第十六話の1 ゲネプロ
ギィ、ギィ
さあ始まるよ。
見世物小屋が始まるよ
お代は見てのお帰り
喝采、喝采
「アタイをさあ、この街にいる間だけでもそっちのショーで雇ってくんない?」
「ほへ?」
荷馬車のハシゴに足をかけた姿勢のまま仮面の男は横を向いた。
赤髪にショールをかぶり、褐色の女性がにこにこと立っていた。
健康そうな体にまとった薄めの衣装は、どうしたら自分が魅力的に映るかをよく熟知しているかのようであった。
「ああゴメンねいきなり。アタイはヨル。世界を旅して歩く流れの歌姫さ」
「ああ、そうなんですね」
「これでもちょっとは知られてるんだよ」
「はあ」
気ののらない仮面の男の受け答えにヨルは不満そうな表情をちらと見せたが、すぐ笑顔に戻り「ショーの一幕で歌わせてほしいのさ」と言った。
「もちろんタダで構わない。そして、ショーが終わったあと個別にお客さんとやり取りしたいからその場所を貸してもらう代わりに金は支払うよ」
「変なことに使わないでくださいよ?」
「何を想像してるんだい! アタイは簡単な星詠みもやっててそっちのほうが実入りがいいから客相手にしたいだけさ」
じゃあそういうことで、とヨルはパンと手をたたいた。
「一日に3回ショーをやるんだろ? アタイは夜の回にだけ出させてもらえればいいから。そんでアタイの稼ぎの2割をそっちにってことでどうだい」
「わかりました。団員にもそのように伝えておきます」
仮面の男は懐から紙を出してさらさらと何かを書いた。くるりと裏返してヨルに見せるようにする。
「契約書です。今言ったことと、客から法外な料金は取らないことを契約にしてますよ」
「準備がいいねえあんた。気に入ったよ」
ヨルはタルを下敷きにしてさらさらとサインした。
「では」
仮面の男がどういう魔法を使ったものか、紙は2枚になりその片方をヨルは受け取った。
「便利なもんだねえ、魔法ってのは」
「ヨルさんの星詠みは魔法ではないのですか?」
「あたしのは半分インチ……ああ、まあいいんだ」
ヨルは書類を大事そうに折りたたんで、胸から下げていた小さな革袋にしまった。
「そんじゃ明日の昼くらいにくるよ。ショーの雰囲気も確認しておきたいし。よろしくね」
「わかりました」




