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「いらっしゃいませ〜」
可愛らしい店員さんが迎えてくれたのは、ドレスや着物など衣装の貸し出しから着付けまでをやってる全国チェーンの美容院だった。
「ちょ、ちょちょちょっと待ってよ片瀬!何がどうなってんの…」
困惑気味の私を完全にスルーした片瀬は、にこやかに可愛い店員さんに話しかけている。
「俺と彼女に似合いそうな浴衣をレンタルしたいんだけど、お願いできる。着付けと彼女は髪のセットも。忙しい所、ごめんね?」
片瀬キラースマイル全開。
ああ、かわいそうに。店員さんが真っ赤になって照れている。
「も、もちろんです〜!さ、奥に衣装部屋がございますのでどうぞ。お客様は何でもお似合いになりそうですね!」
すっかりデレデレになった店員さんに連れられ、早々と奥へ行く片瀬。
すでに疲れたが、早く来い!と片瀬に呼ばれ渋々ついていった。
(この浴衣、すごくステキ…)
深い藍色を基調とした、白撫子の柄が美しく細やかに描かれた上品な浴衣だった。
半ば強引に浴衣コーナーに連れてこられた文乃だったが、浴衣を目にするとその不満は吹き飛び、着てみたい気持ちになる。大人になると、浴衣を着る機会も少なくなったため尚更だった。
文乃がじっと見ていた事に気がついた片瀬が側に来て、その浴衣を文乃にあててみた。
あてたきり、片瀬は何もいわないので、自分の性格とはまるで違う上品なこの浴衣か似合わないのではと、恥ずかしくなってきた。
「や、やっぱりこういう清楚で上品な浴衣は私に似合わないよね。違うの見ようかな!」
やんわりと自分から浴衣を離そうとした文乃に対し、片瀬は反対に浴衣を押し付けてきた。
「…似合ってるよ。俺は、お前にそれを着て欲しい。」
いつも女性にはスマートで、女慣れしている片瀬が、小さな声でぶっきらぼうに呟いた。
えっ、と思って俯いていた顔を上げると、既に彼は店員へ話しかけに行ってしまい、それ以上先ほどの意味を聞く事は出来なかった。
文乃が気に入った浴衣は、ペアの男性用浴衣もあると店員が教えてくれたので、片瀬もそれを選び、2人共浴衣が決まったところで、早速着付けとヘアセットに取り掛かった。
「お待たせ〜!ね、どう?似合う?」
着付けと、簡単なアレンジで浴衣に合うアップヘアにしてもらい、既に着付けを済ませていた片瀬に合流した。
壁に寄りかかって待っていた片瀬は文乃に気づくと、こちらまで迎えに来てくれた。
「よく似合ってるよ、馬子にも衣装だな。」
「馬子には衣装は余計です。でも片瀬も似合うね、普段の3割り増しにはなってるかな。」
3割も増したらかっこよすぎて大変なことになる、なんて言いながら2人で笑いあった。
(さっき聞いた片瀬の真剣そうな言葉はやっぱり聞き間違いだったかも。私達はこうやって冗談を気軽に言い合える友達だもんね。)
ふと、浴衣を当てた時に見せた片瀬の様子が気になったものの、気のせいだと思うことにして祭りの会場へ向かった。