第十五話の4 仮面の男と
涼しげな笛の音色があたりに響き渡った。
次の瞬間、エレーヌはきょとんとした顔をして立っていた。
「母さん、どうしたんだ、母さん!」
クロードが大声をはりあげる。
エレーヌはそちらを見た。
「誰だいこの男どもは」
「ごろつきですよ。あなたの家を襲撃しようとしていました。それをこのジャン君が教えてくれて」
仮面の男が説明する。
エレーヌはジャンを見て「なんていい子なんだい」と抱きしめた。
「さすがは私の息子だね。さ、今日も仕事で疲れただろう。暖かい食事があるよ」
「ありがとう、母さん」
二人は連れ立ってエレーヌの家に入っていった。
「ど、どうなってんだよ…」
クロードがぽかんと口を開けた。
「どうやらキミ、見捨てられたようですね。本当に愛想をつかされてなければこんなことにはなってないんですが」
すっとぼけた仮面の男の口調にクロードは「ふざけるな!」と声を上げた。
「ご近所さんの迷惑になるから静かにしてくださいね」
しい、と仮面の男が人差し指を口にあててみせた。
そう言いながらも不思議と、周辺の家では明かりのつく様子はなかった。
「お、俺らを憲兵に突き出そうってのか」
「無駄だぞ。何もしてないからな」
ごろつきどもはこういったことには慣れているのか余裕の表情であった。
「…お前たちからは血の匂いがする。今まで多くの命を奪ってきたな」
ごろつきの一人が、それがなんだというように、べえと舌を出した。
仮面の男はもう一度横笛を吹いた。
4人の男はたちまち小さな木の人形となり、地面に転がった。
それを拾い上げ、木札をかざして兵をひっこめると仮面の男は歩き出した。
「最近人手が足りなかったですからね。重畳重畳」
翌日からショーが盛大に開催され、押し寄せた人たちは大いにそれを楽しんだ。団員の中にクロードがいたが、街の人間で誰も、彼の存在を知る者はなかった。
「はい、チケットね!」
聞き覚えのある声に仮面の男は振り返った。
エレーヌとジャンだった。
ジャンは嬉しそうに「母さん、早く入ろう」と声をかけている。
以前とはうってかわって上質な、やぶれたところのない服を身に着けていた。
スキップしながら歩きだした拍子に、ナナメにかけていたカバンからハンカチが滑り落ちた。
「もし、落ちましたよ」
仮面の男はそれを拾い、ジャンに差し出した。
「まあすみません、うちの子が」
「おじさんありがとな!」
「団長です。…ここの」
「団長さん、ありがと」
「失礼します」
頭をさげて二人はテントの中に入っていった。




