第十一話―ダークエルフ―
お久しぶりです。
鬱蒼と繁った夜の森を一人の少女が走っていた。
――否。
正確には一人の少女が幼い少女を抱きかかえて走っていた。
少女は普通の人間ではなかった。
細過ぎる体躯は栄養が明らかに不足していて、着ている服も衣服と呼べない布切れで、胸や下腹部を申し訳程度に隠している粗末なものだった。そこから伸びる四肢は長くしなやかなものだったが、やはり骨が浮き出るほどに肉付きが悪く病的なほどに細い。その上、体の至る所に擦り傷や切り傷、さらには火傷の痕があり、それらを負った際に満足な治療が出来なかったのか、いくつかの傷痕は爛れたようになっていた。
しかし、それでもなお、少女は美しかった。
少女が普通の人間ではないのは傷痕のことではなく、彼女そのもののことだ。
薄い褐色肌、尖った耳、黒い髪。
少女はこの世界で最も忌み嫌われている種族――ダークエルフだった。
見た目は人間の尺度で測るならば十代半ばくらいだろう。
髪は切れ味の悪い刃物で乱暴に切ったらしく、邪魔にならないように短くしており、全身は至る所に傷痕があり、忙しなく揺れる黒瞳は自身が走る先に待つ希望を探すのではなく、後ろから迫る絶望から逃れる道だけを探している。
その少女に抱かれているのは、少女に目を閉じるように指示されてぎゅっと目を瞑り、まだ短い四肢を全て使い必死に少女にしがみ付く見た目には五歳くらいの、少女と同じくダークエルフの娘だった。
こちらの少女は鈍い光を放つ黒い髪を背中まで伸ばし、抱えて走る少女よりは服としての体裁を保っているワンピース型の粗末な服を着て、怯えて尖った耳を下向きに下げて震えていた。
「オラァァァっ! 待てこの雌ガキっ!」
「とっとと捕まえろ!」
「犬はまだかっ! さっささと放して追わせろ!」
後ろから野太い男たちの怒号が響き渡る。
その声と足音を聞いて、少女にしがみ付く幼女はビクっと体を震わせ、振り落とされまいとしがみ付く四肢に更に力を込める。小さな体ながらも生きるために必死に力を込める為、首から背中に回された手が少女の背に爪を立てて赤い引っ掻き傷が走って血が滲む。
それでも少女は苦痛に顔を歪めるようなことはなく、能面のように無表情を保って裸足で森の中を駆けていく。長く裸足での生活を続けていたため、足の裏は丈夫にはなっていたが、それでも鋭い石やゴツゴツとした岩を超える際に傷つき、既に足の裏は血だらけだった。
しかし、それでもなお、少女は顔色一つ変えずに走り続ける。
少女は後ろを振り返ることはしないが、長年に渡る経験と気配で追っ手たちの位置はまだ近くなく、追ってが持つ明かりくらいは見えるかもしれないが、矢を放たれるほどの距離ではない。
だから少女は一切後ろを見ることなく無心に走り続ける。
栄養の足りていない体であることもあり、決して速い走りではない。だが、少女は一切その速度を緩めることはしなかった。
たとえ足の裏が血だらけで次の一歩を踏み出す度に激痛が走ろうとも、繁った植物の間を通り抜けた際にしなった枝や鋭い枝がその身に新たな傷を生もうとも。
両腕に抱えた温もりを守る為ならば、少女は自分が感じるあらゆる痛みを乗り越える精神力を持ち、それ故に走ることを止めず、その速度すら緩めずに走ることができた。
後ろから追ってくる男たちの目的は単純明快。
連中の狙いは二人の命のみだった。
捕まえて下劣な行為に及ぼうという考えなども一切ないだろう。
男たちは少女たちを捕まえるために追っているのだが、そこに生死はあまり重要視されない。
生きたまま捕まえれば、宗教施設が弾劾の魔女裁判にかけて信仰心を集める為に火炙りにするため、生きたまま捕まえれば高く売れる可能性もあるが、基本的にダークエルフの死体が手に入ればそれには十分な懸賞金が支払われる。
よって、男たちは手に武器を持ち、つがえる弓の鏃には死に至る毒を塗り、間違いなく殺すつもりで二人を追っていた。
これがただの見目麗しい少女であるならば、彼らは捕まえて不埒な行為に及んでいたのかもしれない。だが相手がダークエルフであるならば、それは唾棄すべき呪われた毒婦であり、それがどんなに美しい少女であろうとも、この世界に生きるものであれば例外なくすぐに殺すだろう。
ダークエルフは世界の全てから拒絶された、呪われた種族なのだから――。
「犬がいったぞ!」
「笛を吹け! 手足はかまわんぞっ!」
少女の耳は男達の声と共に、人間とは違う四肢で走る動物の足音を複数感知した。
それを聞いて少女は目を忙しなく動かし、その人間よりも厄介な追っ手への対処方法を考える。しかしその思考は決して論理的なものではなく、むしろ野生動物の持つソレに近い。
だが少女はひ弱な体しか持たず、追う走狗から逃れる足を持つわけでもなく、真っ向から対峙する角や牙を持つわけでもなく、走狗が決して追ってこられない空へと逃げる翼を持っているわけでもない。
つまり少女は絶体絶命の危機に瀕していた。
犬たちはグングンと距離を縮め、少女の特徴的な尖った耳は背後から迫るテンポの早い足音と、獣特有の荒い呼気が迫るにつれ背筋に凍るような寒気が走るが、それでも少女は表情を変えることはない。
絶望的な状況など、もう数えるのがバカバカしいほどに乗り越えてきた。
絶望に震える夜を幾重も乗り越え、希望など一切持ち合わせない太陽が昇り、明るい陽光を避けて影から影へと、闇から闇へと流離う日々を過してきたのだ。
背後に迫る走狗が少女を射程圏内に捉え、飛び掛るために足に一際力を込めて地を蹴った瞬間、少女は自分に抱きついた幼い少女を抱きすくめると走った勢いをそのままに、斜め前へと身を投げ出した。
身を低く投げ出したことで、自分達の横合いを犬が涎を垂らしながら通過したのを確認しつつ、少女は投げ出した身を捻って位置関係を入れ替えると、自分が下敷きとなるように地面へと着地する。
体を最低限保護する衣服すらまともにない少女は、背中から着地し地面を滑る。浅黒い褐色の肌にあった幼女の爪痕を掻き消すように、地面と擦れたことで大きな擦り傷が生まれ、少女の背中はズタズタに裂けた。
「――っ」
痛みで呻きそうになる声を飲み込み、少女は腕にある幼い少女守る為に受身すらとらず、その背中を強かに地面へと打ちつけたことで肺から空気が全て吐き出され、横隔膜が衝撃に震えて呼吸すらままならない。
だが、それでも血の流れる背をそのままに上体だけ起き上がらせ、少女は左腕で幼女を抱えて震える右腕を頭上へと伸ばし、叫んだ。
「――――っ!」
言葉としての体裁を保っていない叫びは力だけを伴って解放された。
少女を中心に解放された魔力の波が放射状に流れ、少女を囲もうとしていた犬達を吹き飛ばして次々と昏倒させていった。
魔力解放時に大気を揺らした轟音も一瞬で過ぎ去り、森の中は静寂を取り戻した――かのように思えた。
少女が僅かに気を緩めると、背中の傷が急に痛みを訴えてきて咄嗟に背中へと右手を回すと裂けた皮から流れ出る血のベタリとした感触が手に伝わり、無造作に触れた瞬間に気を失いそう痛みに襲われた。
呻き声を殺しながら手を前へと戻すと、そこには赤黒い血に濡れた手があった。
そこで腕の中にいる幼い少女のことを思い出し、慌てて左腕に抱きすくめたピクリとも動かない存在へと目を向けると、幼い少女は気を失っていた。
少女よりは血色が幾らかいいものの、それでも栄養の足りていない丸みの足りない輪郭は痛々しい。その姿を改めて見る少女の目には、自身の傷よりも深い悲しみと悔しさが滲んでいた。
そこでようやく、少女は気づいた。
森は静けさを取り戻し、追っての男達が来る前に走り出さなければいけないはずなのに、そこに聞こえてはいけないはずの獰猛な狩人の唸り声が聞こえていることに――。
錆び付いたブリキの人形のように、少女がぎこちない動きで声が聞こえる方へと首を巡らせると、そこには倒れる犬たちから一頭だけ遅れて走ってきていた、重量のありそうな犬が口から涎を滴らせ、仲間がやられている状況に興奮しているらしく、血走った目で少女を睨みつけている。
その目には単純な敵愾心だけではなく、少女に対する作為的な憎悪が見て取れた。
この世界に生きる全ての存在が少女を――少女たちダークエルフを憎悪している。
だからこそ、本来であれば仲間が倒されている状況であるならば、主人である人間たちが来るのを待つことを選択するはずの経験豊かなはずの猟犬は、理性を忘れて少女たちへ牙を剥いた。
太く短めの四肢は森のような悪路を長時間走ることには向いていないが、それらを踏ん張らせての瞬発力は見事なほどに素早い。
涎を撒き散らしながら飛び掛ってくる猛獣を前に、少女はそれでも腕の中にもう一人の少女を力の限り抱きすくめると、自らの背を犬の方へと向け、これから訪れる死ぬまで続く激痛を想像して奥歯を噛み締め、決して悲鳴は上げまいと目を瞑った。
かなり大型の犬ということもあり、顎の力は相当なものだろう。肩に食いつかれれば、そのまま腕を引き千切られるかもしれない、背中ならば背骨をやられてしまうかもしれない、首ならば恐らくすぐに殺されてしまうだろう。
あまりに細く頼りない少女の命は一拍の間も置かずに食い千切られることとなる。
「――っ!」
「――……っ」
「……?」
いつまで経っても訪れない死の衝撃に固く瞑っていた目を開き、少女が後ろを振り返ると、そこには何かに怯えて耳と尾を限界まで垂れ下げて蹲って震える犬の姿があった。
いったい何が起こったのか分からず、ダークエルフの少女は呆然と地面に伏して震える犬を見ていたが、背後から迫ってくる追っ手の足音がすぐ近くまで来ていることに気づき慌てて立とうとして、それに気づいた。
最初に感じたのは視線。
次に感じたのは、静かなものでありながらも、森を一瞬で支配する圧倒的な存在感。
何故今まで気づかなかったのか不思議なほどに、それは少女の近くに在った。
総毛立つほどに感じる気配は、少女が今まで出会ってきた如何なる存在よりも巨大で正体が掴めない。
そんなものが自分のすぐ目の前に居ることが少女には信じられず、気配を感じ取ることには長けているという自負と、それによって今まで生き延びてきたという事実がある。
だが現にその身震いするような気配は、少女の僅か一メートル前ほどに存在し、少女は理解し難い恐怖で顔を上げることが出来ず、逃げることも出来ずにそこへ留まった。
「追いついたぞっ!」
「よし、逃がさないようにとっと仕留めろ!」
「なんだ、犬がやられ――」
追いついた男たちは走ってきたことと、憎むべき敵を追い詰めた高揚感に息と声を弾ませていたが、そこに在る謎の存在を前に言葉を失い、抱えていた高揚感も冷や水を浴びせられたかのように一気に醒めた。
「お、おい何だあれ……?」
「分からん……分からんが、やばいものな気がする」
「ダークエルフのガキが目の前に居るんだぞ? とっとと――」
『去れ』
それは周囲の音全てを奪い去った。
たった一言発しただけで、周囲に居る男たちは無論のこと、鳴いていた虫や木々の葉が擦れる音さえも、その一切が呑みこまれて消え去った。
静まり返る周囲を他所に、少女は縫い止められたかのように地面を見つめていた視線をゆっくりと上げていった。
最初に見えたのは黒曜石の冷たい質感。円柱状の台座部分はよく磨かれており美しい光沢を放っていた。その先に見えたのは、鋭い爪であり、鱗に包まれた四肢であり、適度に広げられた翼であり、長い首であり、鋭い牙を覗かせながらも虚空を見つめる黒いドラゴンの石像がそこにあった。
無論それは最初からそこにあったわけではなく、今発せられた言葉からもそれがただの石像ではないことは明白だった。
少女の背後では男たちがたじろいでいた。
石像が纏う雰囲気は明らかに尋常ならざるもので、既に大部分の男たちは及び腰で周囲にいる仲間の様子を窺っていた。
それでもすぐに退かないのは、ダークエルフは死体ですら国によっては報奨金が出されるからだ。そこに大人や子供の区別はなく、どんな非力な存在であろうと世界の仇敵であるダークエルフならば、持ち込む国によっては低いリスクで大金が支払われるのだ。
『今一度言う、去れ。ここより先は我が仮初の領地。理由なき侵犯は看過できぬ』
その言葉と共に、男達の中で唯一じりじりと少女との距離を詰めていた男が手にしていた剣が急激に熱を持ち、驚いた男が慌てて剣を取り落とすと、剣は一瞬にしてまるで打ち立てのように真っ赤になり、その熱気に周囲の草が燃え上がる。
「う、うわぁぁぁぁっ!」
「逃げろっ化け物だっ!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
石像から放たれる威圧感と損得勘定との均衡は、燃え立つ剣によって急激に恐怖へと傾きそのまま男たちは恐慌に陥り全員が元来た道を引き返していった。
その様子を背中で感じながらも、少女はその石像を見上げていた。
街になど行けば命はなかった少女は、いつも痩せた森や荒野を巡り生きてきた。そんな少女だからこそ、目の前に映る黒い石で作られた石像が今まで見たどんなものよりも美しく見え、目を奪われていた。
少女がじっと石像を見つめていると、動くはずのない石像の眼がギョロリと動いたような錯覚を覚え一瞬体を硬直させる。実際には石像の眼は動いたりはしていないのだが、そこから放たれる視線が少女に向けられているのは確かで、少女は石像越しに注がれる視線から目を離すことができず固まってしまった。
「……」
この地上に住まう如何なる種族よりも過酷な運命を背負わされた種族でありながら、その目は澄んだ色をしていた。生まれた時から虐げられ続けながらも、その怨禍のあまりの深さ故に何かを呪うことすら出来ない――何を呪うべきかも分からないほどに絡まり合った幾条もの怨嗟の鎖。
その運命の中に囚われながらも、少女は生きることをやめなかった。
『――』
何も言葉を発することなく、石像は僅かに浮き上がると向きを反転させると森の奥へと進み始めた。それをジっと見つめていた少女は、腕の中で眠り続ける幼い少女の顔を見つめると、意を決したようにフラつきながら立ち上がり、重く遅い足取りながらも石像の後を追って歩き始めた。
歩き出すと森はすぐに勾配を持ち始め、いつしか山道となっていた。
その山へと足を踏み入れた途端、少女は強烈な違和感に襲われた。その違和感の正体にはすぐ気づいたものの、それが何故なのかが分からず、同時に落ち着かない様子で周囲を見渡していた。
「――っ、――っ」
傷の痛みと出血に加えて、軽いとはいえ幼い少女を抱えたまま歩き続けることは、今の少女にとっては過酷なもので、その息は次第に上がっていった。
木々の中を歩く内に、周囲にいつの間にか夜行性の動物達が集まり始め、好奇心に光る目を少女たちに向けて静かにその動向を見守っていた。
そんな無害な視線にも居心地の悪さと若干の恐怖を感じ、少女が足を速めようとしたときに地面に張り出していた木の根に躓いてしまった。
「――っ!」
先ほど追っ手の犬を避ける時と同様に、幼い少女を抱えていることから受身を取ることすらせず、少女が体をかろうじて捻って自分の肩から地面に倒れようとした時、その体が地面に倒れきる前に空中で静止した。
何が起こったのか分からずに目を白黒させながらも、届く距離に見える地面に片腕を着けると、自然と両膝が地面へと接地した。そして前方へと目を向けると、先に行ってしまったとばかり思っていた黒いドラゴンの石像が、少女を待つように木々の先に在った。
少女は自分で立ち上がり、再びその真っ直ぐな視線を石像へと向けると、石像はまた山の奥へと少女を導くように動き始めた。その背を付かず離れずの距離を必死に追いかけてくる少女は、次第に背中の痛みが薄れていくような感覚に陥る。背中を空いた手で触ればそこには穿たれた生々しい傷と血の生温かな感触がヌルりと伝わってくる。しかしそれでも、一歩ごとに気を失いそうなほどに感じていた痛みを今はかなり鈍いものとなっていた。
血を流し過ぎておかしくなってしまったのかもしれない、と少女は長年拒否し続けてきた死を間近に感じながらも、遠ざかることもなければ追いつくこともない黒い石像の背を必死に追った。
心の何処かであれは死神なのかもしれない、と思い始めていた。そして同時に『死の神があれほど美しい存在ならば、命を取られてもかまわない』とすら思って後を追っていた。
蒼い月が空高く昇る頃になって、少女は山の中腹と山頂との中間付近にある木々のない広場へ出た。そこ付近は綺麗に景観が整備され、周囲を見渡すと木々の向こうに無数の墓標のようなものの影が見えた気がして、少女は小さく息を呑んだ。
そんな少女の姿を尻目に、石像は広場の山側にある巨大な洞窟の脇でクルりと反転するとその場に鎮座した。するとそのままピクりとも動かなくなり、少女が恐る恐る近くまで行くとその石像には先ほどまで感じていた意思のようなものがなくなっていることが感じられ、暗に道案はここで終わり『後は己の意思で進むかどうか決めろ』というものだと感じられた。
立ち尽くし考える少女は目の前の洞窟を見つめる。
山腹にぽっかりと開いた横穴には灯りなどなく、流れ出てくる空気は僅かな湿気を含んだものだが、少女が何度となく遭遇してきた魔物の巣窟のような生臭い獣臭さはない。
ダ-クエルフの特性として夜目は利くはずなのだが、洞窟の奥の闇は濃く少女の目では入り口から僅かな空間しか見えはしなかった。それでも獣や山賊の根城にしては、床も壁も天井も全てが補修工事でも行ったかのように綺麗なものだった。辺境に棲む魔族の根城に誤って侵入した時ですら、ここまで状態のいい場所ではなかったほどだ。
「……」
少女が後ろを振り返ると、そこには何処までも広大な『世界』という名の暗黒が広がっていた。日が昇ろうと沈もうと月が昇ろうと沈もうと、朝も昼も夜も少女にとって世界は等しく闇の中だった。
――どうせ世界の全てが敵だというのなら、足と意思の赴く場所へと進みたい。
そう思った少女は一歩を踏み出そうとした時、自分が自分一人ではないことを思い出し、腕の中で眠る幼い少女に視線を落とした。
ここで進むも戻るも少女だけの意思となる。
だが、この自分よりも更に幼い少女を一人置いていくのは嫌だった。
この小さな存在が少女から『孤独』という病を取り去り、どうしようもなく朽ち果てつつあった心を癒してくれた唯一無二の存在だったのだから。
だからこそ少女は幼い少女を抱く腕に力を込めて抱きすくめ、この先何が待ち受けていようと決してこの子を独りにせず一緒にいようと心に誓い、もう一度足を踏み出した。
世界から絶対的な拒絶を受ける呪いに見舞われし一族の娘が二人、その運命を大きく変える存在と対峙するために、自らの足で魔窟へと踏み入った。




