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真由からはしつこいくらい連絡が来た。ラインも電話も。あまりしつこいので、ブロックと着拒した。もう話すことはないのだから。
学校で話しかけられても返事をしなかった。
「真由が話しかけてるのに無視? 逆ギレ。信じられなーい」
ゲラゲラとキラキラたちが笑う。
無視を続けていたら、そのうち話しかけて来なくなった。
優香は卒業するまで、誰とも一言も口を利かなかった。
それは家でも同じこと。
母親が「いつまで拗ねているの。いい加減にしなさい」と怒ったけれど、いい加減にするのはそっちのほうだ、と優香は思った。わたしは拗ねていない。娘の口から真実を聞くことをしないで、噂を信じたあんたが悪い。
地元の国立大学を受験する予定だったが、東京の私立に志望校を変えた。偏差値は十分だ。もちろん合格した。
古いけれども手ごろな家賃のアパートを借りてもらい、卒業式を待たずに引っ越した。もちろん卒業式には出なかった。出る必要がない。
それっきり家には帰っていない。
大学に入って環境は一変したけれど、もう誰かを信用する気にはならなかった。仲良くなったって、どうせまた裏切られる。
だったらはじめから仲良くならなければいい。
そんなスタンスが決まってしまった。
優香が一線を引くせいか、みんなも一定の距離を保つ。
学食のランチ。空き時間の暇つぶし。当たり障りのない話。それ以上は決して踏み込まない。踏み込ませない。
もちろん学校が終わったら一切の交流はない。
それでよかった。
ただ、やっぱり同じ高校から来た子がいたわけで。しかもあの同じクラスから。
それが桜だった。
桜は優香と同じモブ女子。背景に紛れてひっそりと生息している子だった。
「立花さん、この大学だったんだね」
話しかけられた時には当然警戒した。
「あの話、信じてないから」
桜はまず初めにそう言った。
「みんな信じてないよ。助けなくてごめんね。あの人たち怖かったから、逆らえなかった」
正直びっくりした。みんな、あの噂を真に受けていると思っていたから。家族でさえ噂を信じたんだから。
逆らえなかった、ということばにもムッとはしたが、わからなくもない。目立ったら次は自分かもしれないし。
「もういいよ」
それだけ返事をした。わかったからと言って、仲良くできるものでもない。
その封筒が届いたのは、秋も深まったころだった。
アパートの郵便受けに、たくさんのチラシの中に淡い水色の封筒が一通混じっていた。明らかに異質な封筒。あて名はたしかに自分だ。
なんだろう?
ひっくり返して手が止まった。
野村真由。
あれ以来、口を利くことも目を合わせることもなかったあの真由だった。
なんで今頃。
せっかく忘れていたのに。
思い出したらのどの奥から苦いものがこみあげてきた。
話すことなんてない。聞くこともない。手紙なんて必要ない。
どうやってこの住所を知ったのか。知っているのは実家だけだ。まさか、実家に聞いたのか? なんで今さらそこまでする?
ないない。必要ない。
優香はその封筒を開けることなく、くしゃりと握りつぶすとゴミ箱へ放り投げた。
そして年末。もうじき冬休みに入る。学内では帰省の切符が取れた、取れないの話が盛んである。優香には関係ない。母親からは「いつ帰るのか」と何度か連絡が来たが、返信はしていなかった。必要ない。どうせ帰らないのだから。
そんな浮ついた空気の中「立花さん」とこっそりと桜が声をかけてきた。桜とは着かず離れずの関係を続けていた。
なにか、言い淀んでいる。
「なに? どうしたの?」
優香も辛抱強く待つつもりはなかったので、せっついた。
「あのね、野村さんなんだけど」
ぴきっと空気が凍った。また? なんなの? この間から。まだ邪魔をするのか。優香はイラついた。それを感じたのか桜はあわてて言い足した。
「えっとね、地元にいる友だちから聞いたんだけど、野村さんね、亡くなったんだって」
そのことばの意味を理解するのに、少し時間がかかった。
亡くなった?
え? 亡くなったって、死んだってこと?
「自殺だって」
わけがわからなかった。なんで、どうして。一軍のトップでおもしろおかしく生きてたのに。どこへ進学したのか知らないが、あの子ならどこでもトップに君臨するだろうに。
「原因がわからないみたいで。立花さんは……。知らないよね」
「知らない」
つっけんどんに答えたら、桜は慌てたように「だよね。じゃあまたね」と言って走っていった。
あの手紙が来てから一か月しかたっていなかった。
あの手紙になにが書いてあったのか。自殺の理由? わたしにどうしてほしかったんだろう。慰めてほしかったのか。止めてほしかったのか。
今さら? あんな目に合わせたのに、どの面下げて。
わたしが返事をすればよかったのか。
わたしが返事をしなかったから死んだのか。
わたしが返事をしたら死ななかったのか。
ずるい。これではわたしが悪者じゃあないか。
手紙は捨ててしまった。
もうわからない。
それ以来、真由は優香の心の中に居続けている。
忘れることもできず、なかったことにもできず、思い出したくもないのに何かのはずみに浮かんでくる。のどに刺さった小骨みたいに。
自分はもう関係ないはずだったのに「おまえのせいだ」と責められている。
そっちはそっちで一軍グループで楽しく過ごしていたじゃないか。
いつまで付き纏う。
こっちこそ「おまえのせいだ」と言いたかった。




