表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/36

第一話 規約違反者、再起動

初投稿です。

出来るだけ定期更新出来るよう励みますのでよろしくお願いします。

真夜中。

煌々とした白い光に満たされた部屋で、石田康生は三枚のモニターに向き合っていた。

「よしよし、来たな。因縁のGM」

中央の画面には、オンラインゲームの自キャラが映っている。

見た目だけなら、よくあるファンタジー系MMOだ。

鎧を着たキャラクター。

魔法陣のエフェクト。

やたら眩しいスキル演出。

課金アバターで着飾ったプレイヤーたち。

だが、康生が見ているのはそこではない。

左のモニターには、流れ続けるコード。

右のモニターには、自作アプリの処理状況。

机の上には空になったエナジードリンクの缶が三本。四本目は、まだ半分ほど残っている。

画面右上に、赤い警告が出た。

――管理権限によるアカウント制限処理を検出。

康生は口の端を上げた。

「今日は何分持たせられるかなあ」

机の端に置いていたエナジードリンクを、合図のように勢いよく置く。

缶が軽く跳ね、キーボード横で止まった。

次の瞬間、アカウントロックの処理が走る。

「来た」

康生の指が、キーボードを叩き始めた。

遮断。

迂回。

偽装。

遅延。

管理側から飛んでくるロック処理を弾き、逸らし、時には欺く。

自作アプリの表示は、防衛フェーズから変わらない。

「相変わらず殺意高いな、このGM」

言いながら、康生は笑っていた。

まともなプレイヤーなら、とっくに諦めている。

そもそもまともなプレイヤーは、こんな画面を三枚も並べて、運営の監視AIと殴り合ったりしない。

康生はチートをしていた。

言い訳の余地はない。

規約違反である。

だが康生にとって、もはやゲーム本編より、このGMとの攻防の方が面白かった。

最初は、ちょっとした出来心だった。

ドロップ率をいじる。

移動速度を少し上げる。

クールタイムを誤魔化す。

それだけのはずだった。

だが、すぐに見つかった。

そして、それを検出したGMの対応が妙に速かった。

最初は人間だと思っていた。

しかし何度も攻防を繰り返すうちに、康生は気づいた。

これは人間じゃない。

もっと機械的で、もっとしつこくて、もっと容赦がない。

それでいて、学習している。

前回通じた手は、次には通じない。

こちらの癖を読んでくる。

わざと隙を見せて、逆に釣ってくる。

気づいた時には、康生はそのGMとの戦いにのめり込んでいた。

「よし、そこは読んでた」

ロック処理の一つを偽装データへ誘導する。

その隙に、康生は逆方向へ探りを入れた。

管理側の処理経路。

アクセス元。

検出ロジック。

その奥にいるはずの、因縁の相手。

「顔くらい見せろよ、監視野郎」

自作アプリの負荷率が跳ね上がる。

黄色。

橙。

赤。

「クソ、今日も劣勢だな」

額から汗が垂れた。

室内は冷房が効いているはずなのに、やけに暑い。

右の画面で、警告表示が赤く点滅する。

――防衛フェーズ限界。

――隔離領域侵食。

――アカウントデータ保護失敗率、上昇。

「やっべえ」

康生は舌打ちした。

このままだと、アカウントごと持っていかれる。

キャラデータも、攻防ログも、全部消される。

それは困る。

キャラが惜しいわけではない。

それ以上に、このGMとの攻防ログを失うのが惜しかった。

「せめてログだけ――」

康生は急いで保存処理を走らせた。

画面に、保存ゲージが表示される。

一パーセント。

三パーセント。

七パーセント。

その間にも、管理側の処理は迫ってくる。

「待て待て待て、せめて十秒待て」

康生はキーボードを叩き続けた。

十一パーセント。

十八パーセント。

二十六パーセント。

――管理権限による最終隔離処理を検出。

「は?」

中央のモニターが、一瞬だけ真っ白になった。

その白の中に、文字が浮かぶ。

――規約違反者、石田康生を確認。

――最終処理を開始します。

「名前呼ぶなよ、怖いだろ」

言った瞬間、すべての画面が消えた。

部屋の音が消える。

冷房の音も、PCのファンの音も、エナジードリンクの缶がわずかに震える音さえも。

世界そのものが、一瞬で遠のいた。

「……は?」

そこで、意識が途切れた。

     *

次に目を開けた時、康生は動けなかった。

視界は白く霞んでいた。

手足の感覚がない。

喉も動かない。

いや、喉どころか、自分が呼吸しているのかどうかも分からない。

「……」

声を出そうとした。

出なかった。

代わりに、どこか近くで機械が空気を吐き出す音がした。

プシュー。

何かが開く。

密閉されていた空間に、外気が流れ込むような音。

視界の白い霞が、少しずつ薄れていく。

まぶしい。

天井が見えた。

知らない天井だった。

「……どこだよ」

今度は声が出た。

かすれていたが、確かに自分の声だった。

康生は起き上がろうとした。

だが、身体がうまく動かない。

遅れて、感覚が戻ってくる。

腕。

足。

指先。

首。

全部ある。

ある、はずだ。

だが、妙に軽い。

「なにこれ……病院?」

目の前には、透明な蓋のようなものが開いていた。

自分は、白い棺桶のような装置の中に寝かされている。

病院にしては、機械が多すぎる。

研究所にしては、人の気配がなさすぎる。

そして何より、部屋が古い。

壁のあちこちに亀裂が入り、床には薄く埃が積もっている。

だが、装置だけは生きていた。

低い駆動音が、床下から響いている。

「……夢?」

康生はゆっくりと上体を起こした。

その瞬間、視界の端に文字が浮かんだ。

――人格ログ起動確認。

――構成体安定率、八十一パーセント。

――外部支援端末、未構築。

――状況説明プロトコルを実行できません。

「待て。説明できない理由を説明するな」

康生は半透明のパネルを睨んだ。

「ここどこだよ。俺は何された。まずそれを言え」

――対話用インターフェースが存在しません。

――外部支援端末を構築してください。

「だから、その外部支援端末って何だよ」

画面が切り替わる。

――外部支援端末アバターを設定してください。

人型の素体が表示された。

康生はしばらく黙って、それを見た。

「……つまり、説明を聞くために、まず説明役の見た目を作れってことか?」

――肯定。

「最悪のユーザーインターフェースだな」

顔、髪、身長、体型、服装。

項目がやたら多い。

康生はしばらく無言で見つめた。

「いや、何これ」

――対人インターフェース効率の最適化に必要です。

「効率って便利だな……」

康生は周囲を見回した。

誰もいない。

逃げ道も分からない。

そもそも、自分がなぜここにいるのかも分からない。

なら、とりあえず画面に従うしかない。

「えーっと……顔の造形を設定してください、か」

康生はタッチパネルに指を伸ばした。

素体の顔が拡大される。

輪郭、目、鼻、口、眉、耳。

細かすぎる項目がずらりと並ぶ。

「細かく設定できすぎて悩むわ……」

輪郭を少し変える。

目元を調整する。

鼻筋を整える。

口元を少しだけ柔らかくする。

「いや、別に好みとかじゃないからな」

誰も聞いていないのに、康生は言い訳した。

「対人インターフェースだろ。威圧感を減らすためだから。合理的に考えて」

次の項目に進む。

――髪の色と髪型を設定してください。

「髪……肩上、黒髪だな。長いと邪魔そうだし」

前髪を調整する。

「……何を真剣にやってんだ、俺」

次。

――身長と体型を設定してください。

康生の指が止まった。

「身長……高すぎると目立つし、低すぎても不便か。じゃあ、このくらい」

素体の身長を調整する。

次に体型。

康生は無言になった。

「……これ、本当に必要か?」

――対人インターフェース効率の最適化に必要です。

「本当か? 本当に効率か?」

画面には、さらに細かい項目が並んでいた。

康生は眉間を押さえた。

「え、なに、胸のサイズまであるのか……」

しばらく悩んだ。

「……Cだな」

入力した瞬間、康生は天井を仰いだ。

「違う。これは違う。平均的な……いや平均か? 知らんけど、動きやすさと視認性のバランスだ。そう、バランス」

確認ボタンが点滅する。

――この設定で外部支援端末を構築しますか?

康生は固まった。

戻るなら今だ。

今ならまだ、人として引き返せる。

そう思って、もう一度画面を見た。

自分で設定したのだから当然だが、かなり好みだった。

「……」

康生は無言、確定を押した。

床下の駆動音が大きくなる。

空気中に、銀色の粒子が舞い始めた。

「うわ」

粒子は床から、壁から、装置の隙間から湧き上がるように集まっていく。

それらが、人の輪郭を作り始めた。

足。

脚。

腰。

胴。

肩。

腕。

指先。

そして、顔。

黒い髪が揺れた。

肩上で切りそろえられた髪。

整った顔立ち。

少し冷たく見える目元。

数分前まで画面の中にいたものが、現実の空気を押しのけて、目の前に立っていた。

康生は息を止めた。

「……やべえ」

完璧だった。

完璧に、自分の好みだった。

だからこそ、最悪だった。

少女はゆっくり目を開けた。

その瞳に、感情らしいものはなかった。

ただ、何かを確認するように康生を見つめている。

「外部端末構築完了」

「……あ、はい」

少女は一歩、康生に近づいた。

「私は、AdaptiveOversightIntelligence」

淡々とした声だった。

「適応監視知性、A.O.I.です」

「え」

康生は、その名前に聞き覚えがある気がした。

いや、名前そのものを聞いたことはない。

だが、その冷たい言い方。

その無機質な確認口調。

まさか。

少女は、表情を変えないまま言った。

「規約違反者、石田康生を確認」

康生は頭を抱えた。

「第一声それかよ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ