


『そこの御方・・・申し訳ございませんが私の頼みを聞いて頂けませんか?』


 疲労しきった体に鞭を打ち、必死に身を起こそうともがく。そんな彼女を男性はやんわりと押しとどめた。


『無理をしなくてもいい。君の思いは分かっている。エルディラを救いたいのだろう、ミレーナ?』


 男性の言葉にミレーナは目を見開いた。彼はどうして自分の名を?どうして自分の考えを知っている?僅かな疑念と警戒が生まれる。

 善意の塊、お人好し集団とも呼ばれる天使族でも、警戒心はある。先祖たちが繰り返してきた過ちを犯さないために、幼い頃から言い聞かせられた。少しでもおかしいと感じたら、決して気を許してはいけないと。それができない者は里から出る許可は与えられない。

 ミレーナの母親はエルディラ出身の人間であった。父が魔王陛下より密命を受けエルディラへと赴いた時、彼女と出会ったのだという。その話を聞いた時からミレーナは母の祖国を見てみたいという思いに駆られ、必死で猛勉強をし、希望していたエルディラへ派遣される諜報部隊の一員にまでなったのである。

 それなのに彼女は調査対象の一人である王弟ジルフィートと恋におち、彼の子供を産んだ。仲間たちはこれだから天使族は・・・とあきれた表情を浮かべたが、非難する者はいなかった。エルディラがディウレウスにとって敵対国とはなりえない事、彼女が王族と親しくなったおかげで情報が手に入れやすくなるかもしれないという考えがあったからだ。

 そして戦争が始まるという情報が入るやいなや、ディウレウスへ帰還するよう命令が下された。しかし、戦場に赴くというジルフィートの安否が気になりミレーナはその命に従う事が出来なかった。仲間たちはミレーナがどれだけジルフィートに思いを寄せているか知っているため、危なくなったら絶対に帰還することを約束させエルディラを去ったのだ。その結果がこれである。


『君の仲間から君の事は聞いているよ。』


 男性の言葉にミレーナは再び警戒を緩める。仲間から自分の事を聞いたという事はやはり彼は敵ではない。だが、この場にたった一人現れ、仲間も引き連れていない所を見るとエルディラへの援助が目的という訳ではないだろう。まさか自分を回収するために?


『私は・・・帰らないわ・・・』


 少なくともジルフィートとレイフォードが平穏な生活を送れるようになれるまで帰るつもりはなかった。命令違反だと罰せられても、ここで命を落としたとしても愛する者達を守れるならば彼女はそれでよかったのである。


『君に帰還を無理強いするつもりはない。そして君やこの国を見捨てるつもりも、ね。』


 どういう意味かと問おうと彼女が口を開こうとすると、男性の身の内より膨大な魔力が放出される。エルディラ陣営には癒しの力を、敵方には破壊の力を。直後、敵の陣営がある方角に雷鳴がとどろき、火の手が上がる。分厚く黒々とした雲から大粒の雹が降り注ぎ人々が逃げ惑う音と悲鳴が聞こえた。対してエルディラ方面ではいつしか怪我人が発していた呻き声が止み、辺りを充満していた血の匂いが消えていた。


『こんな・・・こと・・・』


 同時に破壊と癒しの魔法を使うなど聞いたこともない。ミレーナは目の前で起きた出来事に目を瞠った。一体彼は何者なのだろうか?もしや滅亡したという竜族の生き残りだろうか?かつて父は言っていた。自分と共に密命にあたった竜族はとてつもない力を持っていた、と。


『あなたは・・・竜族、なの?』


『いいや、残念ながら違うよ。』


 ならば彼は魔王の側近と言われている騎士なのだろうか?大精霊に選ばれし彼らは強大な力を保持していると聞く。ミレーナが再度問いかけるより先に、彼の方が口を開く。


『私は私のエゴでこの国を救った。ミレーナ、君の息子は魔族だね。』


『どうして・・・それを・・・』


 レイフォードが魔族として生まれてきたことはジルフィートにしか明かしていない。あの子がもし人間として生きたいと願う事も考慮して、彼の力を封じ、その上で彼の身に危険が及ばないよう守りの魔法も施してきた。魔族であることがばれないよう、ばれても身を守れるように。彼にかけた魔法はあの子が自分の力を超えるか、魔族としての生を選ぶかしない限りは解けないようにしてある。これから先、人間の国で暮らす息子の事を思っての魔法だった。


『君の息子、レイフォードは将来危険な立場に立たされ、重要な選択を迫られるだろう。』


『なっ・・・』


 彼女にとってそれは聞き捨てならないことだった。危険な立場?重要な選択?


『どうしてあの子が!?』


『彼は光の精霊に愛されし者。それが何を意味するか君にはわかるはずだ。』


『まさかレイが光の騎士、だと?』


 光の騎士はここ数百年空位のはず。稀にしか選ばれないというその地位を私とジルの子が?魔族と人間の間に生まれた子が?目の前の男性は無言でうなずいた。


『ではあの子をディウレウスに連れ帰らなくては!』


 レイフォードが光の騎士となる素質があるというならば、彼に魔族としての力の使い方や騎士としての在り方を教えなくてはならない。できれば我が子には平穏に生きてほしいというのが本音だが、光の騎士は希少な存在だ。それに、彼の素質を考えるならば早くても十数年後にはレイフォードの力は自分の力を上回るだろう。そうなれば自分がかけて魔法は解け、遅かれ早かれレイフォードは魔族として生きることを余儀なくされる。万が一力が暴走した場合人間であるジルフィートには止めることは不可能だ。

 しかし、目の前の魔族は首を横に振る。


『いいや、彼はこのまま・・・・彼が人間の国で成長することに意味があるのだ。そこに魔族は介入してはいけない。君も含めて、ね・・・。』


『そんな!』


『彼が魔族として生きること、光の騎士となること、これは全て彼が選ぶべき選択だ。私たちに強制はできない。もし彼が人間として生きることを選ぶのであれば、私が責任を持って彼の中にある魔力を封じよう。彼の身を守る為にも全てを封じることはできないから、不老長寿になるかもしれないが、光の騎士として危険に身を投じる必要はなくなる。』


『どうしてあなたがそんなことを・・・』


『全ては私が招いたことだから・・・私にはそれしかしてあげられないから、かな。君に願うのはただ一つ、彼がどちらかを選ぶまで彼と接触しない事。遠くで見守る分には構わない。君の安全は私が保証しよう。』


『あなたは一体・・・もしや・・・』


 まるで何もかもを見透かしているかのような瞳で見てくる男性の正体がなんであるか、一瞬頭をよぎり、彼女は必死でそれを打ち消した。まるで未来を見透かすかのような言動、騎士である可能性も考えたが、目の前の彼は、話に聞いた今代の騎士とは一致しない。闇の騎士、風の騎士であれば、魔族の理に反するようなことはしないはず。炎の騎士は魔法が不得手と聞いている。新たに騎士が誕生したという話も聞いていない。であれば残るは・・・


『へ・・・いか?』


 彼女の呼びかけに男性は肯定するかのように微笑むと一瞬にして姿を消した。まるで最初からそこには誰もいなかったかのように。

遅くなりまして申し訳ございません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ